10話目 デート。翻弄する義妹
「それで、どういうつもりですか?」
「うぐぅ、ううう・・・・・・・・・!」
先輩と別れてわりとすぐ、俺は義妹に締め上げられていた。
それも物理的に。尋常ではない握力でギリギリとされているので、呼吸さえままならない。
一体いつの間に琴乃はこんなにたくましくなったんだろう。ついこの前はツナの缶を開けることさえできないほど貧弱な握力だったのに。
あ、だめだ意識が。
「恋人のメッセージにも返信しないで恋人以外の女性に鼻の下を伸ばしていることに対してキチンとした理由があるのでしたらどうぞ。好きなだけ喋ってください」
無理。喋れない・・・・・・・・・。
ただ無様に君の手にタップをすることしかできない・・・・・・・・・!
「こ、琴乃・・・・・・・・・ギブ・・・・・・・・・ギブ・・・・・・・・・!」
なんとか伝えると、首元が楽になった。それと同時に膝から崩れ落ち、地面に突っ伏する。
はぁ、酸素が美味い。
「それで? どういうつもりですか?」
あ、まだ続くんだ。
「あ、あれは先輩と偶然会って、それでマッサージをしてもらってただけで・・・・・・」
「えっちなマッサージですね」
「違う!」
「は?」
「あ、いえ。違いますですはい」
つい敬語になってしまう。でも、それくらい琴乃には逆らえない迫力がある。
ともかく、それから俺は琴乃に弁当の件について説明をした。それで琴乃は段々と落ち着きを取り戻していく。といっても基本的に無表情なのでわかりにくいけれど、さっきまでの琴乃は無表情な怒り。今の琴乃は不承不承とした無表情だ。
「なるほど、そういうことですか。兄さんを驚かせようとしたのがまさか裏目に出てしまうなんて」
「そ、そうだよ! 最初から言ってくれてれば変に誤魔化さないですんだのに! どうしてくれんのさ!」
「は?」
「あ、いえごめんなさい。せめて事前に教えていてほしかったかな~~って」
「まぁ、私のほうにも多少の落ち度があったことは認めましょう。しかし、それを差し引いても兄さんのほうが酷いです。浮気です」
「浮気って・・・・・・・・・俺達偽装だし、兄妹だし」
「は?」
「あ、いえなんでもないです」
だめだ、逆らえない。
「そもそも兄さんが最初から周囲に恋人ができたと説明しておけばすんだ話だったでしょう。友人やクラスメイトや先輩や先生や両親や」
それはそう―――ってちょっと待った。おかしいだろ。先生と両親はまずいだろ。
「それについては、ごめん。俺もついうっかりしていた」
「反省していますか?」
「うん、してる。いえ、してますばっちりです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「明日、学校で改めて説明する」
「・・・・・・・・・では、一つお願いが」
「お願い?」
「・・・・・・・・・き、と」
「え?」
胡乱げだった琴乃が、少しだけ変わった。モジモジしだして赤くなっている。まるで恥じらっているようだ。
「好きと言ってください」
「ええ・・・・・・・・・」
「明日クラスの友達に聞かせるんです。彼氏から愛の言葉を伝えられているという証拠を聞かせれば、より信じさせることができますし」
「証拠って、どうやって?」
そう尋ねると、琴乃は携帯を取り出した。そして素早く録音機能をONにした。ええ、マジで? 俺義妹に愛を囁くの?
あ、でも言わないとだめだなこれ。目からまた光が消失していっているし。瞼も上がってきている。
「好きだ、琴乃・・・・・・・・・」
うわあああああああ! 誰か俺を殺してくれえええ!
恥ずかしい! もう発火してるんじゃないかってくらい熱い羞恥心がとまらない!
「~~~~~~~~~!」
沸騰したヤカンがたてるような音かとおもった。声にならない悲鳴とはきっとこのことを言うんだろう。ともかく琴乃はそういう風な声をあげると、林檎のような真っ赤っかになってしまう。
そんな琴乃は俺から見ると、まるで喜んでいるようでおもわずドキッとしてしまう。
「け、けっこうです。次のバリエーションは家に帰ってからでいいので。今回はこれで許しましょう」
「あ、ああ。ありがとう―――――ってあれ?」
次のバリエーションってなに?
「では気を引き締めて。デートと行きましょう」
「あ、うん。それより次のバリエーションって?」
琴乃は俺の質問には答えず、ここに来たときと同じように貝殻繋ぎをしてきた。さっきとは打って変わって優しく柔らかい感触に、またドキッとする。
「そ、それでデートって、具体的になにするんだ?」
「そうですね。やはり恋人らしい定番のところがいいとおもうのですが」
恋人らしいところか・・・・・・・・・。学生だし時間的にも余裕がなくて行くところはだいぶ限られてしまう。無難にゲームセンターとかウィンドウショッピングとか、喫茶店とかがいいだろうか?
付き合ったばかりなら、それくらいのスタートがやはり良いだろう。
「ところで、どこに向かってんの?」
「ラブホテルですが」
「まさかのロケットスタート!?」
びっくりした。まさか琴乃の口からラブホテルなんて単語が出るなんておもわなかったよ。というかあれ? いつの間にか周囲にそれっぽいホテルがチラホラと。
「ちょっと待て琴乃! 流石にラブホテルはまずいだろ!
「ちっ」
また舌打ちした。偽装恋人になってからちょくちょく琴乃が舌打ちしているような気がするな。
「第一なんでラブホテル!? 付き合って間もないって設定なんだろ!?」
「それくらい愛しあっているという証になりますし」
「それは・・・・・・・・・そういう考えもあるかもしれないけどさぁ! じゃあ琴乃の知り合いにそういう子いるのかよ!?」
「います(大嘘)」
「マジかよ!!」
「ええ。もう一週間に九回は行っている子もいますし(推測)」
「た、爛れてる・・・・・・・・・! 爛れてるよ今の高校生!」
「兄さんも今の高校生でしょう」
「だ、第一俺達学生服だし! 入れないだろ!」
「学生服だと入れないんですか? なんでご存じなんですか?」
「痛い! 握力弱めて! 目の光も消さないで! それっぽい話を聞いたんだよ! とにかく! ラブホテルはダメ! 健全なところにしようよ!」
「ちっ」
「今舌打ちしたよね?」
それから不満げな琴乃を説得すること数十分。なんとかホテル街を抜けだしてゲームセンターに行くことが決定したのだった。
ゲームセンターに到着した途端に懐かしさを覚える。昔よく来ていたからだろう。琴乃も同じなのか、若干興奮しているようにきょろきょろそわそわしている。
「じゃあどれで遊ぶ? エアホッケーと太鼓の達人よくやってたよな?」
「それもいいですけど、レーシングゲームかシューティングゲームのほうが良いのでは? 兄さん好きでしたよね?」
「覚えてたのか?」
お互いに好きだった筐体を挙げていき、そのまま空いているほうのから優先してやることになった。久しぶりだからか違和感があるけど、やっていくうちにドンドン思い出していく。体が覚えているのかな。
「あ、ああ! あああああ! しゅんしゅんまずいです! やられます! 私やられてしまいます! ああ、う!」
誤解を招きそうな言い方だけど、琴乃はシューティングゲームでライフが0になりかけていた。チラッと琴乃を見ると、つい吹きだしてしまう。
「ちょ、笑ってないで助けて――――ああああ!」
そうしている間に琴乃はゲームオーバー。倒されてしまった。それで一気に俺の負担が増し、敵が殺到する。なんとか奮戦するもすぐに倒されてしまった。
「もう、一体なにをしているんですか。恋人が自分以外の存在に滅茶苦茶にされているというのに」
その言い方だと、俺が寝取られフェチみたいじゃね?
「ごめんごめん。ついな」
「つい? まぁもういいです。じゃあ次は私のゲームに付き合ってもらいます」
そう言うと、琴乃は俺の手を引っ張って太鼓の達人へと向かった。さっきとは打って変わって俺よりテクニカルな腕前を発揮する。逆に俺はリズムゲーが苦手なので、琴乃に負けてしまう。ふぅ、やりきったぜ。そんな顔の琴乃に、また俺は吹出しそうになる。
「兄さん?」
「ああ、悪い悪い。じゃあ次はなにをやる?」
「そうですねぇ。次は―――――」
きょろきょろしていた琴乃だが、ある一点を見つめてしまったまま視線が動かない。
「クレーンゲームしたいのか?」
「いえ、別に。そういうわけでは」
チラッ。
「あのクレーンゲームの商品はぬいぐるみですし」
チラッチラッ。
「高校生にもなってぬいぐるみをほしがる人なんてあんまりいませんし。どちらかというと抱き枕のほうがほしいですし」
チラッチラッチラッチラッチラッチラッ。
「口ほどに物をいう目だなぁ! もういいよ! 行くぞ!」
「あ、ちょっと兄さん!」
焦れったくなって、今度は俺が琴乃を引っ張って行く。やりたい欲しいっていうのがバレバレだ。
「じゃあプレゼントってことにさせてくれよ」
「プレゼント?」
「ああ。恋人が彼女にデートでプレゼントって、それっぽいだろ? それもクラスメイトとか学校の奴らに言えば、より説得力あるんじゃねぇの?」
「それはそうですけど・・・・・・・・・・・・」
「だから、俺が欲しいのをプレゼントするよ。ことのん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・まずい、恥ずかしくなってきた。
冷静に考えると、ゲーセンのぬいぐるみをわざわざプレゼントって言い方するのいきりすぎてない? しかも最後のことのん呼びなんだよ俺。
琴乃も黙りこんだままだし、もしかして、気持ち悪かった? あらいやだ。めっちゃ恥ずかしくなってきた。
「そ、それで。どれが一番良いっておもうんだ?」
「え、えっと。じゃああのちいかわのを」
そんなかんじで若干ギクシャクしながら、クレーンを操作した。
まだ恥ずかしさが消えていないから、何度か失敗したけどなんとか店員さんに移動してもらわなかった。ちいかわ、ゲットだぜ。
それから少し休憩することになり、飲み物を買って椅子に腰掛ける。他愛ない雑談を交しているだけだけど、なんだか居心地が良い。
考えてみれば、つい最近までこんな時間持っていなかったんだよな。なんだかんだで琴乃と一緒にいると楽しいし、話も合う。最初はどうなるかとおもったけど、偽装恋人の件は、俺達の関係性にとっては良い影響を与えてくれるのかもしれない。
「そうだ。兄さん。ちょっとこの子との写真を撮ってください」
「ん、ああ。わかった」
携帯を取り出そうとしたけど、ぬいぐるみをぎゅっと抱き締めている琴乃を見て、つい吹きだしてしまう。
「兄さん?」
「いや、ごめん。えっと、じゃあ写真撮るぞ――――――ん?」
携帯を取り出したとき、ふとメッセージアプリのアイコンが目に入った。どれくらいのメッセージがきているかっていう数もわかるんだけど。
百件越えてる・・・・・・・・・。
「兄さん? 撮らないんですか?」
「うん、撮りますね」
もしかして、琴乃かな?
そうおもったけど、聞かないことにした。
「はいじゃあいくぞ」
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。
「まさかの連写ですか?!」
「気に入ったのあったら選んでくれ」
「もう、兄さんてば。それにしても、さっきからよく吹きだしていましたけどなんでですか?」
「? ああ。大した理由はないんだけどさ。昔を思い出しちゃってさ」
「昔?」
「琴乃、よくゲームしてるときはああいう体の動きしてただろ?」
敵の攻撃を避けなきゃいけないとき、体を左右に振っていた。
よくよく考えたらレーシングゲームでもテレビゲームのコントローラー操作でも、琴乃はそういうかんじだったのだ。
太鼓の達人をして高得点を出したときのリアクションも、子供のときと同じだったのだ。それでつい微笑ましい気持ちになってしまった。
「なんだか懐かしくなってさ。変わってないんだなって。それで」
「むぅぅぅぅ・・・・・・・・・」
「痛、ちょ、なんで突っついてくんの?」
「むぅぅぅぅ~~~!」
「肋骨と肋骨の間を的確に 貫き手で突き続けるのやめて!」
「兄さんが悪いです」
「なんで!?」
「知りません。兄さんの馬鹿」
むくれたような反応を示し、プイッと俺と逆のほうを向いてしまう。怒ったんだろうか?
でも、どうしてだろう?
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