1話を読んで
導入部の緩やかな日常描写は、読者を中学生三人の無邪気さに自然と同調させる。その軽さが、突然の断崖へと転じる瞬間をいっそう鋭く際立たせている。とりわけ、床の崩落と絶叫の場面では、行間に走る緊張が見事で、映像よりも鮮やかに迫る。
語り口は落ち着いており、情景説明も端的ながら厚みを持つ。廃墟の埃や窓から射す光といった小さな描写が、のちの衝撃的発見を支える舞台装置となっている。読後に残るのは「ただの肝試し」ではなく、「世界が不意に反転する感覚」だ。
物語はまだ序章であり、ここから広がるであろう人間模様と記憶の闇に、読者は自ら進んで迷い込むことになるだろう。