第47話 阿修羅と僕



「阿修羅、いるんだろ?」



——黒月、余計な事を


俺は、悠を救出後、

意識だけは繋いだままにしていた。



「出てこい。悠に、話してやれ」


仕方がないな…


善子は、作業中だ。今なら大丈夫だろう。

俺は腕を組んだまま目を閉じて、



悠の前に顕現した。




「いつから居たの?」




悠は、俺を見て嫌そうな顔をした。



——当然だよな




「攫われた後から」


俺は、意識を繋いだタイミングを教えた。


その答えに、悠は顔を顰めた



「ずっとかよ…阿修羅、黒月から聞いたよ」


悠は、呆れた後、俺を真っ直ぐ見つめた




「ああ、見ていた」




——済まない


俺は心の中で謝った。




「最初から僕を使うつもりだった?」


悠は、俺に静かに尋ねた



「ああ」


仕方がなかったんだ…




「生まれた後、一度も会いに来なかった?」


悠は、伺うように俺を見た。


仕方がなかった…



「ああ」


悠は、頷くと、グッと拳を握った

覚悟を決めたような、そんな仕草だ。



「来れなかった?来たくなかった?」


悠は、ハッキリと俺に質問をした。


——そんな事聞いてどうする




「来たくなかった」


悠が、目を伏せた。


——言いたくなかった




「どうして?」


悠は、視線を逸らしたまま尋ねた



「神は一人に執着してはならないんだ」


——これはただのいい訳だ


悠は、また、真っ直ぐこちらを見た。




「見たら特別扱いしちゃうから?」


悠の眼差しに、俺は怯んだ。



——隠せないな




「…ああ。隠せる自信はなかったな」


——忘れさせた後の、善子の目が辛かった


悠は、ふぅ、とため息を吐いた



「母ちゃんにバレたらどうなるの?」


悠は、眉根を寄せて、困った顔で聞いてくる


色々考えているのだろう



「俺と共に、消滅する。それが掟だ」


共に消えるのも悪くないと、思った事もある




「悪用されないの?」


さすがに消滅する事には驚いたようで、

悠は、他者からの横槍を心配している



「俺が言わない限り、その事に関して、善子には届かない様に結界が張ってある」



——問題は、俺だけだったよ



「もう、対策済みなんだね?」


悠は、ホッとしたみたいだ。



「そうだ」


何かあったら、悠が1人になってしまう。

善子がそれを許す訳がない。



「今は、隠し通せるの?」


——今は…もう慣れたな



「もう、大丈夫だ」


——大丈夫だよ



悠は、大きく頷いた後、ニヤっと笑い



「阿修羅、器の母なんだから、母ちゃんを大切にするのは当たり前じゃないか?」


と、言ってのけた。


俺は、何を意味しているのか分からず、

思わずキョトンとした。




「俺と母ちゃんに、掟があるから名乗る事は出来ないんだろ?」


悠は、指を立てて、俺に確認をする



「ああ」


名乗る事も、自ら知らせる事も無理だな



「口にしなきゃいいだけ?」


——どうだろう?


悠の父が神である事を

俺が口にしなければ大丈夫な筈だ。



「そうだな」


——寂しくはあるがな




「なら、名乗らずに近くにいればいいよ」


にっこり笑って、悠は俺に提案した




「ダメだ!俺は神だ。特別扱いは出来ない」


——執着は良くない



「帝釈天は、僕を近くに置こうとしたよ?」


悠は、ダメなの?と首を傾げた。



「それは…」


——意味合いが違う



「自分の神器を手元に置くのは、普通じゃない?それも特別扱いなの」


悠は、器をそばに置くのは

ごく当たり前の様に言っている


——確かに?




「言われてみればそうか?」


先程、「器の母を、大切にするのは当たり前」と、悠に言われた。



——確かに、普通の事だ



俺は、想いが強すぎて、善子に纏わる事は、

全て特別扱いと感じていた。



——考え過ぎていたようだ



俺の肩の力が、スッと抜けた。



悠は、俺の変化を感じ取ったのだろう

にこにこしながら



「母ちゃんが強すぎるのは、もしかして阿修羅が憑依してたから強かったの?」



と、無邪気に尋ねて来た。



——聡い子だな



俺は、自分が父だとさえ言わなければ、

普通に対応して良い事を、



悠のおかげで改めて知る事が出来た。




「いや?善子は俺が居なくても強かったぞ」


俺の気分よくなり、悠の質問に答えて

善子の話をする事にした。


悠は、ワクワクしながらこちらを見ている



「善子は、優しい女だったけど、神社は継がせないと言われてから、少し荒れたんだ」



—-あの時の暴れっぷりは凄かった



悠は、悠が荒れた理由を知り、

善子を不憫に感じたのだろう。



悲しそうな顔をしている



「この時の俺は、まだ神力が弱ってたんだ。だから、初めは見ていただけだったぞ」



悠は、納得して頷いている



「ジジイと口論になり、毎日イライラしてたから、ヤンキーに良く絡まれてたよ」


あの頃の善子は『触るな危険』だった


悠は、想像が付いたのか、苦笑いだ



「片っ端から潰して歩いたら、いつの間にか、最強のヤンキーになってたな」


悠は顔を青くして、小さくなった。



——ケンカ中の善子は、まるで鬼だったな




「母ちゃん伝説は、阿修羅は知ってる?」


悠は、善子の『伝説』を尋ねて来た。



「伝説?何の事だ?」


何か特別な事など、あったか?




俺が悠に尋ね返すと



「母ちゃんが学校の屋上で喧嘩して、4階から落下したのに、ちゃんと着地した話」



——ああ、それは



「それは俺が抱き止めて着地したな」


俺が答えたら、悠は納得して頷いた。





「じゃあさ、バイクに乗っていた時ダンプカーにはねられたのに無傷だったのは?」



——無茶苦茶な運転をしていた時だな



「それはぶつかる直前に抱きしめて、バイクを蹴って、歩道に着地したはずだ」


悠は、顔を引き攣らせながら頷いた。


悠は、俺をじっと見つめている。




——何だ、まだあるのか?




「サスペンスドラマにあるような、断崖絶壁で、突き落とされたけど泳いで帰宅…は?」



——ああ、そんな事もあったな



「それは、着水前に抱きしめて落ちたな、でも、岸まで泳いだのは善子だぞ?」


あの時は、善子を包む為に、

腕が沢山あって良かったと思ったな



悠は、ガックリと肩を落とし



「だからかー」



と、つぶやいていた。



「何だ、何か不都合があったか?」


俺が尋ねたら




「母ちゃん、不死身だと思われていたから、僕は軟弱なのに、色々期待されたんだよ」



悠は、不服そうに口を尖らせた。


確かに人として、やり過ぎたか?




「伝説は、全部阿修羅のせいかよ、母ちゃんを助けてくれたのはありがとうだけど…」



悠は不満を感じながら、礼を言う



——善子に良く似てるな



俺は少し嬉しくなった




「伝説は、僕には全くもって迷惑だったよ」


そう言って、悠はため息をついた。



——気持ちは分かるぞ



「悠、だがな?キッカケは全て、善子が自ら招いたんだ。俺には止められなかった…」


遠い目をした俺を見て



悠が



「うん、お疲れ様」


と、肩をポンと叩いてくれた。




俺は、当時の気持ちを理解されて

叫び出したい気持ちになった。








阿修羅は、言えなかったけど、悠が気づいてくれたのが嬉しくてたまりません。でも、言えないからちょっとジタバタしちゃいます。


次回、男の約束 です。


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