第41話 それぞれの立場
羅刹を追い払った後、玄関先の結界内に入ると善子の中から出た。
「おう、やっぱりその女の中に居たのか」
夜叉はそう言って、俺に近寄ると
俺の肩に腕を乗せて、周りと距離を空けて
「阿修羅、あの器はもしかして…」
と、悠の事を尋ねて来た。
夜叉に適当な事を言えば、
余計にあちこちで詮索するだろう
「黙れ、お前には関係ない。余計な事を言ったら潰すぞ」
俺は夜叉の疑問を、一切否定せず、
口止めだけをした。
「マジかよ、絶対に言わねぇよ怖ぇよ」
夜叉は理解し、俺と約束をした。
「あー、じゃあ、とりあえず今度呑もうや」
そう言って、夜叉は消えた。
きっと、呑む時は絡まれるだろう
少しウンザリした気持ちになって
部屋の中に入って行ったら
黒月と汛が、
後から慌てて部屋に入って来た。
「阿修羅!悠が、拉致られた」
——なんだと?
俺が振り返るより早く、
善子は黒月に掴み掛かり
「何でよ!アンタら黙って見てたの!」
と、噛みついている。
俺は善子を引き剥がし
「やめろ、黒月達のせいじゃ無いだろ」
と伝えたが、善子は息子がいない事にパニックになっている為、暴れて殴り掛かり
「何でよ!なんで悠ばかり、こんな事に巻き込まれるのよ!」
と、叫んでいる。
俺は、落ち着いて話が出来ないので、
とりあえず、善子を拘束し口も塞いだ。
「んー!んー!!」
善子が、暴れているが、
そのまま無視して、黒月に状況を聞く
「誰が、どうやって悠を連れて行った?結界はどうしたんだ」
悠は玄関先に居なかったか?
夜叉に気を取られて、見ていなかったな
「自分から、結界の外に、俺達の側まで出て来てしまったんだ。緊張感が抜けていた。善子済まない」
黒月と、汛が頭を下げている
善子は、ひとしきり抵抗したが
二人の姿を見て、体の力を抜いた。
俺が、口を塞いでいた手を外してやると
「八つ当たりしてごめん、黒月達のせいじゃ無いわ。私がちゃんと見てなかっただけね」
善子は、俺を見て
「阿修羅、ごめん。もう大丈夫」
善子が、落ち着いた様なので
拘束していた手を離した。
「どんな状況だった?」
手口が分かれば、誰がやったか見当がつく
「話をしていたら、急に悠の足元に穴が空いて。悠はそのまま吸い込まれたんだ」
黒月は、何となく予想が付いていそうだな
——足元に穴ねぇ
個人を特定出来て、空間を超える力か
最近の動向にしろ、奴しか有り得ないよな
「この位の距離で手を伸ばしましたが、届く前に穴は何事も無かったかの様に、閉じて消えました」
汛が、悠との距離も伝えてくれた。
——俺も昔やられたな
「帝釈天だな、クソが」
あいつは、本当に独りよがりが過ぎるんだ
本人は正義のつもりなんだろうが、
相手の事を考え無いから、迷惑極まりない
「帝釈天なら、悠は天界にいるの?」
善子は、怒りを抑えながら俺に尋ねて来た
「多分、そうだろう。先日の矢もだが、悠に随分ご執心の様だしな」
アレで足元に門を開いたんだろう
「今から行く?」
善子は、息子を取り戻す気満々な様で
腕まくりをして肩を回し始めた。
——こいつ、帝釈天すら殴るよな
「善子、落ち着け。天界は広い。場所が分かってからだ」
アップを始めた善子の腕を掴み
一旦殺る気を納めさせた。
「オレが、一旦探して来るよ!」
話を聞いていたのか、
秋葉が囲炉裏から声を掛けて来た。
「頼む。多分小梅も一緒だ」
黒月は、秋葉に小梅の不在も伝えていた。
あの小さな猫又は、悠と共に行った様だ
「ねぇ、貴方達、随分と平然としてるけど、悠が狙われた理由を知ってるの?」
善子は、俺達がさほど慌てず対応している事に不信感を覚えた様だ。
このまま説明をしなければ、
又暴れ出すだろう
「悠が神の器だからだ。帝釈天は、良い器なら自分で管理したがる」
高位の神だから、人によっては喜ぶだろう
「管理って…悠は物じゃ無いわ」
お前はそう考えるだろうな。多分悠も
「危ない事は、まず無いが、俺は悪影響だから近づくなと、説得はするだろうな」
あながち間違いでは無いからな
「悠なら大丈夫よ。公平に物を見るから」
——だといいのだが
帝釈天と悠が、
囲炉裏を挟んで話をしている。
オレはその囲炉裏の灰の中から、
帝釈天の説明を聞いていた。
——-確かに悠は、格が高い器だよな
帝釈天の話の後、悠は器の作り方の質問をしていたが、その内容を聞くうちに、
俺はある事に気付いてしまった。
——悠の父親って
俺は悠の顔を見た。
悠が、眉間に皺を寄せている。
——悠も、可能性に気付いたのだろう
オレは不安そうな悠に、
思わず声を掛けてしまいそうになったが
帝釈天が部屋を出て、
悠は風呂に行く様なので
—— 一旦戻るか
悠は天童と一緒だったから安心だ。
今見た事は、すぐに阿修羅に知らせるべきだ
オレは灰の中を移動し、
幻世の囲炉裏から顔を出した。
「悠は、安全だよ。とりあえずは問題ない」
と、皆に伝えた。
「阿修羅は、帝釈天から嫌われてるよな? 悠は疲れを癒すために、今から風呂らしいよ」
とりあえず、悠の母を安心させるために
なんて事無い話をする。
その時、風呂場からカラン、と音がした
——キヨシが向かったか?
風呂と聞いたから、湯神のキヨシは
悠の様子を見に行ったのだろう
「本当に大丈夫なの?」
悠の母ちゃんが、心配そうに尋ねて来た。
身の安全は保証出来るけど…
「大丈夫だよ。小梅もオレも、天童も、多分豊も居るし、今キヨシも向かった。ちゃんと見とくから心配しないでいいよ」
そう言ってやると、少しホッとした様だ
「帝釈天は、悪い神じゃ無いから安心して」
そう声を掛けながら
(阿修羅、ちょっといいか?)
と、念話を飛ばした
(何だ?何かあったのか?)
阿修羅は、腕を組んだまま答えた。
オレは阿修羅の様子を観察しながら
(悠、気付いたみたいだよ)
と、伝えてみた
何がとは言わなかったのに
一瞬、険しい顔になった阿修羅をみて
——当たりだな
オレは確信した。
秋葉は、帝釈天を悪くは思って無いけど、
ちょっとやり過ぎだとは思っています。
次回、それが掟 です
読んで頂きありがとうございました
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