第36話 力の継承

母ちゃんが、自分が戦うと言い出した。



「は?」



阿修羅は固まり、




「母ちゃん?」




僕は、想像しただけで、怖くて震えた。



「阿修羅、あんた今から悠の体使うより、

慣れてる身体の方が、使いやすいでしょ」


と、阿修羅の肩を



パァン!



と、叩いた。


阿修羅は、平気そうだけど

音だけで痛そうだ。



「まだ、悠使うって言うなら、悠にかすり傷ひとつでも付けたら、ボコるわよ?」


と言って、拳を構えたのに



ガツッ!



母ちゃんは、なぜか、ハイキックをした

阿修羅は、見えない2本の腕で止めていた。




そう、阿修羅は

僕が怯えたから、今は普通の人型なんだ



——なんだよ、ただのイケメンかよ



阿修羅は腕と顔を1つずつにしたら

ただのムキムキなイケメンになった。



——ちくしょう羨ましい



「善子、確かにお前の身体の方が、使い慣れてるし、戦闘力は高いが、お前、俺の憑依を嫌がって居ただろう?」


母ちゃんは、阿修羅に

ハイキックを止められ、悔しそうにしながら




「息子が危ない目に遭うのよ?アンタが私から抜けたら、助けに行けないじゃない!」




と声を荒げ、



ゴツッ



今度は阿修羅の足に

ローキックをお見舞いした。



——今のは痛そうだな



ローキックは綺麗に決まったので、

流石の阿修羅も、眉間に皺を寄せた。



阿修羅は、ため息を吐き


「分かった。悠には力を与える。善子、今までと違い俺は常に共にいる事になるぞ?」


本当にいいのか?と、

阿修羅は母ちゃんに確認していた



「ねえ、今までは違ったの?」



僕は気になって、つい口を挟んだ

阿修羅、ちらっと僕を見て



「善子、今までは、俺は、神力の回復の為に一切の能力を封じていたんだ」


阿修羅は、母ちゃんに向かって

真剣に話をしている。



「これから俺は、常に目覚めている。幻世に居ないなら、転移も俺が判断するんだぞ?」


母ちゃんは、阿修羅を睨むように見つめてる



「常にだぞ?その意味が分かるか」



阿修羅が母ちゃんに念押しをしている。



「・・・風呂と、トイレだけは勘弁してくれ」



母ちゃんは、苦々しい顔をして

阿修羅から顔を背けた。



僕ですら嫌だ。仮にも母ちゃんは女性だ。

四六時中なんて、嫌に決まってる



「分かった。可能な限り善子の要望は聞こう。ただ、急を要する場合は諦めろ」


阿修羅は、そう言って

母ちゃんの肩に、ポンと手を置いた。




やっぱり母ちゃんと阿修羅って・・・




——なんだか距離が近いよな?



ちょっと気になりつつ、

何となく隣の黒月を見ると



黒月が懐かしい物を見る様な

穏やかな顔をしていた。



——昔、あのふたり何か有ったのかな?



僕の視線に気付いた黒月と、目が合った

黒月は、僕が見ていた事に一瞬驚き



ちょっとだけ、悲しそうに笑った



気のせいかも知れないけど、

直ぐに目は逸らされ、




「阿修羅、善子、結局どうするんだ」


と、黒月は2人に決断を迫った。



2人はハッとすると、揃って僕を見つめた



僕は、母ちゃんが阿修羅と共にいる事を

どう答えるのか気になってしまった




「仕方がないから条件を受ける。阿修羅、悠に何の能力なら渡す事が出来る?」



——マジか母ちゃん、受け入れたよ



「まず、雷と、焔が使える様になるな」



阿修羅は、母ちゃんに向き直り、

『僕に渡す能力』の説明をしている。



——受け取るのは、僕なんだよね?



なぜ、母ちゃんに説明するんだよ

説明が必要なのは僕じゃ無いかな?



「後は、念話も可能になる。俺の意識を悠に繋げて、常に見る様にするから心配するな」


阿修羅は、母ちゃんに

俺の事はちゃんと守ると約束している




——阿修羅、母ちゃんと仲良いよね?




僕は、気付いた時には

じと目で阿修羅を見ていた様だ。



「・・・悠、マザコンはカッコ悪いぞ?」



阿修羅と目が合った瞬間にそう言われた



「僕、阿修羅だけは凄く嫌い」



ムカついたので、そう言ってやった。

すると阿修羅は、なぜか慌てて



「悠、冗談だ!ほら、力を渡すから、だからコッチに来い」


と言って、素早くこちらに来た。



——来いって言う割に、自分で来るんだな



慌てながらチグハグな行動をする

阿修羅がおかしくて、クスッと笑ったら



「お、機嫌直ったのか?ならこのまま、能力を継承してもいいか?」


阿修羅はウキウキしながら尋ねてきた。



「僕は何をすれば良いの?」


阿修羅に尋ねたら



「ん、既に半分いるから、特に無い。とりあえず、手を合わせて目を閉じていればいい」



——半分いるって、半身の事か



僕は、言われた通りに

目を閉じて、手を合わせた。



目を閉じているから見えないけど、


頭と、肩と、肘のを

阿修羅に掴まれているのは分かった。




オン バザラ ダトバザラ

ジンバラハラバリタヤ ウン




阿修羅は、小さいけれど

脳に響く声で真言を唱えた。


すると、阿修羅が手を置いている場所と、

僕の中の阿修羅の力が繋がったのが分かる


それと同時に、僕の神力が跳ね上がった


見えないけど、今、僕の身体は

神力に包まれているはずだ



——なんだか変な感じだ



さっきまで当たり前にあった力なのに、

全く違う物に感じる。



——器だから、気付かなかったのかな?



最初に阿修羅が入った時は、

辛くて怖かったのに、今は平気だ


それどころか、安心感すら感じる



——やっぱり変だ



僕の中には阿修羅の半身があった。

今繋がって居るのは、それだけじゃ無い


体感的に、僕の中には

"元から阿修羅の力があった"様な気がする



——器だから?そもそも器って



阿修羅の力が入る事で、なんて言うか、

あるべき場所に戻った感じだ



——器ってどうやって作るんだ?



自分の身体の全ての細胞が、

阿修羅と同期した様な感じがした。



「悠、もういいぞ」


阿修羅に言われて、目を開けた



「気分は悪く無いか?」


阿修羅は、少し心配そうにこちらを見てる



「全く同じ、何とも無いよ」


僕がそう言うと、

阿修羅は一瞬目を見開き



「そうか、なら良かった」


と言って、目元がフッと優しくなった



——まさかな?



僕の頭の中で、あり得ない想像が過った。

有る訳無いから、それは無視した。



(悠、聞こえるか?)


脳内に、阿修羅の声が響いた。



びっくりしたけど、

多分コレが念話だと直ぐに分かった



(聞こえるよ。コレ念話だよね?)


意識すると、勝手にやり方がわかる。



(そうだ。黒月に話しかけてみろ)


阿修羅に促され、僕は阿修羅を見たまま



(黒月聞こえる?)


と、念を飛ばした



(悠、出来る様になったんだな。おめでとう)


黒月に褒められた。

嬉しくて、黒月を見たら


黒月は、目を細め、優しい顔で笑っていた。



「悠、手を出して雷集めて見ろ」


阿修羅が僕の手を掴み、掌を上に向けた

そこに雷を出せと言う。



「どうすればいいの?」


阿修羅に尋ねたら



「こうだよ」


僕の身体の中の阿修羅の力が

ひとりでに動き、掌に雷が発生した。



「感覚掴めたか?」


阿修羅の言葉と同時に

掌の雷はフッと消えた。



「あと、2.3回出し入れして見て」


僕が頼むと、阿修羅は言われたまま

同じ事を繰り返してくれた。


身体の中に蠢めく感覚がある。


様々な色の、小さな粒があって、

それを、色ごとに動かす感じだ



「ちょっとやってみる」


僕は、自分で同じ事をやってみた。

磁石に、集まる砂鉄みたいな感じ?


色を感知して指令を出すと、一斉に動く



「出来た!」


雷が出たのが嬉しくて、阿修羅を見たら


阿修羅が頭を撫でてくれた。



ちょっと意外だった。



次いで、焔も同じ様に練習した。



手に集まった青黒い焔を見て、

なんか、厨二病っぽいなと感じた



——だか、それがいい



雷と、焔とか、無駄にカッコいい

僕はなんだかウキウキしてしまった。



「力には慣れたみたいだな。また、同調しておいおい教えていくぞ」


同調、なんの事?



「同調って何?」


僕が尋ねたら



「悠には俺の力が入ってる。力を通じて意識が同じの、もう一人の自分がいる感じだな」


分身体みたいな感じかな?



「脳はひとつで体が二つ?」


僕の質問に阿修羅は頷いた。



「阿修羅は、僕と母ちゃん両方に憑いてるって事?」


そう尋ねたら、



「まあ、似たような感じだな?肉体の顕現が出来るのは善子だが、能力だけなら同等に使えるから、安心しろ」


そう言いきった阿修羅は、

何となく、頼もしく思えた。



「分かった。ありがとう」


そんなやり取りをしていたら




「敵襲!敵襲!強い力がコッチにきてる!」




縁が、後ろ足で床をテシテシ叩き

敵の襲来を知らせた。


黒月が、確認したところ、





羅刹本体が襲撃しにきた事が分かった。









悠は、母と阿修羅が気になって

仕方がないお年頃です。



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