第30話 いつもと違う朝



僕は神様から狙われている。



その日の夜は、眠る僕の傍に小梅が丸まり

枕元には汛が夜通し起きていると言った。


黒月は、八咫烏だから屋根の上に居るらしい


「黒月、雷は、大丈夫なのかな?」


昼間に落ちた雷がまた来たらと、

僕が心配していたら


「あの雷は神罰じゃ、悪い事してないなら当たっても何も起こらんよ」


と、屋敷爺が教えてくれた。


雷が降った時、キヨシだけは気絶していた。


キヨシはただの妖だから、

神気に当てられてしまったらしい。


避難するか尋ねたら


「怖い。でも、悠と、居ていいか?」


と、プルプル震えながら

桶にしがみついていたから


「怖い思いさせてごめんね、キヨシが居たいならずっといていいからね?」


と言っておいた。


後から、縁が何やら話をしに行っていた。


眠いのに中々眠れずにいると、

枕元に、ことりと何かが置かれた。


——なんだろう?


目を開けて、見てみたら

そこには、湯呑みが置いてあった


周り見たら、おくどさんが

竈によじ登っているのが見えた。


「おくどさんが、温かい柚子茶を入れて来てくれたみたいだよ」


汛がこっそり教えてくれたので、

身体を起こしてもう一度おくどさんを見て


「おくどさん、ありがとう」


と、伝えたら、おくどさんは、

こっちを見て、小さく手を振っていた


おくどさんの優しさと

柚子茶の優しい甘さで気持ちがゆるみ


僕はやっと眠る事が出来た





シャシャシャ シャシャシャ



いつもと同じ朝だ。ルンバの音がする


「おはようございます」


朝の挨拶をすると



「おはよう」「おはようございます」



と、あちこちから返事が帰ってくる。


祝詞の前に、清める為に水場に向かい、

水で顔を洗い、塩水でうがいをする。


祝詞を唱える為に、屋敷爺の前まで行くと



「悠や、ちょっとだけ待て」



と、止められた。


「どうしたの、何があった?」


屋敷爺に尋ねていたら、足元から

 


「悠、キヨシを屋敷爺の隣へ」



と、縁の声がした。

足元を見ると、縁とキヨシが居る



「おはよう。どうかしたのか?」



僕は2人を屋敷爺の横に置いてやった


「悠、今日はキヨシの為に祈るのじゃ」


キヨシの為?


「どこか悪いの?」


キヨシは桶が無いのが落ち着かないのか

手をもじもじさせている。


「キヨシは妖のままだと危ない。悠の側に居たいなら、湯神になればいい」


縁が説明してくれたけど


「キヨシ、本当にそれでいいの?」


僕は心配になり、キヨシを見た


「オラ、神になるっ!オラ、悠の側にいたいから、人の役に立つっス!」


ギュッっと拳を握り締め、

キヨシはこちらを見つめて来た。


「わし、大国主命が、昇格を認めたからの、後は悠が祈り願えば、キヨシは湯神に昇格できるんじゃ」


ほっほっほと、言ってる事は凄い事なのに

屋敷爺は相変わらず呑気だ


「分かった。キヨシ、ありがとう」


僕は、姿勢を正し、心を沈めると


淡々と祝詞を唱え始めた。


僕の言葉が広がり始める


——キヨシが湯神になります様に


出会いからの思い出を思い浮かべながら

キヨシへの感謝の気持ちを目一杯祈った


僕の言葉がキヨシを包み、

祈りと願いがキヨシを埋め尽くす


祝詞が終わり、文字が消えると

ポァっとキヨシが光った


「昇格成功じゃ。キヨシよ、これからは湯神として精進するが良い」


屋敷爺に言葉をもらい、

キヨシは、屋敷爺に丁寧に頭を下げた。


「悠、ありがとう」


キヨシはふわふわと

浮きながら僕の前に来た


「キヨシ、飛べる様になったんだね?」


もう、桶の陰に隠れるキヨシが見れないのは

ちょっと寂しいな・・・


「うん。オラ、湯神になれた。これからは悠をうんと清めてあげる」


嬉しそうなキヨシを見て

これで良かったんだと、思い直した。 


キヨシはふわふわしながら風呂場に向かうと



風呂桶の裏に隠れた・・・



「アレは、性格じゃな」


屋敷爺がポソっと呟いた。

僕が寂しがったのが分かっていた様だ


僕は、昇格してもキヨシはキヨシなんだと

嬉しく思った



「悠!汛!黒月!」


囲炉裏から秋葉が出て来た。


皆が集まり、秋葉の話を聞く事にした。


秋葉は、帝釈天の動きを探り、

ついでに羅刹の拠点も見て来た様だ。


「・・・そいつは、幻世を守る為に悠を献上するつもりだ。知らない妖や、人間には充分に注意しろよ?」


そこまで聞いて、僕はふと違和感に気付く


「ねぇ、そういえば小梅は?」


皆がハッとする


「朝の散歩にしては遅いな?」


確かに、小梅は毎朝散歩に出ているけど・・・


「もうすぐ朝食の時間だよね?」


いつもなら、もう帰宅して部屋に居るはず


「ちょっと、探してくる」


黒月が急いで庭に出て行く

鳥の姿になると、空へ向かった



「まさか・・・攫われたのか?」


汛が、秋葉と話をする



——僕のせいだ



「だとしたら、天界だな。悠が、自ら来るとそいつは言っていたからな」



——僕のせいで小梅が



バサっと羽音がして、黒月が戻って来た


「・・・幻世には居ない様だ」


黒月は、僕を気にしながらそう伝えた。



「決まりですね。黒月、小梅は天界に攫われたのかも知れません」



——僕のせいだ!



「僕、天界に行く!小梅を助けなきゃ!」


僕が、立ち上がると



「悠、待て、それじゃ、相手の思う壺だ」


黒月に止められるけど、



「だって、小梅は僕のせいで攫われたんだ!やっと、一緒に居られる様になったのに!」


小梅はずっと、側に居てくれたんだ



「僕が助けなきゃ!小梅は僕が!」


僕は、少しパニックになっていた。



「悠、大丈夫だ」



黒月が、僕を抱き留め


「小梅は、大丈夫。あっちには豊がいる。秋葉も付いてる。心配しなくても小梅だって、立派な妖だ。慌てなくていい」


と、宥めてくれた。



「悠、小梅の事だから、わざとついて行ったのかも知れませんよ」


汛も、落ち着いたまま、僕に声を掛けて来た



「悠、オレ、ちょっと様子みてくるよ。あっちにいる仲間にも聞いてみる」


と言って、秋葉は灰に戻って行った



「な?お前の家族は頼もしいだろう?」


黒月がニヤッと笑って、

僕の頭をぐしゃぐしゃにした



「悠、もっと家族を信じてくださいね」


汛にも言われ、

やっぱり頭をぐしゃぐしゃにされた



「悠や、落ち着かない時は、どうするんじゃった?」


屋敷爺から言われ



「・・・祝詞を唱える」


と、ちょっと不貞腐れながら答えた



「悠にできる事は、争う事じゃない。小梅の無事を祈り願う事じゃよ」


屋敷爺に言われ、確かにそうだと納得する



「悠、もし、戦う事があったとしたら、阿修羅じゃなきゃ、帝釈天の相手は無理だぞ」


黒月が、そう教えてくれた。


「帝釈天ってそんなに強いの?」


屁理屈の神様だと思ってしまっていた


「帝釈天は、軍神でもあるからな?阿修羅とは、勝ったり負けたりと永遠の敵対関係だ」



——それは、強そうだ



「僕じゃ、到底無理だね」


僕は、己の弱さを改めて知ったよ



「悠、力だけが強さじゃない。悠には悠にしか出来ない戦い方があるぞ」



—-黒月、僕はどうすればいい?



「悠の素直さや、優しさは、他に無い十分な武器だ。焦らず自分と向き合うんだ」



—-黒月、僕には何が出来るかな?



僕は、小梅と幻世の皆の

無事を心から願い、祝詞を唱え祈りを捧げた





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