第7話 暮らしに潜む弱き者
家に戻ったら、かなり綺麗になっていた
なんて言うか、家が生きている様に見える
物は変わらないのに、何故だろう?
「ただいま帰りました」
僕が子狐を抱いたまま土間に行くと
「あらあら、どうしてしまったのかしら?」
媼が気付いて近寄ってきた。
「怪我したにゃ。ウチが治したにゃ」
小梅が媼に説明している。
「とりあえず、保護したんだ。休ませたいけど、どこならいいかな?」
僕が尋ねたら
「そうね、この座布団を使うといいわ。今から翁と新しいのを買ってくるからね」
媼は、囲炉裏から離れた場所に
座布団を置いてくれた。
「悠や、もう一度「るーむつあー」をすると良い。わしらは必要な物を買うてくる」
そう言って翁と媼は出て行った
「ありがとう。行ってらっしゃい」
僕は見送った後、まだ眠ったままの子狐を
座布団にそっと置いた。
「早く良くなれよ」
冷静になってよく見たら子狐は、
神秘的に輝く白銀の毛並みが美しい。
——-神様の使いかもしれないな
僕は子狐をひとなでしてから、
翁に言われた様に、
部屋の確認を始めた。
先ずは押入れだ。
建て付けが悪かった襖は
スッと開いた。
「あっ・・・」
襖を開けたら、
小さなお爺さんがいた。
お爺さんはこちらを見てペコリと頭を下げた
釣られ僕も頭を下げた
何をしているのかと、みていたら
お爺さんは、背負っていた座布団をしき
その上で正座をした。
懐から取り出した竹の水筒で
何かを飲み出した?
「悠、屋敷神にゃ。ここが気に入ったみたいにゃ。お家を守ってくれるにゃ。襖は開けておいた方がいいにゃ」
え、神様、ここでいいの?
屋敷神は、こちらを見て、
また、ペコリと頭を下げた
「よろしく?本当に押入れでいいの?」
神棚とか、要らないのかな?
屋敷神は、うんうんと首を縦に振っている
押入れが気に入った様だ。
——-ちゃんと掃除しよう
名前を聞きたかったけど、お邪魔になりそうなので、屋敷神に、そっと手を合わせてから
風呂場に移動した。
ここの引き戸も、滑らかになっていた。
開けると、五右衛門風呂に変わりはないが
——ここにも何かいる
風呂桶の影から、髪がふさふさの、
小さな顔がのぞいている
小さいのが、必死にこちらを見ている
「誰かな?」
僕はしゃがんで、
風呂桶の後ろに話しかけた
「えっと、オラ、その、赤舐めっす、あの、ここ、いてもいいか?」
赤舐めは、おどおどしながら
風呂桶に、ぎゅっとしがみついている
「いいよ、君の名前は?」
赤舐めは、あっさり許されて
「えっ!」っと驚き
「キヨシっす!悠、本当にいてもいいか?」
キヨシは名を名乗り、
滞在する事に念押しをした
「うん、いいよ、キヨシ、よろしくね?」
僕が笑いかけたら、
キヨシは、風呂桶の中に隠れてしまった
「恥ずかしいにゃ?」
恥ずかしかったらしい
小さくて、可愛い住人達に、
僕は何だか嬉しくなって来た。
「もしかして・・・トイレも?」
トイレの扉を開けたら
——-やっぱり居るよね?
トイレの窓の桟に
小さな女神様が座っている
「こんにちは。よろしくお願いします」
僕が声を掛けると、
女神様は、両手でパッと顔を隠し
真っ赤になって
「・・・ヨロシク」
と、小さな声で挨拶してくれた。
「なに照れてるにゃ?」
小梅が女神様に話しかけると
「・・・ひと、久しぶりで」
と、聞き取れる声で話してくれた
「名前を聞いてもいい?」
と、尋ねたら
「名前はありません」
と、返された。
「女神は女神にゃ」
と、小梅に言われ、
ちょっと寂しく思ったから考えたけど
「ダメだ、トイレの花子さんしか思い付かない・・・何かないかな」
僕が悩んで居たら
「ハナコはダメ、ワタシの成れの果て・・・」
女神様はとても困った顔をした。
「うん、それはダメだね」
どうするかなぁ・・・
「清くて美しいで、清美さんなんてどう?」
その瞬間、トイレの空間が
一気に明るくなった。浄化された様だ
「居心地が良くなったにゃ」
小梅が僕の肩でゴロゴロ喉を鳴らした
「清美は凄いね?これからもよろしくね」
僕が手を合わせて挨拶すると、
清美は、身体をくねくねしながら喜んでいた
この調子だと、まだ他にも居るよな?
僕は部屋を注意深く、ぐるっと見渡した
——-いた!
赤と黄色が混ざった髪の、小さな何かが居る
囲炉裏の縁にしがみついて
鼻から上だけ出してコッチを見ている
「小梅、幻世の神様や妖達は、みんな随分控えめだね?」
僕に対して、物凄く興味はあるのに、
何もせず、黙ってひたすら見てるだけだ
——奥ゆかしいというか、控えめというか
「仕方がないにゃ、みんにゃ、人から忘れられてた記憶があるからにゃ。人の邪魔にはなりたくないにゃ」
小梅は僕にスリスリしながら
喉をゴロゴロ鳴らす
「話しかけても聴こえないのは寂しいにゃ」
小梅も寂しかったのだろう。
僕に必死にスリスリしている
「小梅、忘れていてごめんね?」
申し訳なくなって、僕が謝ると
「悠はウチを忘れたんじゃないにゃ、ウチが消えたから居なくなったと思ったにゃ?だからウチのせいにゃ」
気にするなと、むにむにと
僕の顔に肉球を押し付けてきた
気を取り直して、
囲炉裏の側であぐらを書くと
小さな頭がピャッと隠れた。
そのまま見ていたら、ちょっとずつ顔を出して、鼻から上だけで、こちらを見ている
——丸見えなんだけどなぁ
思わずクスリと笑ったら、慌ててピャッっと隠れて・・・繰り返しだ
「こんにちは、君は誰かな?」
僕から話しかけたら
「ひぶせのかみ」
と言うが・・・火伏の神の事か
「火災にさせない守神だったかな?」
僕が知っている事を伝えたら、
ぴょこっと出て来た。
囲炉裏をよじ登り、僕に、にじりより
「悠はオレをしってるのか?」
と、興味津々に僕の膝まで登って来た
「爺ちゃんから聞いたから、知ってるよ」
そう伝えたら、
「じゃあさ、竈神のおくどさんも知ってるか?」
と、尋ねて来たから
「竈神は知ってるよ。おくどさんって名前なのかな?」
と問い返したら
「おくどさーん、悠、知ってるって!」
そう言って、ぴょんと膝から降りて
「こっちこっち」
と、竈まで連れてこられた。
竈の上には、小さなお婆さんが
これまたちんまりと正座をしている
「これ、秋葉、走り回るでない。家主様が困っているよ」
囲炉裏に居たのは秋葉と言うらしい
「おくどさん、初めまして。これからよろしくお願いします」
僕はおくどさんにも、
手を合わせて挨拶をしたら
「おやま、ご丁寧にありがとね、ちゃんと見てるから、安心してな」
と、にこにこしながら頷いている。
「オレも!オレもちゃんと見るぞ!」
秋葉が足元でぴょんぴょん跳ねながら
自己主張をするので、
そっと手のひらで掬い上げた。
「秋葉でいいのかな?これからよろしくね」
そう伝えて、囲炉裏に戻した。
「おうよ!任せとけ!」
そう言って、灰の中に潜って行った
一通り挨拶が済んで、眠る子狐を見ていたら
「ただいま戻りましたよ」
「お待たせしちゃったわね」
と、翁と媼が、帰って来た。
「おかえりなさい。丁度皆に挨拶が済んだ所です。賑やかになりました」
僕がそう言ったら
「ほう、そうか、皆、悠の事が気に入ったようだな。これから頼んだよ」
と翁が言うと、言葉は無いけど、
皆が返事をしたのが何となく分かった。
「ところで、九尾は、まだ目が覚めないのかね?余程深く傷つかれたんだろうな」
翁は、子狐を見ながら
九尾と呼んだ
——-九尾?
あーやっぱり、
普通の子狐じゃなかったようだ
弱き者達は皆10〜20センチ位のサイズ感です
人間大好きだけど、会えたらドキドキしちゃうみたいです。推しに会えたファンみたいな感じかな?
次回、御用聞きと九尾の子狐 です
読んで頂きありがとうございました
恥ずかしがり屋な弱き者を見守るためにも
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