バグった(元)勇者の異世界珍道中 ~色々とバグが多すぎて大変です~

robstar

異世界召喚は突然に 


「あ~クソッ、またここで乙るのかよ…」


 まだ6月とは思えない猛暑のある日。1週間に2日しかない貴重な休日の半分を、高校生の俺は自室に籠もってゲームをすることに費やしていた。

 俺が遊んでいるゲーム――『aRcANa tALe』はただのRPGではない。いわゆる「鬼畜ゲー」に近い類いのヤツだ。


「やっぱコイツの火力設定おかしいだろ…なんだよ一撃36Dを連撃って!こっちの体力4E7しかないんだぞ…!」


 …初見だと何のことだか分からないかもしれないので一応説明しておくと、このゲームでは敵味方のステータスやダメージ表記などが全て16進法で行われている(10進法で表せば36D=877であり、4E7=1255になる)。

 このゲームを始めたばかりの頃は、難易度の高さとダメージ計算の面倒くささに何度も匙を投げそうになったが、一度慣れてしまえば案外すんなりプレイできるようになった。

 まぁ、コイツのせいで16進数での計算が出来るようになったってのはちょっと気に食わないのだが…


「もし俺が異世界転生するとしても、こんな世界だけはゴメンだな…」


 理不尽とも言えるゲームオーバーを前にむしゃくしゃしていた俺は、ボソッとそんなことを呟く。



 その瞬間――――



「うわっ…何だよこの光…!」


 床が小さく揺れたかと思うと、突然真っ白な光が部屋中を包み込む。


「ちょっ…なんか浮いてっ…あがっ!!」


 かと思えば、自分がわずかに宙に浮いた感覚とともに、今まで感じたことのない強烈な頭痛に襲われた。


「いったい…なにが…ガハッ」


 根性でなんとか耐えていたものの、何がどうなっているかも理解できぬ内に完全に気を失ってしまう俺。



 あな………ゆう……さずけ……せかい………さい…



 意識を手放す直前、聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたが、ほとんど聞き取ることは出来なかった。











「んんっ……」


 どれほど気を失っていたのだろうか――――あのとんでもない頭痛が徐々に治まり、ようやく意識を取り戻した俺は、その重たい瞼を上げるまでもなくに気づいた。


(なんだこの匂い…俺の部屋じゃ、ない…?) 


 微かではあるが長年嗅ぎ慣れた自室のソレとは明らかに異なる、鼻にツンとくるかびのような匂い。加えて、何となく淀んでいるような空気の感触。

 これだけでも、自分が自室ではないどこか別の場所にいるであろうことを知るには充分だった。


「おぉ…っ!なんと…!」

「このお姿は…まさしく…」

「成功だ…儀式は成功したんだ…!」

「ついに…ついに…」


 その予感を補強するかのように、自室からは聞こえるはずもない声がする。声の雰囲気からして中年の男性、声色の違いからして複数人いることも分かった。


「ん…ここは一体…?」


 意を決して目を開けると、まず最初に中世のお城のような石造りの壁が目に飛び込んでくる。そして、俺の前で驚愕とも歓喜ともとれる声を上げながら突っ立っている、ファンタジーな格好をしたおじさん達。


(えっ…マジでどこ?そして誰?)


 何となく自室ではないと予感はしていたものの、いざこの不思議な景色を目の前にしてしまうと、流石の俺も困惑を隠せない。これでもだいぶ冷静さは保っているつもりだが…


「…お目覚めになりましたか、異世界からの勇者様」


「…はい?」


 情報の処理が追いつかずにいた俺に、紫と白の豪華な服をまとったおっさんが語りかけてくる。



 ん……?今、『異世界の勇者様』って言った…?











 ちょっと待ってくれ、『異世界の勇者様』って何のことだ?もしかしなくても、俺に向かって言ってたのか…?俺、勇者になった覚えないんだが……?


「あのぉ…ここは一体どこなんですか?」


 情報が津波の如く押し寄せ、困惑と疑問が山のように浮かんでくる頭を全力で回転させ、何とか言葉をひねり出して目の前のおっさんにぶつけてみる。


「ここは王都セルフィエンスの中心、レイビドゥアナ城内にございます、勇者様」


 俺の素っ頓狂な質問に対し、おっさんは丁寧な口調で答えてくれた。その回答によると、どうもここは俺の知っている世界ではない、とのこと。だからといって、俺の中の疑問が尽きることはないわけだが…


「召喚されたばかりでさぞかし困惑しておられることかと拝察いたしますが、勇者様にはこれから国王陛下に謁見して頂きたく存じます。つきましては、これより謁見の間に向かいますのでお立ちになっていただけますか…?」


「あ、はい……」


 そんなことを考える間もなく、俺はおじさんに促されて立ち上がる。辺りを軽く見回した感じ、この場所はれいびどぅあな城?にある地下室のようである。

 そして、今先導してくれてるおじさんの他にも、この部屋に同じような格好をしたおじさんたちが10人かそこらはいて、どうやらこの人たちはいわゆる王宮仕えの祈祷師、あるいは神官であろうことが、その服装から推測できた。


「あの…貴方たちはどのような立場のお方なのでしょうか?」


「あぁ、申し遅れました。私はこのレーヴァンタル王国で王室魔導師長を務めております、セイグリット・マーレファントと申します」


 謁見の間までの道中は暇だったので、名乗るついでに彼の役職を訊いてみる。結果はこの通り、俺の推測は概ね正しかった。

 にしても魔導師、か。薄々感じてはいたが、やはりここは俺のいた地球とは異なる世界……つまり、異世界ってことなんだろうな。となると俺がここにいる理由ってのも、いわゆる異世界召喚のせいと考えてよさそうだ。


(それにしては色々と謎が多いんだよなぁ……)


 おじさん…じゃなくてセイグリットさんの役職『魔導師長』から推察するに、この世界は魔法が存在する異世界、つまり地球とは全く別の世界なはずだ。にも関わらず、なんで俺はセイグリットさん達の言ってることが分かるのか、なんで彼らと会話できるのか……


(ま、いっか……)


 ……とは思ったが、無駄にいろいろ考えてもあんまり意味はなさそうだな。


「勇者様、もし差し支えがなければですがあなた様のお名前を…」


「あっこれはすみません、私は高山悠仁と言います」


「タカヤマ・ユウト……勇者タカヤマ様、ですね」


「あぁ、一応ユウトが名前です」


「そうでしたか、失礼致しました。勇者ユウト様」


 うーん……お城の内装やセイグリットさんの服装から見て、やっぱりこの世界は中世ヨーロッパに近いような気がする。まぁ中世ヨーロッパにレーヴァンタル王国なんて国がないのは、歴史が苦手な俺でも分かるが。


「さぁ着きましたよ、勇者ユウト様。この先が謁見の間でございます」


 どうやらあれやこれやと考えているうちに、目的地の目の前まで到着していたようだ。


「国王陛下、最後の勇者様をお連れいたしました」


「…通せ」


 荘厳な大扉の向こうから、少しばかり枯れた男の声がした。この声の主が恐らく王様なのだろう。そして、重そうな扉がゆっくりと開かれる。


「さぁユウト様、こちらへ……」


「あっはい」


 セイグリットさんに言われるがままに謁見の間に足を踏み入れた俺は、その余りに日常離れした光景につい圧倒されてしまった。


「これは……すごいな」


 中は天井がとても高く、そこから見たこともないような大きさのシャンデリアが下がっている。窓は美しいステンドグラスで彩られ、まるで教会のようだ。床はこれまた美しい模様の石材で埋め尽くされており、左右にある調度品もいかにも高そうな金の杯や銀の額縁に飾られた絵画など、ザ・王宮といったところだ。

 そして極めつけは、正面に飾られている巨大なレリーフ。何かの神様を象っていると思わしきそのレリーフは、とても美しく、荘厳で……それでいてどこか懐かしさを感じさせた。


「おぉ……ん?」


 どこか見覚えのあるレリーフから視線を落とした俺の目は、輝かしい黄金で細かく装飾された玉座に座っている一人の男性を捉える。赤いマントを羽織り、金色に輝く王冠をかぶった、随分と恰幅のよいおじさん。この人が件の王様であることはすぐに理解できた。だが……


「え…あれって……」


 王様の傍にいる、青い鎧を身につけた男と、神官のようなローブを纏った女。俺は彼らの顔に見覚えがあった。…いや、見覚えがあるどころの話ではない。あの顔は絶対――




「なんでアイツらがここに……?」




俺の高校のクラスメイトだ。



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