ヒーローズ・ジャーニー──神話的構造が与える“物語の意味”とは?

なぜ人は物語を必要とするのか?

──この問いに対し、「構造」から答えようとした者がいる。


神話学者、ジョーゼフ・キャンベル。

彼は世界各地の神話を比較し、驚くべき結論にたどりついた。


すべての神話には、共通する“物語の骨格”がある。


それを彼は《ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)》と呼んだ。

そしてそれは、神話に限らず、小説・映画・漫画──

あらゆる物語の“魂のテンプレート”として現代にも息づいている。


■ ヒーローズ・ジャーニーとは何か?

一言でいえば、「主人公が日常を離れ、異世界で試練を超え、変化して帰還する」という構造である。


これは単なる物語の筋ではない。

“変化の型”そのものだ。


ジョーゼフ・キャンベルは著書『千の顔をもつ英雄』でこの構造を提唱し、

脚本家クリストファー・ボグラーがそれを12段階に整理したことで、

ハリウッドや小説界に広く普及した。


■ 基本の12ステージ

以下は最も一般的な12ステップの構造である:


日常世界:主人公はまだ普通の世界にいる


冒険への呼びかけ:何かが主人公を“旅”へ誘う


呼びかけの拒絶:恐れや迷いから一度は断る


賢者との出会い:助言者・導き手との遭遇


第一関門の突破:日常を離れ、“異世界”へ踏み出す


試練・仲間・敵:新世界で試され、仲間や敵と出会う


最も危険な場所への接近:核心の問題に近づく


最大の試練:死に直面するような危機


報酬の獲得:力・知恵・真理などの“宝”を手にする


帰路:帰るための新たな困難が始まる


復活:生まれ変わるような変化・最後の試練


帰還:変化した自分で日常世界へ戻り、何かをもたらす


この流れが、「旅」の構造であり、

物語の中心に“主人公の変容”を据える最大の特徴だ。


■ 三幕構成との違い

三幕構成は「始まり・中盤・終わり」のリズムで物語を構築する“形式”。

対してヒーローズ・ジャーニーは、“意味”と“成長”の流れに主眼を置いた構造である。


言い換えれば──


三幕構成:「どう展開するか」

ヒーローズ・ジャーニー:「なぜ旅をするか」


両者は共存する。

たとえば、三幕の「第1幕」にジャーニーのステップ1~5が、

「第2幕」に6~9が、「第3幕」に10~12が重なる構成も多い。


■ 代表的な作品例

◎『スター・ウォーズ』(ルークの旅)

→ キャンベル理論を最も忠実に再現した作品として有名。


◎『ハリー・ポッターと賢者の石』

→ 魔法界=“異世界”への旅。試練と成長、知恵と勇気の獲得、日常への帰還。


◎『もののけ姫』

→ タタリ神との出会い=冒険の呼びかけ。シシ神の森=試練の場。アシタカの“見る目”の成長が鍵。


◎『千と千尋の神隠し』

→ 異世界に迷い込み、自ら働き、名を取り戻し、“真の自分”として帰還する。


◎『マトリックス』

→ 仮想世界を知る=旅の始まり。モーフィアス=賢者。選ばれし者としての覚醒と変容。


■ ジャンルごとの応用

この構造はファンタジーや冒険譚に限らない。

ミステリー・恋愛・青春・現代劇──すべてに応用可能。


・恋愛小説の場合:

日常:退屈な日々


呼びかけ:出会い


試練:価値観の衝突


報酬:相手の本質に触れる


帰還:一人でも、世界は変わった


・ビジネス系・起業小説:

日常:凡庸なサラリーマン


呼びかけ:理不尽・疑問


試練:上司・競合・資金難


報酬:理念・信頼・達成


帰還:自分の手で築いた新たな日常


■ 初心者のための実践ステップ

主人公の「日常」と「変わらなければならない理由」を設定する


どんな“旅”が必要かを決める(冒険・試練・人間関係など)


「旅に出ることを拒否する瞬間」を用意する(=迷いが読者と共鳴する)


助言者/導き手/仲間の役割を考える


クライマックスでは「変化の証明」があるかを確認


帰還後、日常が“同じではない”ことを見せる


■ 書き手への問いかけ

あなたの物語の主人公は、何を“超える”べきなのか?


その旅を通じて、どんな“自分”へと変わるのか?


帰ってきたとき、世界は同じに見えるだろうか?

それとも、主人公の目だけが変わっているだろうか?


ヒーローズ・ジャーニーとは、「自己変容の物語」である。

だからこそ、世界中で時代を超えて語り継がれてきた。


それは、「人間とは変わる存在である」という真理を、

物語という形で刻み込むための構造なのだ。

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