Day31 ノスタルジア

 家さばいたから、と兄から荷物が送られてきた。家をさばく、つまり実家を解体する件で喧嘩したっきり一年経っていた。なんだろうと開けてみると、古い掛け時計が入っていた。

 ああ、これは実家の居間のだ。兄はヤニや埃を拭いたのだろうが、ガラスの四隅に少し汚れが残っている。思わず木枠をなでる。団欒も喧嘩も成長もすべて見ていた時計。カチコチと鳴る音は、幼いころ、一人で留守番しながら聞いたままの音だ。母が帰ってくる前、薄暗がりで寝転がっているときの。

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文披31題_2025 @kmskh

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