妹に婚約者を奪われたので、仕事に邁進します……と決めたら魔法士の登場!?
黒い猫
第1章 婚約破棄されてしまいました。
第1話
「――今、なんとおっしゃられたのかしら?」
「え、えと……」
久しぶりの休日。久しぶりのデート。
いつもは周りの目なんて気にも留めず……と言うか、周りも周りで自分の仕事に必死でオシャレなんてしている暇が無い。
だから……という訳ではないけれど、やはり「デート」となれば多少なりとも気合が入るタイプのミリシア・ハッフルはオシャレをして婚約者であるパトリックと「デート」に来ていた。
しかも、今はパトリックの案内で来た可愛らしいカフェでお茶をしている最中だったのだ。
そんな「楽しい」という気持ちからの急落とも言えるパトリックからの言葉。さすがに聞き返さずにはいられない。
「その、君との……婚約を破棄さて欲しいんだ」
聞き返しても内容は「婚約破棄」で変わらない事を認識する。それと同時にパトリックは落ち着かない様子で下を向いたままこちらを見ようともしない。
「……」
ミリシアは見た目こそ小さくて一見すると子供の様なとても可愛らしい女性なのだが、濃いブラウンの大きな目はどこか人を威圧する様な不思議な雰囲気を持っている。
しかし、この雰囲気と言いたいことをハッキリと言う性格が故になかなか縁談が来ず、ミリシア自身「何とかせねば!」と魔法学園時代はかなり焦っていた。
なぜなら、普通であれば学園に通う前に上位貴族に婚約者がいるのは当たり前だったからだ。
ちなみに、ハッフル家の爵位は侯爵だ。十分上位貴族に入る。
それでも焦りとは裏腹になかなか結果が実を結ぶ事はなく、結局は国王陛下が間に入ってようやく目の前にいるパトリックと婚約を結んだ……と言う訳だ。
ただ、彼とは何度かデートやお茶会をしてみて分かったのだが、彼はなかなか気が弱く、頼み事をされると断れない性格らしい。
今も全然ミリシアと視線が合わない。一応形式上は「婚約者」であるはずなのに。
「はぁ……、理由を聞いても? それと確認しておきますが、この事は既に私の両親。そしてパトリック様のご両親もご存じなのですか?」
それを考えるとミリシアはその逆とも言える性格だ。
しかし、何もミリシアも最初からそうだった訳ではない。これはあくまで仕事を始めて「出来ないと最初から分かっているのであれば引き受けない」と分かったが故である。
元々ハッキリと物を言うタイプでもあったが、仕事を始めたことで尚更それが強くなった……とも言える。
「理由って……だって、全然予定が合わないじゃないですか。この間のお祭りだって僕は一緒に行きたかったのに!」
パトリックは大声でそう話したが、それは「声を荒げる……」とは少し違い「子供の主張」にミリシアには見えた。
「その時期は仕事の繁忙期だと伝えてありましたし、パトリック様はそんな事は一言もおっしゃらなかったではないですか」
だからこそ、ミリシアも毅然とした態度でパトリックに話す。
「それはあなたが前もってそうおっしゃっていた! でも、僕は行きたかった。デートももっとしたかった! もう限界だったんだ。だからこうして僕の方から声をかけた。この話をしたかったから」
確かにミリシア自身「珍しい」とは思っていた。
なぜならいつもデートの誘いをするのはミリシアの方で、今回はパトリックの方からだったからだ。
でも、そうなってしまうのはミリシアが既に働いているから……という仕方がない事情がある。
それに引き換えパトリックはまだ学生の身だ。
どうしても働いているミリシアと学生のパトリックではなかなか予定が合わない。だから、パトリックの言い分もよく分かった。
今、働いてみて分かる。自分が学生時代はまだ時間にも気持ち的にも余裕があったから……。
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