009 興味のある事にはタガが外れる。

 鎧を脱いで乾拭きした後、乾燥のために床に放置しておく。整備の仕方が分からないな、油やろうを塗るのは毎日しないといけないのか?


 そんなにすぐ駄目になるわけじゃないし今はいいか。血や泥で汚れるわけじゃないから、それ程傷まないだろ。


 それよりも脱いだ革の靴の方が問題だ。水虫にはなりたく無いから乾燥、脱臭用に炭でも買ってくるか?部屋履き用のスリッパかサンダルも欲しい。


 装備を脱ぎ散らかした後は部屋にあった椅子に座り、取引所の確認を始める。


 ミスリルやオリハルコンのナイフで、掘り出し物がないか探していると湯が届いた。自分が買った桶よりも一回りは大きいのに、少女は慣れた様子で軽々と運んで来た。


 まぁこの世界で十数年鍛えているのだから、筋力も大分育っているんだろうな。自分は1しかない赤ん坊だ。


 昨日は埃だらけの体や、他人の服を着た気持ち悪さから体を先に拭いたけど。自分は本来上から下へ派だ。


 頭を洗って体を拭いていくけど、どこかスッキリしない。湯に浸かれないのはしょうがないにしても、肩から水を掛けるくらいの事はできるようになりたいものだ。


 次の目標は洗濯部屋のある自宅かな。室内で洗濯ができるなら、全裸で水を被るくらいはできるだろう。


 着ていた服を洗いたいけど、垢の浮いた水で洗うのでは意味が無い。最初に水を分けておくべきだったな。失敗した。


 とりあえず、今は残り湯で洗って井戸水ですすぐことにしよう。買っておいたロープがちゃんと物干しに使えそうだし良かった良かった。


「あれ、お客さん。桶なら部屋の外に出しておけばこっちで回収するよ?」


「いや、湯を分けるのを忘れていてね。残り湯で洗濯したから、新しい水ですすぎたいんだ」


「ふーん。そういう細かい所がお客さんの体臭の秘訣ひけつなのかな?

 なら桶は軽く洗ったら、宿の壁に立てかけておいてくれればいいから」


 少女と分かれて裏口から出て、桶を置いて一息付く。


 いつこぼすのかとヒヤヒヤした。水を運ぶならやっぱりバケツだな。取っ手が動くバケツの運びやすさを再確認した。


 洗い物を済ませたら飲水用の水を新しい桶に入れておく。水汲みも慣れたものだ、洗った手拭いで汗を拭いたりなんてしていない。


 ロープを張って洗濯物を干そうとしてから気が付く。洗濯バサミのもハンガーも無い。


 服屋でも雑貨屋でも見なかったしこれも職人ギルド案件か?


 針金があればハンガーは作れそうだけど、洗濯バサミはどうすればいいんだ?構造は知っているけどどうやってパーツを固定しているかは知らないぞ?


 まぁ、暇ができたら図面を描いて持って行くか。形が崩れたら困るような高い服は持っていないし急がなくていいだろ。


 取引所の続きを確認するついでに岩塩をまとめて出品しておく。出品1回につき銅貨1枚取られるそうなので、まとめて60個出品して出品代をケチる予定だ。特に急いでいないしな。


 61個で銅貨110枚。1個辺り1.8枚換算だ。10個単位なら18枚でも結構売れてたから、そのうち売れるだろう。5倍、うらやましいなぁ。


 掘り出し物は見つからず、明日食べる料理だけ買って夕食を食べるために階下へと向かう。今買ったのは実験の意味もあり、冷めていたら泣くしかない。


 女将さんに夕飯を頼み、すでにいた客達の間を通り空いてる席に座ると。視線の先に首輪を着けた者達が座っていた。


「はいよ、追加の飲み物は金を取るからね」


 出てきたのは、ステーキとデカいパンと少しの野菜炒め。飲み物は注文する時に、エールかワインの水割りか水から選べと言われたので、ワインの水割りを頼んだ。


 エールは不味いらしいし、ワインの水割りならジュースと変わらないだろう。


 食事をしながら首輪を鑑定してみる。部屋でアイテムボックスを使うのに一々唱えるのが面倒だったので、詠唱破棄のチートは修得済みだ。


隷属の首輪[ー]

 [税金軽減大]


 他の装備品と変わらず、シンプルに名前が表示されたけど最後の数字の部分が何故か違う。


 気になって触れてみるとドロップダウン形式で[自失][魅了][弱体化][MP回復阻害]と表示された。


 他人の物を勝手に弄くるわけにはいかないので今回は放置して、今は名前の方を考えよう。


 誰が作ったのか知らないが。俺の知っている隷属の首輪は、命令に反すると激痛が走り。主人を害する事も、逃げる事も出来なくなるという、とんでもないアイテムだ。


 自分のように人付き合いが苦手どころか嫌いで、都合の良いことばかり考えていた人間からしたら垂涎すいぜんの品である。


「ちょっとあんた、手が止まってるよ!早く食べておくれ」


「ああ、すまん。すぐ食べるよ」


 そういえばまだ一口も食べていなかった。ステーキに手を付け、何の肉だろうと考えたのが良くなかった。


 ネズミ肉のステーキと表示され、食欲が少し減退した。


 ただ、ネズミの肉にしたら肉が大きい、300gステーキの大きさがあるのだ。


 この大きさの肉が取れるのなら、ネズミは大き目のウサギくらいある事になる。魔物が落とすアイテムだったはずだし、自分の考えるネズミとは全く違う物なのかも知れない。


 そもそも、ダンジョンにいるネズミがゴミを漁ったり、下水道を住処にしているわけがなく。下手な家畜小屋より綺麗な所に住んでいるので、不潔ではないのかも知れない。


 幸いな事に硬めの白パンだったパンをワインで流し込み、速攻で食事を片付けると席を立つ。


 待ちが出ている程じゃないけど、いつの間にか満席になっていたようだ。


 食堂を出て行こうとすると丁度食べ終えたのか、奴隷達とその主人が席を立ち、先を歩き始めた。


「なぁあんた。奴隷っていくらくらいするもんなんだ?」


 食堂を出て階段に差し掛かる頃。奴隷達の主人に我慢できずに質問を投げ掛けた。


「あん?普通の奴隷なら10万から、犯罪奴隷なら5万前後が相場だ、覚えとけ。こいつらは戦闘奴隷だから20万以上したな」


「そんなにすんのか⋯⋯ありがとう参考になったよ」


 面倒臭そうに振り向いた、主人と奴隷達の視線が一気にこちらを向き。歴戦の、といった風貌ふうぼうの男達に怯んだ自分を見て、主人が質問に答えてくれた。


「次に聞く時は酒を奢れよ。エールじゃねぇ割ってないワインの方をな。それが礼儀ってもんだ」


「あ、ああ。気を付けるよ」


 そう言うと、さっさと階段を登って行ってしまった一団を見送り。また考え事をしながら部屋へと帰る。


「はぁ〜怖かったぁ。一人20万以上っことは3人で60万。装備やら生活費も合わせると金貨百枚くらい稼いだってことだろ?あれがベテランの風格ってやつかね」


 1日銀貨10枚稼げれば10日で金貨1枚。100日で金貨10枚の10万Mだ。あれ?1年で1人買えるならそうでもないな。顔が怖かっただけで意外と若い疑惑?


 まぁ娼婦に入れ込んだり、酒飲んで翌日休みにしたりとか色々あるんだろう。


 今更だけど、あんな強面こわもてに直接聞かなくても、明日買い物のついでに商人にでも聞けばよかったんだよな。我ながら欲望に忠実過ぎる。


 それにしても、隷属の首輪に自失と魅了か。


 後の2つには用事がないけど、この3つは非常に興味がある。


 自失は恐らく意識が薄くなり、命令通りにしか動かなくなるのだろう。


 魅了は主人に好意を抱かせて、命令を聞かせやすくする効果があるはずだ。


 つまり催眠物の導入だ。どちらも大好物である。


 犯罪奴隷というものがいるのも分かった。罪を犯してから捕まると奴隷に落とされるのだろう。


 自分が奴隷になったらどうなるのだろうか?ステータス操作で解放できる気もするが、首輪のせいで本当に可能なのか分からない。


 だけど、首輪の効果があれば中身が悪人だろうと関係無く。寝首をかかれる心配もなくなる。安全に使えるのなら安くて美人の方がいいに決まっているだろう。


「しかし、ここで立ちはだかるのがまた金貨5枚か」


 オリハルコンのナイフもそうだけど微妙に足りないのだ。半額が効けば悩まずに済むというのに。と、思った所で気が付いた、取引所で使い忘れてるじゃん⋯⋯さっきの料理も定額で買ってしまった。


 いや、相手も生活があるとか気にしたんだったかな。きっとそうだ、多分かわいそうだと思って使わなかったんだろう。そんなことを思った気がする。


 とりあえず、まだ売れてなかった岩塩のために売却額を1.5倍にしておくかな。取引所でしか効果が無いなら、差額は運営か神が補填するのだろうから気にしなくていい。


 問題は奴隷の購入に効果が期待できない事だ。当たり前だけど取引所には売っていない。あったのは精巧な裸婦像くらいだ。


 まずは奴隷商に行ってみるしかないか。金額を確認して、買うか決めるか。


 そもそも犯罪奴隷の美女なんてものが存在しなかったら、次は金貨10枚なんだから全く手が届かなくなる。それなら諦めもつくだろう。


 とりあえず、明日の朝はレアドロップ率増加を試してみて、1日いくら稼げるのかを試してみよう。


 今日は何だかんだで銅貨700枚くらい稼いでいるんだ千枚くらいは楽勝だろう。

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