その花の名前は「猫」
彼方夢(性別男)
第1話 保護した猫
「で、この報告書どういう意味?」
係長からの叱責に頭を下げるしか無い、古今静香。
「報告書に書かれてるデータにエビデンスはあるの?」
最近係長の頭髪はバーコード化してきた。スキャン出来るだろうか、なんて下らない事を考え、叱責に気を向けないようにしている。
「話し、聞いてないな?」
「あっ、いえ……」
係長は一睨みしたあと、
「もう席に戻れ」
と、やっと解放された。
席に着くと隣席の風間が心配してくれる。
「大丈夫かい? あんまり気に病まないようにね」
特に気に病むような性格ではないのだが、風間"先輩"の言葉なので素直に受け取っておく。
帰宅したとき、夜の七時を回っていた。
すると雨が降り出してきた。カーテンを開けて確認する。
「ちょっと散歩でもしようかな」
団地から外に出て傘を開く。雨粒が傘の面に弾かれて独特のメロディが聞こえる。
そうして三十分くらい歩いたとき、路上の隅で傘も差さずうずくまっていた少女がいた。
「大丈夫?」
その少女が顔を上げる。とても端正な顔立ちをしていた。
とりあえず交番に連れて行かないと。
交番でもその少女は喋らなかった。
どうしたものかと悩む警官に、静香がこの子を保護すると申し出た。それから幾つかの条件を命じられそれを守るのなら許可する、と言われた。
家に連れて帰ると部屋の隅に、少女が座り微動だにしなかった。
「まるで借りてきた猫ね」
猫という言葉に反応した、少女。
そんな愛くるしさに静香は少し微笑む。
翌日も商社であたかも過労死をしてしまいそうなほどの勤務をしたあと、帰宅した。
だが留守番していたはずの渾名「猫」が消えていた。警察と約束していたのもあって、猫を探しに行った。
街中を二時間駆けずり回ったあと商店街に立ち寄ったら、コロッケ屋の前で猫がいた。
疲れてしまったので怒る気にもなれず、
「コロッケ食べる?」
と訊ねると頷いた。初めて返事をされた。
コロッケを二人して食べて帰った。
その花の名前は「猫」 彼方夢(性別男) @oonisi0615
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