HCU HEROs Close-Up

雉尾夏樹

第1話 新人ヒーロー スパークボーイ 上

私はヒーローになりたかった。


弱気を助け、強気を挫く。

人々を救い、人々に愛される。

そんな存在に、私は強く憧れていた。


無論、それに向かって努力を惜しまなかった。

勉学や運動は常に好成績、ボランティアにも参加し、ヒーローになるための研究も欠かさず行なった。


でも、結局私は凡人で、特別な力にも目覚めず、放射線を浴びて特殊能力を得たり、研究所から抜け出した蜘蛛に噛まれることもなく結局は「ただの人」でしかなかったのだ。


それでも諦めきれなかった私はせめて彼らの近くにいたくて、地球防衛軍に晴れて所属することになった。

そして私は、今━━━。




「隊ちょーーう!!助けでぇぇぇっっ!」

涙と鼻水を撒き散らしながら汚く叫び散らかしていた。

とあるマッドサイエンティストが造った実験生物が暴れ出したという知らせを受け、現場に急行し、ヒーローが来るまでの援護を行なっていたが、実験生物に襲われそうになった少女をかばい、その結果怪物の触手に捕まり、逆さ吊りのあられのない姿を晒してしまっていた。

「何をやってんだお前はぁっ!?」

自分の所属する部隊の隊長である灰崎の驚愕と呆れの感情がブレンドされた怒声がこだまする。


それはそうだろう。

本来、私たちの任務はヒーローのサポートと市民の安全を守ることで、わざわざ人質になることではない。

いや、でも女の子を守ったんだ。守った結果宙ぶらりんになってるだけで。


チッ、と軽く舌打ちをした後、

「少し待ってろ。」と灰崎がビームサーベルを構えた。

地球防衛軍のメンバーは武器としてビームサーベルと拳銃が支給されているのだ。

しかし、武器を向けているのを黙っているほどこの怪物も馬鹿ではない。次の狙いを灰崎へと向け、触手で攻撃を繰り出した。

しかし、さすがは歴戦の防衛軍の隊長。

その幾多もの連撃を交わし、いつのまにか握っていた怪物が暴れて出てきた砂埃で目潰しをした。

怪物が苦しんでいる隙に私に纏わり付いた触手を切断し、まるでお米を担ぐように肩に乗せられ撤退した。


「……もうちょっと丁寧に運べないですかね。

私まだピチピチの乙女ですよ。」

「いいだろ、お米様だっこだ。」

「お姫様だっこみたいに言わないでくれません!?女の子をモノみたいに担ぐな!」

「女の子扱いされてぇならせめて鼻汁まみれの顔拭いたらどうだ!ナマ言うな小娘が。お前後で説教だからな!」

担がれながら口論していると、怪物の方も体勢を立て直したようだ。明らかに私たちに執着しているようだ。

「あー!?完全に怪物がキレてる!隊長のせいだ私は無関係です許してくださぁい!」

「何恩人を売ってんだ!?振り落とすぞガキ!」

それに、もう大丈夫だと灰崎は続ける。

「ヒーローが来た。」


逃げる私たちとすれ違った男。

無骨なヘルメットと銀色のタイツ。手足や関節部には金属製のプロテクターを着用し、わずかに見える口元は不敵な笑みを浮かべていた。


最近売り出し中の若手最大手のヒーロー、スパークボーイである。

彼の能力はシンプルかつ強力。

「かますぜぇ……!!」

両手を合わせるように力を込める。

するとその手の間に電光が迸り始めた。

そう、彼の能力は、

「『スパークブラスト』ッッッ!!」

放電である。


放たれた電気は怪物を貫き、直視できないほどの眩い光が消えたと思えば、怪物は既に丸焦げになり、脆い炭のやつに崩れていった。


街から脅威は無くなり、人々から歓声が上がる。

もう大丈夫、なぜならヒーローが自分たちを助けに来てくれた。これに勝る喜びはこの世にもそうはないだろう。

彼の元に民衆が駆け寄り、彼の偉業を称賛する。まるでスーパースターだ。


「おい、何突っ立ってんだ。俺らはまだ仕事あるだろ?」

その光景をじっと見ていたら灰崎に軽くどやされてしまう。

これから私たちはこの事件の復旧や怪我人の搬送など、いわゆる「後始末」を行う。

これが、私の仕事。

決して晴れやかではない、表舞台とは真逆の端役ですらない裏方。でも、

「お姉ちゃん!ありがとう!」

先ほど庇った少女が自分に駆け寄り、天真爛漫な笑顔を向けてくれた。

少なくとも、彼女にとって私はヒーローになれたかな。

そう満足して、自らの仕事へと戻っていった。




「……で、終われると思ったか?」

「……いいえ。」

私は今、面談室にて灰崎に詰められていた。

先ほどの少女を庇った件、確かに人としては正しい行いだが、組織人としてはいただけない。

ヒーローのサポートを行うところを逆に足手纏いになってどうすると懇々とありがたいお言葉をいただいていた。

こういう時の対処法は、とにかく自分の思考を違うことに向けることだ。

今日の夕飯どうしようかな、最近野菜取れてないし適当に煮物に入れようかな。

そういや貯まってる配信の未視聴消化しないとな、と思考を遥か彼方まで飛ばしている時だった。


「……というわけで、次回出勤よりお前は部署が変わるからな。」

「えぇっ!?」

「ええじゃないが。」

「さ、左遷……?」

「さては話聞いてなかったな。」

とため息を吐かれた。

「配属されてどれくらい経った?」

「3ヶ月ですかね」

「その間どれほどトラブル起こした?」

「えぇっと、それは…っすね。」

確かに私は先ほどの件以外でも、命令に背いて市民を守るために危険な行動を起こしたり、ヒーローに対して「もう少し早くこいよ」と文句を言った市民に食ってかかったりと現場でちょくちょくトラブルを起こしていた。

「まあ、なんだ。先ほどの件も含めてもう上も面倒見切れなくなったんだろう。しかし、ヒーローに対するリスペクトや市民を守るという点に関しては評価されている。そこで、普段の任務とは違う特殊な任務にお前を任命することになったんだ。」

私はその言葉を受け、感激した。

なんだ、私のやってきたことは無駄じゃなかったんだ、ちゃんと評価されてたんだ、特殊な任務ってなんだろうと目を輝かせていた。

「というわけで、お前は次から新部署「広報部」な。」

「広……報……。」

私の目の前は真っ暗になった。

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