第33話

私が流鏑馬にハマればハマるほど、夏はどんどん熱くなっていくのが鬱陶しい。


お盆休みを過ぎてそろそろ夏休みが終わろうと言う頃に、第二の面談期間が始まり今日は彼ら二人が三者面談の予定だ。


本日は学校での練習で午前中に春馬、海馬の順番で面談が行われるらしい。


さっそく春馬くんが面談に行ってしまったので、私は海馬と二人で弓道場に残った。


練習を続けようと思ってはいたが、今日はあまりに暑かったので休憩することにした。


「どうしよう…。面談で何か怒られるかな…。」


海馬はそれなりにやんちゃなタイプなので、クラスではちょこちょこ怒られていたらしい。


「勉強頑張ってたし平気じゃない?」


私が励ますと「そうだといいですけど」と苦笑いした。


「結月さんみたいな優等生って、絶対すぐに面談が終わりますよね?話すことあるんですか?」


彼は不思議そうに尋ねてきた。


「そんなことないよ。今回は進路の話があったし、転入生は勝手にいろいろ心配されるし。」


「大学受験か…。先輩は結局どうするんですか?」


「東京の大学で推薦取れるかもって言われて。ここに残るかどうしようか迷ってる。」


この話題は、なんだかんだで最近の一番の悩みだった。


「どっちの大学に行っても、私のやりたいことはできそうだし…。」


問題は流鏑馬をどうするか。早く大学を決めて全国大会に集中したいなら東京に行くべきだ。だが、東京に行ってしまったら、今後流鏑馬ができる保証がない。


「高校を卒業してからも流鏑馬は続けるつもりなんですか?」


海馬にそう尋ねられた瞬間、私はハッとした。

そういえば、なんで流鏑馬を続ける前提だったんだろう。


流鏑馬を続けると言ったら二人は喜んでくれるだろうが、卒業後も彼らの世話になるなんて、ちょっと図々しいか…。


「ホント、どうしようかね…。」


俯いて呟くとちょうど春馬くんが帰ってきた。


「海馬、もうすぐだぞ…。」


「はーい。」


海馬は「じゃあ!」と私に手を振って校舎棟へ向かっていった。


つづいて隣に春馬くんが座り、彼は大きくため息をついた。


「担任の先生が『進学しろ、もったいない』ってうるさくてさ。俺は神社を継ぐから行かないって言ってるのに。」


「まあ、ちょっともったいないとは私も思うよ。でも、春馬くんが決めたことが一番重要だし。」


「お前は結局どうするんだ?」


ズバリ聞かれて私もため息をついた。


「先生に、東京の大学で推薦取れるって言われてさ。流鏑馬の大会に集中するなら、9月中に事は片付けておきたいかも。でも…。」


「そうだよな。結月こそ、田舎の公立大学なんてもったいないし。」


春馬くんにそう言われて、私は嬉しいような寂しいような気がした。心のどこかで勝手に東京に行くことを止めてくれるかもなんて期待していたんだろう。


そろそろ両親に何を言われるかわからないし、学習の質や生活面で考えても、東京に戻ったほうが良いことは明白だ。流鏑馬以外の観点でみたら、全て東京での大学生活に軍配が上がる。



高校を卒業してからも流鏑馬は続けたいが、冷静に考えるとメリットも理由もない。


というか、なんで流鏑馬やってるんだっけ…?


「まあ、そろそろ田舎暮らしも飽きてきそうだし。」


思ってもいない事を口にしたのは、自分の中で何かを誤魔化そうとしたせいだ。

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