第20話
あの後、絶対に眠れないと思いながらもすぐに眠りについた私は、7時半に目覚ましが鳴るまで熟睡するのであった。
急いで身支度を整えた私は、彼らの両親に深々とお礼を告げて帰宅した。
本当は二人にも挨拶くらいしておこうと思ったが、お母さんが言うには二人とも10時くらいまで起きないようなので仕方ない。
今度会った時にちゃんとお礼をしようと心に誓って、自転車を走らせた。
家に帰ると、予想通り祖父母から質問攻めを食らった。
「いやあ。こんな時期に転校して友達できるか心配だったけど、こんなに良い友達に恵まれるなんて。」
「
祖母の話を聞くなり、やっぱり私が昨日泊まったのは陽茉莉の家だと思われているようだ。
「あ、昨日は陽茉莉じゃなくて…。別の友達の家だったの。」
細かいことは濁しておいた。
「あら、どなただったの?」
「岡崎さん。」
わざと下の名前は言わなかったのに、なぜか感の鋭い祖母は私の顔を見るなり怪しむような表情をした。
「岡崎さんって、もしかして流鏑馬教えてくれる人?」
「そうだけど。」
「たしか、春馬とかいった…。」
私は目をつむって頷いた。
「おお、男か!まさかひ孫の顔まで見られるとはな…。」
「ちょっとあなた!まだ高校生じゃない。さすがに挨拶くらいくれる子じゃないと許せないわね…。」
二人とも絶対に変な妄想をしているが、別にそういうワケではない。
「二人とも何言ってるの?弓を引く人だよ。それ以上でもそれ以下でもない。」
弓の道で惚れた腫れたなんて、邪心にも程がある。
中堅くらいの弓道部はだいたい部内恋愛禁止なわけだし、弓を引く人同士は恋愛に向いていない。
「あなたの両親見てればわかるでしょう。そんなの迷信に決まってるじゃない。」
おばあちゃんは呑気にそう言った。
「興味ないの。」
きっぱりと断った私は洗面所に向かい昨日の分の衣服を洗濯するのであった。
一人になって、冷静に考える。
春馬くんと私?
こっちはともかく、向こうも私なんてごめんだろう。
ないないと首を横に降ってその場を後にした。
あの後、試験前ということで部活は一時活動休止となった。
クラスが一緒のため春馬くんには教室で会っていたが、特に態度が変わることはなかった。
果たして私は何を期待していたのかと我に返って、私も普段通りに過ごした。
時が過ぎてテスト週間が始まる頃に、以前連絡をした東京の弓道部の友達からメッセージが送られてきていた。
「長谷川先生が話があるって。『時間がある時に連絡待ってます』って。」
そんなメッセージと共に電話番号が送られてきていた。
彼は私が東京にいた頃の弓道部の顧問なのだが、なにを今更といったところだ。
おそらく、私が今も弓を引いていると知って、戻ってくるように説得したいのだろう。
わざわざ連絡する気にもなれなかったのでとりあえず彼女に返信だけしておいた。
「先生私のこと何か言ってた?
いまさら話すことはないですって伝えておいて。」
彼女には申し訳ないが、伝言だけ頼んでおいた。
翌日、テスト前にスマホの電源を切ろうとした瞬間に表示された彼女からの返信に私は目を疑った。
「流鏑馬のことで話したいって。」
なんとなく胸騒ぎがしたが、私は急いで電源を落とした。
黒い画面に映る自分を呆然と見つめるのであった。
何を期待しているのか。
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