自己増殖の街

ちびまるフォイ

街たちの新天地

故郷に帰ったのは何年ぶりだろうか。


「はあ、やっぱり田舎は空気がキレイだなぁ。……ん?」


最寄り駅に到着すると、公園や空き地が消えていた。

だだっ広く広がる田園風景があったはずが、高層ビルや家が立ち並んでいる。


「俺が帰っていない間にだいぶ再開発されてたんだな。

 いったい何ができるんだろう」


まだ建設中っぽい建物の近くを見てみるも、

建設中の看板やらご迷惑をおかけしますの看板もない。

何ができるかわからない。


「どうなってるんだ? いったいどこの業者がなんのために……」


その日はそれ以上を考えなかった。

数日後、また駅の近くを歩いているとショッピングモールができている。


「いつの間にできたんだ!?」


不思議なのは駐車場がないこと。

それに軒を連ねている店が道路にはみ出て歩道を侵食している。


「なんて無茶苦茶な建設なんだ。いったいどうなってる……」


誰に文句いえばいいのかわからない。

翌日、同じ場所に向かうと、今度はモールの屋上に観覧車ができていた。


「誰が作ってるんだよ!?」


工事業者が出入りした様子はない。

家から寝袋をもって街を見張ることにした。


「きっと誰か悪いやつが勝手に建築してるに違いない。

 そいつをとっ捕まえてやる」


コーヒーを浴びて目をギラギラさせながら見張り続けた。

犯人はいなかった。


なぜなら街はひとりで勝手に成長していたから。


地面からミニチュアな一軒家の芽が出る。

それが日増しに大きくなり一軒家として生み出される。


高層ビルは勝手に階層を増やして、

地上から見える空の面積を減らしていく。


「ま、街が……街が勝手に成長している……!?」


そのことに気づいてから、すぐに地域に情報を共有。

地元の大工さんたちが協力してくれた。


「てやんでぃ。俺達の街を勝手に侵食するなんてゆるせねぇ!」


「見てろぃ。なんの許可もなく作られた街はぶっ壊してやる!」


トラックや、テレビでしか見たこと無い鉄球つきの重機がやってくる。

自己成長する街に鉄球がぶつけられ、ショベルカーが壁をはぎとる。


「いいぞいいぞ! 街を壊しちゃえ!」


人間の手が入ったことで自己成長する街は消えた。

今はただの瓦礫の山になった。


こうして街はふたたび守られた……。



翌日、ふたたび街が復活するまでの間は。



「なんでまた街が……」


昨日すべて破壊したはずなのに、その瓦礫の山から新しいコンビニ。

新しい一軒家、新しいビル、新しい公園が生み出され始めていた。


「べらんめぇ! どうやら本気で破壊しねぇとダメみてえだな」

「今度は瓦礫すら残させねぇぜ!!」


ふたたび重機が動員されて街の破壊へと立ち向かう。



……が。



「ちきしょうめ! 鉄球が弾き返される!」

「どうなってやがる! シャベルが通らねぇ!」


自己成長する街は学習していた。

以前に破壊されたよりも頑丈になっていた。

もう壊すことはできない。


日に日に街の自己増殖は拡大を続ける。


しだいに街は居住区へと建築の手を広げ、

すでに人が暮らしている家やアパート、マンションを飲み込んで拡大する。


「住民のみなさん、仮設住宅に避難してください! 街にのまれます!」


街に追いやられた住民たちは辺境の地に作られた仮設住宅に送られた。

自分の家も街に吸収され、今や入ることはできない。


「なんでこんな目に……」


プレハブ小屋のような部屋で震えていると、電気が点滅し始める。


「な、なんだ……? 停電……?」


雷や地震は無い。影響は電気だけではなかった。

水道も止まり、ガスも届かなくなる。


「どうなってる……。これじゃ暮らせないぞ」


問い合わせると水道局の人も絶望していた。


「街の……街のせいです」


「はあ?」


「あの自己増殖する街には水道が通っています。

 そっちに水道ぜんぶもっていかれて、仮設住宅まで届かないんです」


「そんなばかな!?」


電気もガスも水道も、はてはwifiまでも。

巨大化を続ける街にそのリソースを食いつぶされて、

人間が暮らす場所まで届かない。


勝手に増殖する街の家やビルで道路はふさがれ、

宅配はおろか警察も入ってこれない。


仮設住宅で暮らす人達は絶望した。


「もう終わりだ! 我々は街に食われてしまう!」

「いっそあの街で暮らそう! ここよりずっといい!」

「あんな違法建築の街で暮らせるわけないだろう!?」


増殖する街は建築法ガン無視で危なっかしい違法建築だらけ。

人が住もうものなら、いつ床が抜けるか、柱が落ちてくるかわからない。

人間が作った街でないと人間は暮らせない。


「ああ、もう空が見えない……」


空を覆い隠すほどの巨大な街が四方から仮設住宅エリアを取り囲んでいた。

誰もが諦めかけたとき、遠くから拡声器の声が聞こえてくる。



「住民のみなさん、まもなく爆撃が開始されます!

 地下のシェルターに隠れてください!!」



「ば、爆撃!?」


空から街の自己増殖を発見した国の偉い人達。

住民たちを救うべく増殖する街を根絶やしにする空爆作戦へと踏み切った。


住民たちは地下のシェルターへと逃げ隠れる。


《 まもなく爆撃を開始します 》


シェルター内にアナウンスが流れる。

地下であっても地上の衝撃はずしんと届いた。


何日も突き上げるような振動が続く。

やがて落ち着いたとき、シェルターにアナウンスが届いた。


《作戦終了しました。地上に戻れます》


「やったーー!!」


地上への階段をかけのぼり、シェルターのフタをあけた。

辺り一帯は焼け野原になっていた。


「すごい……。なにもかもなくなっている」


あれだけ増殖と栄華を極めていた街が、今は瓦礫ひとつなくなっていた。

まっさらな更地だけが残されていた。


これだけ徹底して潰していれば、もう街がこの地で復活することはないだろう。


「ああ、よかった。これでひと安心だ!」


街に襲われる恐怖から解放された。

大きく伸びをして空を見上げる。


今までは増殖と成長を続ける街のせいで見えなかった月がよく見える。


「空が広いや……」


星がきらめく空に感動……。



よく目を凝らす。



月になにか黒い点のようなものが見える。


「なんだろう? あんなの前にあったかな?」


スマホのカメラを最大望遠にして月を拡大する。

黒い点がなにかわかった。



「街だ……」



月面にはショッピングモールやら一軒家や高層ビルが、

じわじわ勢力を広げている様子が見えた。

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