不遇悪役貴族に転生した俺、大罪魔法で最強へ ~バッドエンドだらけの不遇キャラに転生したけど原作知識と最強の魔法ですべてを薙ぎ払う~

嵐山田

第一章

嫉妬編

第1話 今日という良き日

 バチンと雷に打たれたかのような感覚を覚え、その瞬間に全てを思い出した。


 ここは俺の住んでいた世界じゃない、ゲームの世界だ。

 しかもここって……。

 少し離れた場所に立っているメイドに怪しまれないようにチラッと周囲を見渡す。

 ここはファレス・アゼクオンの部屋じゃないか!


 なんて驚いたように思って見せたけど、当の俺自身は大して驚いた感覚がない。


「おいおい……どうなってるんだ?」


 思わず言葉が漏れてしまう。

 現実の感覚と俺の感覚がズレていることに今まで気が付かなかったなんて。

 

 ……俺の記憶が正しければ、ファレス・アゼクオンは悪役中の悪役貴族。

 たしか――

 思考の海に沈んでいこうとしたところでそれを阻む声がかけられた。


「ファレス様どうかなさいましたか?」


 主人の異変は一片足りとも見逃さないとでも言わんばかりの真剣な眼差しでこちらを伺う俺のメイド、サラ。


「ああ、いや……気にするなサラ」


 サラリと口から吐き出された言葉は正しく悪役貴族ファレス・アゼクオンのもの。


「左様にございますか……何かございましたら遠慮なくお申し付けを」


 何故か少し頬を紅潮させたサラがこちらへ踏み出した足を元の位置に戻しそう言った。


「ああ、ではサラ。……今日の日付を教えてくれ」


「日付、にございますか?」


 ……さすがに質問がおかしかったか?

 でも、ファレスにとって時間は最重要項目なんだ。あまり疑ってくれるなよ?


「本日は帝国歴三百七十一年四月二日でございます」


 そうかそうか……って待て待て、これじゃいちばん重要な俺の年齢が分からないじゃないか!


「では、俺の年齢を言ってみよ」


「数えで十一歳にございます」


「そうか、……今日は良い日だな」


「は、い……? そうでございますね?」


 ……あ、あー。確実におかしいって思われてるよ。

 言葉に詰まって変なことを言ってしまった……。

 俺だって突然良い日だとか言われたら戸惑うわ。

 どうにか取り返せないものか……

 ………………四月二日、か…………

 ……そうだ!


「サラはいくつになった?」


「! 大変恐縮ながら本日付で十二歳となりました」


 サラは衝撃からか、嬉しさ半分恥ずかしさ半分と言ったようにしりすぼみに声を小さくしていく。


「そうだったな。簡単だが祝いの言葉を……おめでとう、これからも宜しく頼む」


「は、はい! 微力ながら今後もお仕えさせていただきます」


 ふぅ……何とか上手くいったか。

 ハハハ! 舐めるなよ! 俺はこの世界、いや原作ゲームの超ヘビープレイヤー。

 何年生まれかはさすがに覚えていなかったが、主要キャラクターの誕生日程度は網羅している。


 ……だが、うーん?

 なんか、サラの態度が好意的過ぎないか?

 まあ、メイドからしたら主人に誕生日を覚えていて貰えたって嬉しいことなのかも?


「今日は良き日だ。急だがサラに暇を出そう。誕生日くらい好きに過ごせ」


「そんなっ!? いただけません! 私はファレス様のメイドです! この職こそ至上の喜び。暇など……」


「俺の言うことが聞けないと?」


「!? いえっ、滅相もございません。……承知しました。不承このサラ、本日は暇をいただきます」


 ごめんねサラこんな言い方をして……。

 でも今は一人で考えたいことが沢山あるんだ。


 目の前の引き出しを開け、やけに派手な留め具の付いた袋から金貨を三枚取り出す。


「サラ、手を出せ」


「はい?」


 不思議そうな顔でこちらを見ながら両手を伸ばすサラの手に取り出した金貨を置いた。


「好きに使え」


「!? このような大金とても……。……いえ、ありがたく頂戴いたします」


 また遠慮しようとするも、直前のやり取りを思い出したのか今回は恭しく受け取ってくれた。


「ああ、今日は良き日だ」


「……はい。生まれ落ちてから今日ほどの良い日を私は知りません」


 深々と頭を下げるサラが部屋を出ていくのを見送り、しっかりと施錠をすると念の為、カーテンも閉めた。


「さて……」


 大きく息を吸うと深く吐き出す。


「……異世界転生ってマジ?」


 何度も何度も辺りを見回す。

 机に置いてあった鏡で自分の顔も確認した。

 少し長めの銀髪に薄い水色の瞳……ああ、イケメンだ。

 

 ……なんて余計な思考を挟まないと理解が追いつかない。

 だがやはりどこを見ても、さっきのサラの反応からも、もう疑う余地がない。


 この世界は「誰がコンプできるんだよっ!」と世間から突っ込まれまくった圧倒的ルート分岐を持つ超大作RPG『マーチス・クロニクル』の世界だ。

 選択肢以外にもプレイヤーの行動ひとつひとつにフラグがあり、同じ行動をしたつもりでも全く別のエンディングにたどり着くこともザラにあることから、擬似人生や第二の人生と揶揄されることもあったほどだ。


 とはいえまさか、本当の意味で第二の人生になろうとは……。


 だが、このゲームのヤバさはそれだけではない。

 ほぼ全ての登場人物がプレイアブルキャラクターとなっているのだ。

 ちなみに先程、俺のメイドとして現れたサラも主人公でこそないが、れっきとしたプレイアブルキャラクターの一人。

 大枠こそ定められているものの、基本どんなキャラクターを選んでもプレイヤーが不自由することは無い。

 そう、この俺、ファレス・アゼクオンを除いては。


 ファレス・アゼクオンはアゼクオン侯爵家の一人息子として生まれる。

 その通称は遅すぎた才能や世界で最も運営に嫌われた男など中々なものだ。

 

 原作でも屈指の才能、成長性を有しているが、その発現が遅く、侯爵家という家柄も災いして、期待の反動から失望が大きく、周りから蔑まれて生きてきた。

 ゲームスタート時の年齢である十五歳の頃にはすっかり悪役落ちしてしまっているのだ。

 

 この世界での強さ、能力の基準は圧倒的に魔力へ比重が傾いている。

 そして大半の者は十二歳までにその力、魔力を発現させる。

 これを魔力覚醒と言うのだが、この覚醒には条件があり、それが覚醒ラインを保有魔力量が超える必要があるというもの。

 つまり魔力覚醒ラインが高いものほど覚醒が遅くなるということだ。

 ここまで言えば大半の人は察しがつくと思うが、このファレス・アゼクオンはこの覚醒ラインがあまりにも高かった。

 だが、この覚醒ラインはこの世界では認知されていない、いわゆるデータ側の情報。

 よってファレスは無能と蔑まれ続け、無事性格がひん曲がり、魔力を覚醒する頃には立派な悪役となっているわけだ。


 家柄に擦り寄ってくる者を従えて、自分をバカにする奴らをボコボコにさせる。これが原作のファレスルートの大枠。


 結局いつも取り巻きの誰かに裏切られてはバッドエンドを迎える。

 作中一の不遇キャラ、それがこのファレス・アゼクオンだ。


 とはいえ、まだ十一歳。

 ファレスの誕生日は八月だからあと四か月ある。

 何としてもそれまでに魔力覚醒を達成し、ファレスの圧倒的才能を余すことなく発揮できれば!

 学園編で死にまくるファレスルートで前人未到のハッピーエンドを迎えることが出来るかもしれない。


 せっかくの転生なんだ。

 このファレスの圧倒的潜在能力をフルに発揮して、悪役ではなく最強としてこの名を轟かせてやる!


 さしあたって必要なのは……


 そう考えた所でコンコンコンと三度のノック。


「ファレス様、サラです。どうかお目通り願えませんでしょうか?」


 サラ? さっき暇を言い渡したはずなのに……いくらなんでも早くないか?

 そう思ってカーテンを少し開けてみると、辺りはすっかり日が落ちて夕方になっていた。

 だいぶ考え込んでいたみたいだ。


「いいぞ……入れ」


 そう言って鍵を開けてやると、おずおずとサラが入ってきた。


「良き日を過ごせたか?」


「はいっ! その……」


 俺の質問を受けて何故かモジモジとし始めるサラ。

 サラがこんな態度を見せるなんて珍しい。


「どうかしたか?」


 そう聞くと意を決したというように、背筋をピンと伸ばし真っ直ぐに俺の顔を見つめてくる。


「あ、あの……ファレス様! どうかこちらを受け取ってくださいませんか?」


 おっかなびっくりな調子で俺に差し出されたそれは、正しく今、俺が欲していた物だった。

 黒をベースに赤いラインが中央を走り、どこか禍々しささえ感じさせるそれ。


「これは……」


「お叱りならば、いくらでもお受けいたします。折檻も覚悟の上です! ですが、もしかするとファレス様のお役に立てるかもしれないと愚考いたしました!」


 土下座のない世界だと言うのに同じくらい低姿勢になっている。

 まあ、これを渡すってことは魔力覚醒が遅いんじゃ? って思われてるってことだからな。


「サラ」


「はい」


「渡した程度の金額で買えるものでは無いはずだが?」


「は、はいっ。恐縮ながら今までに頂き、貯めていたものを使いました」


「……そうか」

 

 サラが俺に買ってきてくれたもの。

 それは吸魔の指輪というアイテムだ。

 

 あらゆるところから吸収される魔力の総量を格段に上げてくれるという、非常に有用なアイテムだが、これをつけていること自体が無能の証として見られるため、貴族階級では人気のないアイテムでもある。

 ただの指輪なら外せばいいのだが、この指輪はいわゆる呪いのアイテムで、一度つけてしまえば神聖魔法でないと外すことができないという厄介物なのだ。


「――っ」


 サラは俺に指輪を渡してから、一切顔をあげようとしない。

 まあ確かに、原作のファレスにこんなことしようものなら酷い目に合わされること間違いなしだ。

 だが、俺は原作のファレスでは無い。


「サラ、お前の心遣いに感謝しよう。これはありがたく使わせて貰う」


 今は貴族のプライドを気にしている場合じゃない。

 せっかく来た異世界なんだ、持てる力全てを余すことなく使い切り、最高の人生にしてやる!


「……!? ファレス様?」


「なんだ?」


「い、いえ……なんでもございません」


 おかしなものを見るような目をするサラを傍目に、俺は早速『吸魔の指輪』を左手の人差し指に嵌める。

 

「ゔっっ……」

 

 指輪を嵌めた途端、何かがものすごい勢いで身体に吸収されていくのを感じ、その勢いと慣れない感覚に圧倒され、思わず膝をついてしまう。


「ファレス様っ!?」


 俺の様子を見るや、これまたすごい勢いでサラがこちらへ飛んでくる。


「申し訳ありません! 私がこのようなものを――」

「ハハッ! ハハハハハ!」

「ファレス様?」


「サラ、やはりお前は素晴らしい。嗚呼、今日は本当に良き日だ!」


 吸魔の指輪を嵌めた瞬間俺の身体に入ってきたのは魔力だ。まさかファレスの才能とこの指輪が合わされば、これほどの効果になるとは……。


「サラ、ひとつ頼まれてくれるか?」


「はいっ! なんでございましょう?」


 未だ慣れない感覚に何とか抗いながらよろよろと立ち上がると、今朝、金貨を取りだした袋をそのままサラに渡す。


「早急に吸魔の指輪をもうひとつ買ってきてくれ」


「はいっ!! 承知いたしました!」


 俺の部屋を出るまでは、一切の無駄がない身のこなしを見せ、部屋を出るとすぐに勢いよく駆け出していく音が聞こえる。


 ファレスのことは元々嫌いではなかったが、やはり周りへの冷たい態度は苦手だった。

 だと言うのに、いちばん身近なサラがこんなに優秀で言う通りに動いてくれるとは……原作ファレスもサラくらいは大事にするべきだったよな。


 吸魔の指輪の効力を少しでも高めるために窓を開け、吸収する範囲を拡大する。


「ここは本当にマーチス・クロニクルの世界なんだな」


 窓の先に開けた、日本とは全く別の環境にそんな思いを改めて抱いた。


 窓枠に腰を掛け、大気中に漂う膨大な魔力を吸収していく。

 さすがは天性の才能の持ち主であるファレスだ。

 このままの調子にもうひとつの吸魔の指輪を加えたなら四か月と言わず、四日から一週間程度で魔力覚醒まで達することが出来るんじゃないだろうか。


「ふ、ファレス様! ご要望の品を用意してまいりましたっ!!」


 え……サラ!? 早くない??

 確かに早急にとは言ったけど、そんな顔を真っ青にしてまで全速力で行けと言ったわけじゃないんだが……。

 まあ、早い分に越したことはないか。


「助かる。今は集中したい故、その指輪を俺の指に嵌めてくれ」


「は、はいっ!? 私めがでしょうか?」


「他に誰がいると言うんだ。今は時間が惜しいんだ。急げ」


「承知いたしました。失礼いたします」


 おずおずと俺の右手の人差し指にもうひとつの吸魔の指輪を嵌めてくれる。


「助かったぞサラ。急で悪かったな、そこにでも腰を掛けて休め」


 手を膝に置いて空に向け、そのほかの神経を全て魔力へ向けるよう意識しながら、未だに顔色の悪いままのサラを労う。


「あ、ありがたいのですが、ファレス様……」


「なんだ?」


「ファレス様が吸収されている魔力が規格外で……これ以上お傍に居られず……」


 絞り出すように何とか言葉を紡ぐサラの様子は、現在も刻一刻と悪くなっているように見える。

 ……俺の吸魔は他人にすら影響を及ぼすのか。

 さすがは作中最強のファレス……。


「そうだったか、では今日は休め。明日も頼むぞサラ」


「はいっ! 失礼いたします」


 軽く頭を下げると、どう見ても辛そうなのに俺の部屋を出るまでは全く姿勢を崩さずサラは下がった。

 そんなサラを見送ると、俺は明け方まで吸魔に勤しんだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


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