【詩・エッセイ】「夕焼け色の果実〜スイカを食べない子になりたかったな〜」

スイカを、落とした。

ぐしゃり、と音がして

甘い汁が 机いっぱいに広がり、垂れる


ああ、これは──

誰にも見せなかった涙の味?

したたった怒り?


食べたかったわけじゃない

……いや、食べなきゃいけないって、言われたから。


好き、だったのに。

毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日!!!


スイカ、スイカ、すいか、すいかって!?

好きだよ?──大っ嫌いになるくらい、食べ尽くしたからねっ?


ただ、口を塞ぎたかった

言葉の代わりに、スイカを齧って

赤い果肉で

赤い感情を、塗り潰して、飲み下す


……これ以上、どうしろって言うんだよ

無理なもんは、無理だって、わかれよ


窓の向こう

沈みかけた太陽が

こちらを見ていた

「それで、本当にいいの?」と

まるで、問いかけるように


答えは もう出ていた

ずっと前に


口のなかで消えかけた──

吐き出したかった種のような

苦くて、小さな「やめて」が

喉につかえている


それでも

今日も笑って言うんだ


「スイカ、甘かったよ」


美味しいよ。ありがとう、って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る