レンタル彼女の正体は垢抜け成功した高校時代隣の席に座っていた子だった件
夜道に桜
第1話
大学生になって、ちょっとだけ俺の人生はマシになった――はずだった。
中高と陰キャ。恋人ゼロ、友達もゼロに近い。
でも大学に入ってからは、努力した。
コンタクトにして、髪型変えて、服もちゃんと選ぶようにして。
いわゆる“大学デビュー”ってやつ。
まあ、最低限の清潔感くらいは出せるようになったと思う。
でも。
「で? その見た目で彼女いないの、どうなの神谷?」
──と、同じゼミの陽キャ代表、岸川に言われた。
「やめろ、刺さる」
「マジでさ、経験値がゼロってのは致命的なんだって。お前、レンタル彼女使えよ」
「どこの世界線の話だよ」
「マジマジ。ほら、これ。“Re:彼女”ってアプリ。女の子をレンタルできる」
「レンタルって言い方、だいぶアウトじゃね?」
「まあ恋人ごっこサービスだよ。初回は60分3000円。割と安いぞ? てか俺、無料クーポン持ってるからやってみ?」
気づいたらアプリをインストールされてた。
なぜかクーポンコードまで勝手に打ち込まれてて、
気がついた時には──
『本日17:00 カフェ待ち合わせ。担当:白のトップス・ピンクのスカート』
──予約、入ってた。
# *
午後五時。
駅前のカフェで、俺は死にそうな顔をしながらベンチに座っていた。
「あー……やっぱ帰ろうかな……」
初回クーポンで実質タダ。だからって、こんなことしていいのか俺。
「神谷湊くん、ですよね?」
思考が止まった。
金髪。白ニット。ピンクのスカート。
派手ってわけじゃないのに、全身から“モテ”のオーラが出てた。
「あ、はい……俺が神谷です」
「よかった。今日の担当です、よろしくお願いします」
え、なにこの笑顔、反則じゃね?
普通に芸能人でもやってけそうなルックスだった。
ふわっとした声と仕草が、完全に“彼女”だった。
「じゃ、行こっか? お店こっちで合ってるよね」
軽く腕を取られて、俺は何も言えずそのまま連れていかれる。
──めちゃくちゃ彼女だ、これ。
# *
「湊くんって、デートしたことある?」
「いや……ない」
「ふふ。じゃあ今日はデートデビュー記念日だね」
こっちはひたすら緊張してるのに、彼女は終始にこやか。
話題も尽きないし、返しも上手い。
適度に褒めて、たまにからかって、ちゃんと甘やかしてくれる。
これ、プロじゃん。怖。
「ちなみに、アプリの方は自動決済済みだから安心してね。延長とか希望あったら早めに言ってくれると助かるかな」
「あ、うん。わかった」
スマホを確認すると、初回クーポンで3000円分、ちゃんと支払い済み。
……うん、ちゃんと金払って“彼女”してもらってるんだよな、俺。
でも。
時々、なぜか既視感があった。
グラスの持ち方。目を伏せる仕草。
柔らかい笑顔の奥にある、何か。
(……いや、そんなバカな)
でも、それは思い出せそうで思い出せない。
喉の奥にひっかかった棘みたいに、ずっと残ってる。
そんなことを考えていたら、あっという間に60分が終わった。
# *
「じゃあ、これでレンタル終了です。ありがとうございました」
カフェを出て、駅前のロータリー。
彼女がきゅっと空気を切り替えたのが、わかった。
さっきまでの甘さが嘘みたいに、声のトーンが“仕事モード”に変わっていた。
「ご利用ありがとうございました。もしまたご希望あれば、アプリから指名もできますので」
「……うん。ありがと」
「お気をつけて、お帰りくださいね」
小さく会釈して、彼女は背を向けた。
ガラスに映ったその横顔には、もう笑顔はなかった。
ただ、まっすぐ前を見て歩いていく、その後ろ姿だけが残っていた。
俺は、スマホを取り出して彼女のプロフィール画面を開く。
「……またやろ」
つい、そんな独り言が漏れた。
理由は――自分でも、よくわからなかった。
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