こんにちは!神です。

@ParadiseUehara

第1話「美女(自称)に神からDM」

人は見えないものについて、常には目が向かないものである。

他人の気持ちや物事の概念、そして超常現象や神などの超越的な存在についても。


「はぁ......」

東京・神保町にある広告会社BigApple社のオフィスで、神田命子は深いため息をついていた。

入社2年目で、広告業界に入りたかったわけではないが、大学受験に失敗してビジネス系の専門学校へ。そして今の会社に就職した。

「命子ちゃん、そんな深いため息ついて。もしや恋の悩み?」

隣の席の先輩が心配そうに声をかけてきた。この会社では誰もが「先輩」と呼ばれる。名前で呼ぶ文化がないのだ。

「先輩、違います。私ほどの美貌を持つ女性が、恋愛で悩むわけないじゃないですか」命子は髪をかき上げながら答えた。実際、彼女は美人だった。中途半端に容姿がいいせいで、自意識過剰になってしまったのが問題だが。

「じゃあ、仕事?」

「......それも違います。私は完璧主義者ですから、仕事も完璧にこなしています」

嘘である。今朝もクライアントから「提案が堅すぎる」「もっと遊び心を」と言われたばかりだった。

元々創造性があった命子だが、真面目すぎる性格と、天然なところが災いして、いつも空回りしてしまう。


昼休み、命子は一人でスマホをいじりながら弁当を食べていた。InstagramのDMに通知が来ている。

『こんにちは!神です』

「......は?」

変なスパムDMだろう。命子は削除しようとしたが、なぜか気になって開いてみた。

『おっ、既読ついた!やっほー!神田命子ちゃん!』

「えっ」

なぜ私の名前を知っている?

『君、今日の午後3時にコーヒーこぼすから気をつけてね。白いブラウスだし』

「......なんなのこれ」

気味が悪い。ブロックしようと思ったが、午後3時という具体的な時間が妙に気になった。


午後2時58分。命子は緊張していた。まさか本当にコーヒーをこぼすわけがない。私は美しく優雅な女性だ。そんなドジなことは......

「命子ちゃん、コーヒー飲む?」

先輩が差し出したカップを受け取ろうとした瞬間、スマホが震えた。驚いた命子の手が滑り、コーヒーが白いブラウスにべっとりとこぼれた。

「きゃあああ!」

時計を見る。午後3時ちょうどだった。

慌ててトイレに駆け込み、スマホを開く。新しいメッセージが来ていた。

『だから言ったでしょ?でも大丈夫、ロッカーに予備のブラウス入れといたから』

「は?」

半信半疑でロッカーを開けると、見覚えのない新品の白いブラウスが掛かっていた。サイズもぴったり。

『どう?神様って信じる?』

命子の手が震えた。

『あ、ちなみに今月仕事頑張ると婚期が5年延長されるよ!頑張ってね☆』

「えっ!?」

ちょうど今対応している案件が取れたら、今期の予算達成なので命子は本腰をいれていた。

「なんか、いらんお告げ出してきた。」


この出会いはただの迷惑DMなのか、それとも運命が回り始めたのか命子には知る由もなかったが、ただし迷惑が振りかかることには間違いなかった。

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