チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku

第1話:『女神様、俺と付き合ってください!』

***


カチカチ、カチカチ。


無機質なマウスのクリック音と、時折響く「ッターン!」という渾身のエンターキー打鍵音だけが、ワンルームのアパートに響き渡っていた。


窓の外では、梅雨の晴れ間を謳歌するように、けたたましいほどの蝉時雨が降り注いでいる。


西日が差し込む部屋は熱帯のジャングルのように蒸し暑く、床に転がったペットボトルの表面は、びっしりと玉のような汗をかいていた。


俺、佐藤悠樹(さとうゆうき)、25歳、フリーター。

人生の輝きという輝きをすべてディスプレイの中に求め、来る日も来る日もソシャゲの周回に勤しむ、ごく一般的な青年だ。


「あと一周……あと一周でイベント限定SSRが確定する……!」


虚ろな目で呟きながら、俺は最後の気力を振り絞ってマウスを動かす。

もう何時間こうしているだろうか。

腹はとっくに減っているし、喉も渇いている。

だが、ここで立ち上がれば、イベント終了時間に間に合わないかもしれない。


それは、死を意味した。


ピロン♪


ついに、イベントアイテムが必要数に達した。

俺は歓喜の声を上げ、震える指で「交換」ボタンをクリックしようとした、その時だった。


「あ」


喉が、焼けるように渇いていた。

そうだ、水分補給。

人間として当然の生理現象を思い出し、俺は床に転がる最後の命綱、麦茶のペットボトルに手を伸ばした。


しかし、長時間の同じ姿勢で凝り固まった体は、悲鳴を上げるようにバランスを崩した。


ガンッ!


派手な音と共に、俺の側頭部が机の角にクリーンヒットした。

ぐらりと揺れる視界。

手から滑り落ちたペットボトルが床を転がり、中身の麦茶がまるで断末魔の叫びのようにブチまけられる。


そして、その茶色い液体は、運悪く足元に置いていた電源タップへとスルスルと吸い込まれていった。


バチチチチッ!


閃光。

衝撃。

焦げ臭い匂い。


薄れゆく意識の中で俺が見た最後の光景は、ショートしたPCのモニターに一瞬だけ映し出された、『アイテム交換完了!』の文字と、満面の笑みを浮かべるイベント限定SSR水着美少女の姿だった。


(あ……俺の女神……)


それが、俺のあまりにも情けない、人生の最期だった。



ふと、意識が浮上した。

死んだはずの俺は、柔らかな何かに横たわっていた。

目を開けると、そこは言葉を失うほどの空間だった。


見渡す限りの白。

だが、それは無機質な白ではない。

陽光を浴びて輝く雲海のような、生まれたての赤子の産着のような、どこまでも優しく温かい白。


天井という概念はなく、遥か上空からは、虹色の光がオーロラのように揺めきながら、きらきらと光の粒子を降らせていた。


足元に広がるのは、磨き上げられた大理石の床。

しかし、それは冷たい石の感触ではなく、まるでビロードの上を歩いているかのように柔らかく、一歩踏み出すたびに、ポロン、と心地よい音が鳴った。


鼻腔をくすぐるのは、嗅いだことのない花の香り。

甘く、しかし決してしつこくなく、心を落ち着かせる清らかな芳香が、そよ風に乗って空間を満たしている。

その風は、頬を撫でるたびに、母親の優しい手のような温もりを感じさせた。


ここは一体どこだ?

天国、という言葉が陳腐に思えるほど、完璧で、神聖な場所だった。


「目が覚めましたか、佐藤悠樹さん」


「鈴を転がすような」とは、陳腐な表現だ。

もっと、こう、聞くだけで魂が浄化され、すべての罪が許されるような、そんな声がした。


声のした方に顔を向ける。

そして、俺は息を呑んだ。


そこに、一人の女性が立っていた。


純白のドレスは、月の光を織り込んだ絹のように滑らかで、彼女の動きに合わせて優雅に波打っている。

長く、緩やかにウェーブのかかったプラチナブロンドの髪は、降り注ぐ光の粒子を反射して、それ自体が輝いているようだった。

肌は、最高級の陶磁器のように白く滑らかで、非の打ち所がない。


そして、その顔立ちは。


ああ、駄目だ。

俺の貧相な語彙力では、この美しさを表現することなど万死に値する。


アーモンド形の大きな瞳は、夏の終わりの澄み切った湖面のような、深く静かな青色を湛えている。

すっと通った鼻筋。

桜の花びらを思わせる、ふっくらとした唇。

そのすべてが、黄金比という言葉すら生み出される以前からの、絶対的な調和をもって配置されていた。


彼女は、俺が死ぬ間際に見たSSR水着美少女など、霞んで見えるほどの、まさしく『女神』だった。


女神は、完璧な微笑みをその唇に浮かべ、ゆっくりと俺に近づいてきた。


「はじめまして。私は、この世界で魂を管理する役目を担っている女神、ソフィアと申します」


「あ……えっと……」


あまりの美しさに、声が出ない。

俺はただ、口をパクパクさせることしかできなかった。


「単刀直入に申し上げます。佐藤悠樹さん。貴方の人生は、先ほど終わりを告げました」

「原因は、電源タップへの漏水による感電死。誠に、残念な最期でした」


慈愛に満ちた声で、容赦なく俺の情けない死に様を告げる女神ソフィア。

その声色には、一片の同情も、嘲笑もなく、ただ事実を事実として述べるだけの、平坦な響きがあった。


「え、あ、やっぱり死んだんですね、俺」


「はい、完璧に」


即答だった。


「まあ、なんとなくそんな気はしてましたけど……じゃあ、ここは天国とか?」


「天国、という概念とは少し違いますね。ここは、次の生へと旅立つ魂が、一時的に留まる場所です」


ソフィアはそう言うと、ふわりと宙に指を浮かべた。

すると、何もない空間に、きらびやかな装飾が施された分厚い本が出現した。


「本来であれば、貴方の魂は浄化された後、記憶を失い、また新たな生を受けることになります」

「しかし、貴方には、もう一つの選択肢が与えられています」


彼女が本をめくると、ページから光が溢れ出し、俺の目の前に様々な映像が浮かび上がった。

剣を振るう騎士、巨大な魔法を放つ魔導士、ドラゴン、エルフ、ドワーフ。

それは、俺が愛してやまなかったゲームやアニメで見た、ファンタジーの世界そのものだった。


「異世界への転生。それが、貴方に与えられた特別な恩恵です」


「い、異世界転生!?」


思わず大声を上げる。

まさか、あのトラックに轢かれるでもなく、神様のミスでもなく、あんな情けない死に方をした俺に、そんな王道イベントが発生するとは!


「ええ。貴方は生前、多くの徳を積んだわけではありませんが、かといって大きな罪を犯したわけでもありません」

「あまりにも平凡で、そしてあまりにもあっけない最期でした」

「神々の間で少しだけ同情が集まりまして、今回の特例措置となりました」


「へ、へぇ……」


平凡も、極めれば特例になるらしい。

人生、何が幸いするか分からないものだ。


「転生するにあたり、貴方の望む能力(チートスキル)を一つ、授けましょう」

「このリストの中から、お好きなものをお選びください」


ソフィアが指し示す先には、目も眩むようなスキルの羅列があった。


『無限収納(インフィニット・ストレージ)』

『鑑定・極』

『物理攻撃完全無効』

『言語理解(全言語対応)』

『絶対神眼』――。


「す、すげぇ……」


俺は興奮で身を乗り出した。

どれもこれも、喉から手が出るほど欲しい能力ばかりだ。

これさえあれば、異世界でハーレムを築き、王となり、悠々自適なスローライフを送ることも夢じゃない!


俺はリストに釘付けになった。

どのスキルが一番効率的か、どう組み合わせれば最強になれるか、脳内のCPUがフル回転を始める。

ソシャゲで培った知識を総動員して、思考の海に深く沈み込もうとしていた。


だが、その時。


「……例えば、こちらの『大賢者』。あらゆる知識を瞬時に得ることができ、魔法の詠唱も不要になります。初心者の方にはおすすめのスキルですよ」


スキルを説明するソフィアの横顔が、ふと俺の視界に入った。

プラチナブロンドの髪が、彼女の動きに合わせてさらりと揺れる。

深く澄んだ青い瞳が、真剣な光を宿してリストを見つめている。

淡々と、しかしどこまでも優しく響く声。


ドクン。


俺の心臓が、大きく跳ねた。


なんだ? この感覚は。

SSR水着美少女を手に入れた時の、あの達成感とは違う。

もっと、こう、根源的で、抗いがたい衝動。


「……あるいは、こちらの『聖剣召喚』も人気ですね。いかなる敵も一刀両断にできる、伝説級の剣をいつでも呼び出すことができます」


説明を続ける彼女の唇の動きから、目が離せない。


チートスキル?

ハーレム?

スローライフ?


そんなものは、どうでもいい。

今、俺の目に映っているのは、この世のどんな宝物よりも、どんな絶景よりも美しい、女神ソフィア、ただ一人。


俺は気づいた。

俺が本当に欲しいものは、このリストの中にはない。

俺が本当に欲しいものは、今、目の前にいる。


「……あの」


俺は、リストから目を離し、彼女の瞳をまっすぐに見つめて言った。


「はい、何でしょう?」


ソフィアは、完璧な微笑みで小首を傾げる。

ああ、もう駄目だ。

可愛すぎる。

理性が焼き切れる。


「決まりましたか?」


「はい、決まりました」


俺は立ち上がり、大きく息を吸い込んだ。

人生で、こんなに真剣になったことがあっただろうか。

いや、ない。

これは、俺の魂の叫びだ。


「女神様、俺と付き合ってください!」


「…………はい?」


時が、止まった。


いや、正確には、女神ソフィアの表情から、完璧な微笑みが消え去り、ただただ純粋な「?」が浮かんでいた。

美しいアーモンド形の瞳が、ぱちくりと瞬きしている。

桜色の唇が、半開きのまま固まっている。

いわゆる、キョトン顔というやつだ。


「え、えっと……聞き間違いでしょうか? もう一度、お願いできますか?」


「だから! 俺はあんたと一緒にいたいんです! スキルなんていらないから、あんたと一緒に異世界へ行きたい!」


俺は、自分の持てる情熱のすべてを込めて、もう一度叫んだ。


シン、と神聖な空間に静寂が訪れる。

ポロン、という音も、花の香りも、なぜか感じなくなった。

ただ、目の前の女神様の、驚きに見開かれた青い瞳だけが、俺の世界のすべてだった。


しばらくの沈黙の後、ソフィアはこほん、と一つ咳払いをして、無理やり完璧な微笑みを取り繕った。

しかし、その口元は微かに引きつっている。


「……佐藤悠樹さん。貴方は、少し混乱されているようですね」

「私が申し上げたのは、異世界で有利に生きるための『能力』の話です。私自身は、スキルリストには含まれておりません」


「分かってます! でも、俺の望みはそれなんです!」

「他のどんなチート能力よりも、あんたが隣にいてくれる方が、俺は絶対に強くなれる!」


俺の熱弁に、ソフィアは困ったように眉を寄せた。

その表情すら、絵画のように美しい。


「……珍しいお望みですね。過去、何人もの転生者を見てきましたが、そのようなことを言われたのは初めてです」


彼女は、少し考えるように顎に手を当てた。

その仕草一つで、俺の心拍数が跳ね上がる。


「いいんですか? これから貴方が転生する世界には、エルフの美少女も、獣人の可愛い女の子も、人間の王女様も、それはもう、たくさんの美しい女性がいますよ」

「私がそばにいては、はっきり言って邪魔になると思いますが」


「全然いいっす!」


俺は食い気味に答えた。


「俺はソフィアさんがいいんです! 他の誰でもない、貴方がいい!」

「だから、お願いします! 俺と一緒に旅をしてください!」


俺は、その場で土下座をした。

人生初の本気の土下座だ。


頭上から、ふぅ、と小さなため息が聞こえた。

恐る恐る顔を上げると、そこには、呆れと、困惑と、そしてほんの少しの面白さが混じったような、複雑な表情のソフィアがいた。


そして、次の瞬間。


彼女は、くすくすと、鈴が鳴るように笑い始めた。

それは、今までの完璧な微笑みとは違う、もっと自然で、人間味のある笑い声だった。


「ふふっ……あははは! 分かりました、分かりました! そこまで言うのなら、仕方がありませんね」


彼女は笑いながら、瞳に楽しそうな光を宿していた。


「よろしいでしょう。佐藤悠樹さん。それが貴方のたった一つの望みであるならば、女神ソフィアが、その願い、叶えて差し上げましょう」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ。女神は嘘をつきません。私も、貴方のような面白い人間に付き合うのは、退屈しのぎにはなるかもしれませんし」


やった! やったぞ!

俺はガッツポーズをした。

最高のチートスキルを手に入れた!

いや、スキルじゃない、最高のパートナーだ!


「ただし」

と、ソフィアは人差し指を立てた。


「勘違いしないでくださいね。貴方自身に、特別な力を与えるわけではありません」

「身体能力も、魔力も、スキルも、すべて一般人レベルです」


「え、じゃあ、どうやって戦うんですか?」


「私が側にいるだけで、貴方には森羅万象からの『祝福』が与えられます」

「例えば、貴方が剣を振れば、風が刃を後押しし、敵の鎧の隙間へと正確に導いてくれるでしょう」

「貴方が転びそうになれば、小石が勝手に避けていき、地面が少しだけ盛り上がって支えてくれるでしょう」

「幸運、加護、奇跡。人々がそう呼ぶものが、常に貴方と共にあります。私が、側にいる限りは」


ソフィアはにこりと微笑んだ。


「つまり、貴方自身は無力ですが、私と一緒にいる限り、結果的に誰よりもチートになる、ということです。よろしいですね?」


「最高です!」


俺の答えに満足したように頷くと、ソフィアは俺に向かって手を差し伸べた。


「では、参りましょうか。新たな世界へ。私の、面白いパートナーさん」


その言葉と共に、世界が真っ白な光に包まれた。



「……ん……」


頬を撫でる、心地よい風。

鼻孔を満たす、青々とした草の匂い。

燦々と降り注ぐ、温かい日の光。


俺はゆっくりと目を開けた。


目の前に広がっていたのは、見渡す限りの大草原だった。

空はどこまでも青く、日本では見たことのない、少しだけ大きい太陽と、その隣に寄り添うように浮かぶ小さな太陽が、世界を明るく照らしていた。


「ここが、異世界……」


感慨にふけっていると、隣から声がした。


「ええ。ここが始まりの地、名もなき丘です。遠くに見えるのが、最初の街『アルカディア』ですよ」


見ると、そこにはソフィアが立っていた。

神々しい純白のドレス姿ではなく、動きやすそうな、しかし気品のある白い旅装束を身にまとっている。

その美しさは、服装が変わっても些かも衰えていなかった。


「さあ、まずはあの街へ向かい、冒険者として登録するのが定石です。行きましょう、ユウキ」


「はい! ソフィアさん!」


俺は元気よく返事をし、意気揚々と一歩を踏み出した。

その瞬間。


「おわっ!?」


慣れない地面の感触に、見事に足をもつれさせた。

顔から地面に突っ込む! と思った瞬間、足元の小石がツルンと滑るようにどこかへ消え、ふわりと柔らかな草が盛り上がって、俺の体を優しく受け止めた。


「……これが、祝福……」


「ええ。ですが、あまり頼りすぎないように。私の祝福も万能ではありませんから」


優雅に微笑むソフィア。

俺は、これからの旅が最高に楽しくなることを確信した。


数時間後、俺たちはアルカディアの街の門をくぐった。


石畳の道、レンガ造りの家々、行き交う様々な人種。

屈強なドワーフ、優雅なエルフ、犬や猫の耳を生やした獣人。

活気と喧騒に満ちた光景は、まさしくファンタジーの世界そのものだった。


俺たちが向かったのは、街で一番大きな建物、冒険者ギルドだ。


ギシ、と音を立てる木の扉を開けると、酒と汗と、微かに錆びた鉄の匂いが混じった熱気が鼻をついた。

荒くれ者の男たちが酒を酌み交わし、武具の手入れをする者、依頼書を眺める者でごった返している。


「うわー、すごいな……」


完全に気圧されている俺の隣で、ソフィアは涼しい顔をしている。

彼女の周りだけ、清浄な空気が流れているかのようだ。

その美しさに、ギルド中の荒くれ者たちの視線が釘付けになっていることに、俺はまだ気づいていなかった。


俺たちはまっすぐ受付カウンターへ向かった。


「すみません、冒険者登録をお願いします」


「はい、こちらへどうぞ」


対応してくれたのは、眼鏡をかけた、いかにも仕事ができそうな受付嬢だった。

胸元のプレートには「ミリア」と書かれている。

彼女は手際よく書類を用意すると、水晶玉をこちらに差し出した。


「では、こちらの水晶に手を触れてください。貴方のステータスを測定します」


「はい!」


俺は言われるがままに、水晶に手を置いた。

すると、水晶はぼんやりと、実に頼りない光を発した。


ミリアは、チラリと水晶の光を見ると、何の感情も浮かべずに告げた。


「筋力、F。体力、F。魔力、F。敏捷性、F。幸運、F……以上です」


「……えふ?」


「はい、オールFです。Fが最低ランクですので、おめでとうございます。見事なまでに、一般人以下ですね」


ミリアの言葉には、棘があった。

眼鏡の奥の目が、値踏みするように俺を見ている。


「あのう、冒険者には、なれますか?」


「……はっきり申し上げますと、絶望的に向いていません。スライムにすら勝てないでしょう」

「薬草採取の依頼でも、崖から落ちてお陀仏になるのが関の山です」

「街で普通に働くことを強くお勧めします」


彼女の言葉に、周りで聞き耳を立てていた冒険者たちから、ドッと笑いが起きた。


「おいおい、オールFだってよ!」

「赤ん坊の方がまだ強いんじゃねえか?」

「隣の姉ちゃんはとんでもねえ美人なのになあ」


嘲笑が、容赦なく俺に突き刺さる。

普通なら、心が折れてもおかしくない。


だが、俺は違った。


「やったー! Fランク! これで俺も冒険者だ!」


俺は、心の底から喜んでいた。

だってそうだろう?

ランクが何であろうと、冒険者になれたのだ。

これから、憧れのソフィアさんと一緒に、旅ができるのだ。

これ以上の幸せがあるだろうか!


俺の満面の笑みに、嘲笑していた冒険者たちも、辛辣だった受付嬢ミリアも、ポカンと口を開けて固まった。


そんな中、ただ一人。


パチパチパチ、と優雅な拍手が響いた。


「やりましたね、ユウキ。記念すべき第一歩です。素晴らしい結果ですよ」


隣で微笑むソフィア。

その後光が差しているかのような神々しさに、ギルド内のすべての人間が見とれていた。

ミリアも、頬をわずかに赤らめ、我に返ったように咳払いをした。


「……と、とにかく! これが貴方のギルドカードです!」

「依頼はFランクのものしか受けられませんから、絶対に無茶はしないように!」


半ばヤケクソ気味に、ミリアは一枚の銅のプレートを俺に叩きつけた。


こうして俺は、晴れて最低ランクのF級冒険者となった。


胸に輝く(ように見える)Fランクのプレートを誇らしげに掲げる俺と、その隣で「おめでとうございます」と優しく微笑む女神様。


ちぐはぐで、奇妙で、しかし最高に幸せな二人の冒険が、今、始まったのだった。

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