第20話

俺は見た目の通り筋肉がつきにくい。


単純な力試しでは必ず負ける。




だから、時間はあんまりかけたくない。




スタートの合図でやる気満々の相手が飛び込んでくる。大きく円を描くように振ってくる拳を右、左と見極めて避けながら少しずつ後退していく。



単細胞なのかは置いておいて、見た目通りの大振りな戦い方だ。



そんでもって多分短気。



「くそっ、当たらねぇっ」



なんでっとイライラしている銀髪の向けられた拳をひょいっと交わす。


短気は損気って習わなかった?

特に俺相手でそれは何も通用しないよーだ。



同じパワー型なら話は違ったかもだけど…生憎俺は、パワー型じゃないんで。



そんでもってそのパワー、非力な俺が使わせてもらうね。



銀髪が何度目か、右腕を大きく振りかぶった瞬間スピードを上げて銀髪の懐に入る。


ちらっと後ろに迫った場外を確認。



目を見開いた銀髪が距離を取ろうとする。



無駄無駄。

もうここまできたら俺のターン。



離れるのを許さず、俺めがけて伸ばされた腕と胸ぐらを掴んでそのまま体を滑り込ませた。



重心を下に落とし、銀髪を背負う。




純粋な喧嘩でもまあいいんだけど、殴るのも痛いからさ。






そのまま力いっぱい銀髪を場外へ振り落とした。





ドカッと凄い音がして、不意を突かれて上手く受け身を取れなかった銀髪が「ぐあっ」と呻く。



然程乱れていないブレザーをピシッと整え、一応浅く一礼した。






「そこまで! 勝者、2年!」



りづさんの声が響くのとほぼ同時、いつの間にやら静まり返っていた2、3年の観覧席からどわっと歓声が上がった。



「斗真ー!」

「よくやった!」

「大人気ねぇぞー」



うっせ。



打ち所が悪かったのか、横たわったままゴホゴホと咳を繰り返す銀髪を一瞥しステージを降りる。



プライド高そうだしあそこで声かけるのは逆に煽る行為だ。




「お疲れさん」



ステージを降りれば、呆れた顔の虎雅の姿。




「お前去年とまるっきし同じじゃねぇか」


「初戦にはあれが1番効果あるんだよ」



あと痛くない。俺が。




「あーあー可哀想に。手加減なしで投げてたな」



「あまりにも馬鹿にしてくるからちょっと煽られた」



経験者だから言うけどあれ結構いてぇぞ。と笑う虎雅は、去年もちろん俺に投げられた。



そういえば虎雅も受け身取ってなかったな。




人をナメてかかったら痛い目に遭うって、早く気づけてよかったってことで。と背中を庇いながらステージを降りる銀髪を見つめた。



すっげぇ悔しそう。いい気味だはっはー




そして、盛り上がる観覧席へりづさんの声が響く。




「はい。お疲れ様。

1年代表は明日発表するから今日はこれで解散」




それだけ言い捨てステージを降りるりづさんに、他2人があれだから目立たないけどりづさんも中々適当だよなと溜め息をついた。






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