第3話 青い花の探索
「アズライト・ブルーム」は遥か東南の孤島に咲くという。
険しい山々を越え、荒れた海を渡り、切り立った崖の上に、夜空の星を称えるかのような小さな花が、無数に咲き誇る――そう語られていた。
夢に現れるミューズを描くため、僕はその花を求め、資金をかき集めた。
キャンバスと筆と絵の具以外、持ち物のすべてを売り払い、アトリエごと手放した僕を、画家仲間は狂ったと笑った。
唯一の家族、弟のルークには、セレナの習作を託した。
「この絵を完成させられたら、僕は初めて、本当の意味で生きることができる」
熱っぽく語る僕に、ルークは苛立ちを込めて呟いた。
「兄さんはいつも、自分のことばかりだ……」
彼の諦め混じりの声に、僕は「手紙を書くよ」とだけ言って、旅に出た。
ガイドもなし、楽な道ではない。
試練の連続だった。
山を越え、森を抜け、砂漠を渡り、海へ出た。
食料は尽き、足は膿み、満足に歩くこともできなくなった。
それでも、彼女を描く腕さえ動けばいい――そう思い、ただひたすらセレナを想い続けた。
そして数ヶ月後、ようやく「アズライト・ブルーム」が咲くという島へ辿り着いた。
その場所では、夜空のような青い花が風に揺れ、さわさわと音を立てていた。
あぁ、これで描ける。
セレナのドレスを――。
辿り着いた安堵と、張り詰めていた疲労が一気に押し寄せ、僕はその場で深い眠りに落ちた。
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