バンパイアのカインとお姫様ロゼの切ない恋物語
ティアラ
第1話 バンパイアのカインとお姫様のロゼ
遠い昔、緑豊かな王国に、太陽のように明るい心を持つ美しいお姫様、ロゼ様がいました。彼女の笑顔は花々を咲かせ、歌声は鳥たちを魅了するほどでした。しかし、その王国の影には、夜の帳と共に生きる孤独な存在がいました。彼の名はカイン。古から続くヴァンパイアの一族の末裔であり、その瞳には永遠の悲しみが宿っていました。
ある月明かりの夜、カインは城の庭園を彷徨い、ロゼ様が一人、月光の下で優雅に舞う姿を目にしました。その瞬間、彼の凍てついた心に、初めて温かい光が差し込んだのです。それは、彼が何世紀もの間感じたことのない、激しい「愛」の感情でした。
カインは、影からロゼ様を見守るようになりました。彼女の優しさ、無邪気さ、そして何よりもその純粋な生命の輝きに、彼は深く惹かれていきました。しかし、その愛は彼にとって、甘くも苦しい毒でした。ロゼ様に近づけば近づくほど、彼の内なるヴァンパイアの衝動が目覚め、彼女の温かい肌に触れたい、その鼓動を感じたいという抗いがたい欲望が彼を苛んだのです。
ある日、ロゼ様は庭園で迷子になった小鳥を助けていました。その姿に心を打たれたカインは、思わず影から現れ、彼女に手を差し伸べました。驚くロゼ様でしたが、彼のどこか悲しげな瞳と、差し出された手の優しさに、警戒心を解きました。それからというもの、二人は秘密の逢瀬を重ねるようになりました。
月夜の庭園で、カインはロゼ様の隣に座り、彼女の話に耳を傾けました。彼女の笑顔を見るたび、彼の胸は締め付けられるようでした。「ああ、今すぐにでもこの腕で抱きしめたい」と、彼は何度も思いました。しかし、その衝動が湧き上がるたびに、彼は自分の爪が伸び、牙が鋭くなるのを感じ、必死でその欲望を抑え込みました。
ある夜、ロゼ様が「カイン様は、いつも少し寂しそうですね。何か悲しいことでもあるのですか?」と、彼の頬にそっと触れようとしました。その瞬間、カインの体は硬直し、彼の瞳は本能的な赤色に染まりそうになりました。彼は震える手で、ロゼ様の手を優しく、しかし確固たる力で押し戻しました。「いえ、ロゼ様。ただ、私は…」彼は言葉を詰まらせました。抱きしめたい。その一言が、どれほど彼を苦しめるか、ロゼ様には知る由もありませんでした。
カインは、これ以上ロゼ様を危険に晒すことはできないと悟りました。彼の愛は、彼女を傷つける可能性を常に秘めている。それは、彼にとって耐え難いことでした。
そして、ある満月の夜、カインはロゼ様に最後の別れを告げました。「ロゼ様、どうかお幸せに。私は、あなたの世界にいてはいけない存在なのです。」彼はそう言い残すと、彼女の返事を待たずに、闇の中へと消えていきました。
ロゼ様は、カインの突然の別れに深く心を痛めました。彼の言葉の真意を理解することはできず、ただ、彼の悲しげな瞳と、決して触れることのなかったその手の温もりだけが、彼女の心に残りました。
しかし、カインの心はロゼ様への想いを断ち切ることができませんでした。会いたい気持ちは募るばかりで、夜ごと彼の心を蝕んでいきました。そして、彼はその衝動に抗えなくなり、毎日、夜になるとロゼ様の部屋の窓辺に現れるようになりました。
ある夜、眠りにつこうとしていたロゼ様は、窓の外に微かな気配を感じました。そっとカーテンを開けると、そこには、月光に照らされたカインの姿がありました。彼はただそこに立ち、切なげな瞳でロゼ様を見つめていました。ロゼ様は驚きながらも、彼の瞳の奥に、以前にも増して深い悲しみと、そして抑えきれないほどの愛情が宿っているのを感じ取りました。
カインは、ロゼ様が自分に気づいていることを悟ると、彼の内なる衝動は限界に達しました。抱きしめたい、その欲望が彼の全身を駆け巡り、彼は苦しげに息を荒げました。ヴァンパイアは、一度愛した女性の血を吸うと、その女性の血でしか生きられなくなる。そして、その女性が少しでも他の誰かと話すだけで、激しい嫉妬に苦しむことになる。カインはその宿命を知っていたからこそ、ロゼ様から遠ざかろうとしたのです。
しかし、もう我慢できなかった。もう少しでいいから、触れたい。その切なく、苦しい想いが、彼の心を支配していました。
「ロゼ様…」カインの声は、震えていました。「私は…あなたのことが、好きだから…苦しいのです…」
そう言って、彼は窓ガラスにそっと顔を近づけました。ロゼ様もまた、吸い寄せられるように窓に顔を寄せます。そして、ガラス一枚隔てて、カインは切なそうに息を荒げながら、ロゼ様の唇に、そっとキスをしました。冷たいガラス越しに伝わる、彼の熱い想いと、抑えきれないほどの苦しみが、ロゼ様の心を深く揺さぶりました。
ロゼ様は、カインの荒い息遣いと、その瞳に宿る深い苦しみに、胸が締め付けられる思いでした。
「ねぇ、カイン…」ロゼ様は、震える声で尋ねました。「どうしてそんなに苦しそうなの?どうしたら、その苦しみを取ってあげられるの?私にできること、ある?」
カインは、ロゼ様の優しい問いかけに、さらに苦しげに顔を歪めました。彼の瞳は、愛と、そして絶望で揺れていました。
「ロゼ様…私は…あなたを抱きしめたい…」カインは、絞り出すような声で言いました。「でも…抱きしめたら、きっと、激しく抱きしめて…壊してしまうかもしれない…それほど、この想いは苦しいのです…」
彼は、窓ガラスに触れる自分の指先を、痛ましげに見つめました。
「触れたい…ただ、もう少しでいいから、あなたに触れたい…」カインの言葉は、切なさに満ちていました。「でも、ロゼ様を、痛い思いさせたくない…好きすぎて、強く抱きしめてしまうかもしれない…抑えられないかもしれない…」
彼の声は、途切れ途切れになりました。
「でも…あなたに会えないのは…もっと苦しい…耐えられない…」
カインの言葉に、ロゼ様は静かに涙を流しました。彼の苦しみが、痛いほどに伝わってきたからです。
「カイン、苦しそう…大丈夫?」
ロゼ様は、カインのあまりの苦しみに、もう耐えられませんでした。彼女は、彼の苦しみを少しでも和らげたい一心で、ついに窓の鍵を外し、そっと窓を開けました。
その瞬間、カインの心臓は激しく鼓動を打ちました。もう、抑えきれない。ロゼ様のすぐそばに、彼女の温かい気配が、彼を狂おしいほどに誘惑します。ただ抱きしめたい。その衝動が、彼の全身を支配しました。
カインは、音もなくロゼ様の部屋へと足を踏み入れました。彼の瞳は、もう真っ赤に燃え上がり、息遣いは荒く、その体からは抑えきれない力が漲っていました。しかし、その荒々しさの中にも、彼が持つ本来の気高さと、ロゼ様への深い愛情が、彼を恐ろしくも、そして同時に、息をのむほどに魅力的に見せていました。ロゼ様は、そのカインの姿に、思わずドキッと胸が高鳴るのを感じました。
カインは、一歩、また一歩とロゼ様に近づきながら、苦しげに言いました。
「ロゼ様…あなたが…窓を開けたからだ…あなたのせいだよ…もう…抑えられなくなっても、知らない…」
彼の声には、悲痛な響きがありました。
「こんなに…こんなにも、我慢していたのに…これで、もし、あなたが私を嫌いになったら…私は…ロゼ様のこと…殺してしまうかもしれない…」
カインの言葉は、彼の心の奥底にある、最も深い恐怖と、そして狂おしいほどの愛を露わにしていました。
「だから…だから、お願いだ…嫌いにならないでほしい…たとえ、私が強く触れても…」
カインが、震える手でロゼ様の手を取ろうとした、その時でした。
「カイン…!」
ロゼ様の、その甘く、切ない声が、彼の耳朶を打った瞬間、カインの理性は完全に吹き飛びました。彼の内に渦巻いていた、抑えきれないほどの衝動が、ついに爆発したのです。
彼は、ロゼ様を激しく抱きしめ、そのまま床へと押し倒しました。ロゼ様のあまりに可愛らしい体、苦しげな表情、そして温かい体温、甘い声…それら全てが、カインの理性を狂わせ、彼は何度も、狂おしいほどに彼女を抱きしめ続けました。彼の心臓は、破裂しそうなほど激しく打ち鳴り、その狂おしいほどの愛に、彼は正気を失いそうでした。
「カイン…苦しい…」
ロゼ様の、か細い声が、彼の耳に届きます。その声さえも、カインをさらに切なく、苦しく、そして狂おしいほどに、ロゼ様を愛させてしまうのでした。
しかし、ロゼ様が「カイン、息できない…」と、本当に苦しそうな声を漏らした時、カインはハッと我に返りました。彼は、まるで冷水を浴びせられたかのように、ロゼ様から急いで離れ、慌てて立ち上がりました。
カインの息遣いはまだ荒く、真っ赤に燃える瞳は、ロゼ様を、まるで壊れ物を扱うかのように切なげに見つめていました。ロゼ様もまた、荒い息遣いでカインを見つめ返します。
「壊してしまいそうだ…」カインは、震える声で呟きました。「なんて、なんて柔らかいんだ…」
ロゼ様は、そんなカインの様子を見て、そっと言いました。
「カイン、少し休憩しよう?お茶でもしましょ。」
そう言って、ロゼ様がカインに背を向けた、その瞬間でした。
カインは、もう我慢できませんでした。彼の内なる衝動が、再び彼を突き動かしたのです。彼は、背を向けたロゼ様を後ろから強く抱きしめました。そして、熱い唇を彼女の白い首筋に埋め、甘く、しかし抗いがたい衝動のままに、そっと噛みつきました。
「んっ…!」
ロゼ様から漏れた、甘く苦しげな声が、カインの理性を完全に奪い去りました。首筋には、はっきりと赤いキスマークが残されていました。もう、彼の気持ちは抑えきれません。彼はさらに強くロゼ様を抱きしめ、ロゼ様はそのまま床に倒れ込みそうになりました。
しかし、その寸前で、カインは我に返り、ロゼ様を優しく抱き上げました。お姫様抱っこで、彼はロゼ様をそっとベッドへと運びました。彼の瞳は、まだ赤く燃え上がっていましたが、その中には、ロゼ様への深い愛と、そして、もう引き返せない禁断の領域へと足を踏み入れてしまったことへの、切ない覚悟が宿っていました。
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