第7章 《フォルティナの古代遺跡編》

第50話 春、再び空へ

「あ〜〜、やっぱりパンツァー飛ばしてー!」


「なに言ってるんだよレオン。カレンポート事件とか指名依頼とかで授業がだいぶ遅れてるんだから、仕方ないだろ」


 オレは最近、同じことばかりボヤくレオンに、半ばあきれながらも苦笑いを浮かべた。


「それは分かってるけどよぉ……」


 レオンは頭を抱え、机に突っ伏す。


「このままだと進級できないわよ」


「だけどよ、アヤナだって自分の船のコア部品探しとかしたいだろ?」


「……それは、そうだけど」


「ねえねえ、アヤナちゃん。コアの手掛かりは何も無いの?」


「ええ。何箇所か候補は絞ったんだけど、調べに行くにはちょっと遠いの。それに今は冬だし、どちらにしても無理よ」


 オレたちはカレンポート事件のあと、無事にパンツァー用のパーツを入手して、グラン工房で強化をお願いした。


 強化された愛機を見てレオンは、大はしゃぎで翔び回り、父親のヴァルガス家当主ヘクターさんから、「ヴァルガス家としての自覚が足らん!」とこっぴどく怒られたあげく、数週間の飛行禁止をくらう羽目になった。


 その後は授業の遅れを取り戻すために学業に追われながら、ギルドの依頼もこなすという怒涛の日々。


 そして季節は冬になり、学生の飛行は禁止。パンツァーにも乗れず、授業漬けの毎日に――ついにレオンの不満が爆発した、というわけだ。


「そりゃオレだって飛びたいけどさ……今年からだろ、冬の間は“深雲獣”が活性化するからって、主要な空島の近辺以外は飛行禁止になったの。レオンも知ってるだろ?」


「わかってるけどよ、オレのパンツァーなら冬の空でも余裕で飛べるって!」


「レオン。そんなこと言ってると、またナタリー先生に怒られるよ」


 マイルがいつもの調子で、レオンにツッコむ。


「わーってるよ……。にしてもマイルって、最近俺にも厳しくなったよな」


「まったく……。私はスカイが二人になったみたいで大変なんだから!」


 なんでそこで、オレにも飛び火するんだよ。

 勘弁してくれ、マイルを本気で怒らせたら大変なんだぞ……!


 そんな他愛もない会話を交わしていると――

 講義室のドアが開き、ナタリー先生が入ってきた。


 オレたちの授業の遅れを気にかけて、実技に加えて補習もしてくれている。


「――はい、そこ静かに! みんなより遅れてるんだから、真面目に講義を受けてください。……特に、レオンくん?」


「は、はい……!」

 名指しされたレオンが、びくっとして姿勢を正す。


 ナタリー先生は普段は優しい先生なんだけど、怒らせると本気で怖い。

 特に実習の際に急旋回、急上昇、急降下を延々と訓練させられた次の日は、一日ベッドから動けなかった。


「ナタリー先生、質問なんですけど。――最近になって、急に深雲獣の活動が活発になってるって聞くんだけど、原因は何なんですか?」


「あら、レオンくんが座学で質問なんて、やる気が出てきたのかしら?」


 ナタリー先生は、そう言って驚いた顔をする。

 レオンがなぜか、まんざらでもない顔をしているけど、ついさっき座学ばっかで嫌だって言ってただろ……。


「そうね、正確なところはまだ分かっていないの。ただ仮説では、周期的な現象じゃないかって言われているのよ」


「周期、ですか?」


「ええ、アステールでは数百年に一度、深雲獣が活性化する時期があるらしいの。それが原因という説が有力ね」


「やっぱりその説は、古代遺跡で見つかったデータからの仮説なんでしょうか?」


 アヤナが質問する。


「そうよ、ここ最近ある研究チームが発表した仮説ね」


 ナタリー先生は、そこでちらっとオレの方を見た。


「え……それって、もしかして?」


「そうよ。スカイくんのご両親が参加していた研究チームよ」


 思わず息をのんだ。

 まさか、こんなところで両親の話を聞くなんて――。

 オレの両親は、物心つく頃から外に出てばかりで、「これは必要な研究なの」と言いながら、一緒にいられないことを謝られたのを思い出す。


「たしか、スカイの夢は、両親を見つけ出すことだったよな?」


「ああ。絶対に見つけ出すつもりだよ」


「その時は、俺も絶対手伝うからな!」


「もちろん、私も手伝いますよ!」


(俺様にまかせとけ! 相棒!)


 レオンとアヤナ、そしてノクティの言葉に胸が熱くなる。

 隣ではマイルも「頑張ろうね!」と微笑んでくれた。


「ありがとう、みんな……」


 その気持ちが、まっすぐ心に届く。

 ――そうだ。必ず見つけ出す。あの深雲海の先にいる、両親を。


「そのためにも、今はしっかり勉強を頑張ってくださいね」


「はぁ……結局そうなるのかよぉ」


 ナタリー先生の言葉に、レオンが肩を落とす。

 その情けない声が妙に可笑しくて、思わず笑ってしまった。

 気づけば、みんなもつられるように笑っていた。


 ◇◆◇


 結局、冬のあいだはほとんど学院に缶詰状態で、座学と実習に明け暮れた。

 年の暮れになると、みんなそれぞれ地元へ帰り、オレもハイノ村へ戻って久しぶりに顔を出し、村のみんなに挨拶を済ませたあとは、グラン工房で手伝いをしながらのんびり過ごした。


 たまにレオンやアヤナ、それにマイルとも連絡を取り合い、ギアベルグに新しくできた“蒸気温泉”に遊びに行ったりもした。

 冷たい雲海の風を感じながら、湯けむりの中で笑い合った時間は特別な冬の思い出だ。


 年が明けてからは、それぞれ忙しくてしばらく会えなかったけど――

 休み明けに学院で再会したとき、みんなの元気そうな顔を見て嬉しくなった。


 日差しが少しずつ暖かくなり、春の気配が雲海を包みはじめる頃。

 努力の甲斐あって、オレたちは全員そろって二年生に進級した。


「よっしゃ! じゃあ早速ひとっ飛び行こうぜ!」


 うん。レオンは変わらないな。

 でも――その気持ちは、オレも同じだ。


「ああ、行こう!」


 そう言って、オレたちは並んでデッキを駆け出し、空へと飛び出した。

 春の風が頬を撫で、青く澄んだ空が、新しい冒険の始まりを告げていた。

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