第41話 闇に紛れた小さな綻び

 落ちた写真を拾い上げ、オレは思わず息を呑んだ。

 

 椅子に縛りつけられた、一人の男性と幼い女の子。

 男性の口元は切れていて、血が流れている。

 女の子の瞳には涙の跡が残っていた。

 

「……っ、やつらめ……!」


 マイセンさんは震える手で手紙を握りしめた。

 

「マイセンさん、この人たちは……?」

 

「……息子と、孫じゃ」


 オレが恐る恐る聞くと、彼は苦しげにそう答えた。

 みんなが息を呑むのが分る。

 

「相手は……今巷で騒がれておる“空賊”じゃな」


 マイセンさんの声は低く、怒りに震えていた。


「儂が空賊の有力情報に懸賞金を出したことへの報復行為じゃ……軍への牽制でもあるのだろう……」

 

 言葉を失うオレたち。

 ただ一つわかるのは――これはもう他人事じゃないってことだ。


(空賊……ふざけるな。そんな卑怯な真似までして……!)


「……せっかく来てくれたのにすまぬが、すぐに対応を考えねばならんのでな。君たちはゆっくり見ていってくだされ」


 そう言い残し、マイセンさんは足早に部屋を出ていった。


「スカイ、どうするんだ?」


「決まってる。放っておけないだろ。……探索者協会で情報を聞いてみよう」


 レオンにオレが答えると、全員が一斉に頷いた。


 ――店を後にしたオレたちは、空港近くにある探索者協会へと向かった。


 扉を押して中に入る。

 空賊の件はまだ表沙汰にはなっていないのか、表向きはいつも通りの雰囲気。

 ……けど、奥で職員が慌ただしく書類を運んでいるのが目に入った。


 オレは比較的空いている受付カウンターに並び、空賊の情報について尋ねてみる。


 そこで聞けたのは――。


 ・空賊の出現範囲はカレンポートを中心に、かなり広範囲。

 ・狙われているのは大手商会の船ばかり。


 そして有力な情報提供者には、マイセン商会から報奨金が支払われる。


(報奨金も出てるのに、やけに情報が少ないのが気になるな)


「有力な情報は、まだ出てないみたいか」


「ああ。目撃情報は結構あるのに証言がバラバラで情報が絞れないって言ってたぜ」

 レオンが真剣な顔で言う。


 なるほど、そのせいで情報が入っても精査に時間がかかているってとこか。


 と、その時――。


「なんだガキども、空賊の情報を知りたいのか? いい情報があるぞ」


 背後からかかった声に振り返ると、協会の入口付近にいた探索者グループがこちらを見ていた。

 年はオレたちより少し上。三人組で、いかにも場慣れした雰囲気を漂わせている。


「いい情報だと……?」レオンがむっと睨む。


「ああ、とっておきの情報だ」


「なんで、そんな事を俺達に話す? 協会に報告したらいいだろうが!」


 レオンのもっともな問いに、ハゲ頭の男がニヤリと笑った。


「ああ、報告はすぜ。だがな……協会に報告しても探索者に公開される頃には、もう手遅れってわけだ」


 その横で、露出の高い服を着た女探索者が色っぽく肩をすくめる。


「だ・か・らぁ。おねーさん達が先に教えてあげようって言ってるのよぉ♪」


「必要ないです!」


「ええ、結構です!」


 マイルとアヤナが冷たい目で返す。


「あらあら、怖いお嬢ちゃんたちね」


 女探索者が挑発するように笑う。


「ふたりの言うとおりです。情報はオレたちじゃなく協会に報告してください」


 オレもはっきり拒絶した。やっぱり、怪しいよな。


「ふん、せっかく親切で言ってあげてるのに。せいぜい他の探索者の足を引っ張らないことね」


 そう言い捨て、三人はひらひらと手を振りながら協会を出て行った。

 残されたオレたちは顔を見合わせる。


 胸の奥で、いやなざわめきが広がる。


 ――街で情報を集めようと協会を出る。

 すると、さきほどの三人組が路地裏で他の探索者たちに囲まれているのが目に入る。


 ハゲ頭の男が声を潜め、何かをささやく。

 それを聞いた探索者たちは驚いた顔をしたあと、慌てて仲間同士で相談を始めた。


(……あの連中。わざと情報をばら撒いてるのか?)


 気づいた時には、三人組は人だかりの中に紛れ、すっと消えていった。


「……やっぱり怪しいな」


「スカイ、これからどうするの?」

 小声でマイルが聞いてくる。


「空港で、直接商人たちから情報を集めてみよう」


 ――協会を出たオレたちは、その足で空港へ向かった。


「協会の情報だと大手商会ばかり狙われてるって話だけど……」


「でも、本当にそうなのかしら」


「そうだな。協会に上がってない“小さい被害”があるかもしれん」


 アヤナが疑問にレオンも腕を組んでうなる。


 ◇◆◇


 空港の停泊所は、夕方になっても活気が絶えなかった。

 物資を積み下ろす船乗りたち、行き交う商人や職人……情報を探すにはもってこいの場所だ。


「すみません、最近空賊の被害に遭ったって話、聞いたことありませんか?」


 オレが声をかけると、整備士らしきおじさんが振り返った。


「空賊? ああ……大商会ばかり狙われてるってやつだろ?」


「やっぱり、狙われるのは大商会ばかりなんですか?」


「そうだな……空賊に狙われたってやつはだがな」


「え? 他にも何かあるんですか?」


「まあ、空賊とは関係ないし、報告するほどじゃねぇが、この前、古い小型船が妙に焼け焦げた跡をつけて帰ってきたな。“雲の中で雷にやられた”なんて言ってたが……」


 他にも――

「書類に無い積み荷があるとか、中身が違ってただとか。噂だと“どっかの有力商会の圧力”でもみ消されたって話だ」

「あと、そんな船に限って同じ方角から帰ってくる船が多いな」


 そうした“公式報告に上がらない出来事”が、最近は妙に増えているらしい。

(本当に……空賊とは関係ないのか? なんか引っかかるんだよな)


 一通り空港での聞き取りを終えたオレたちは、聞いた情報を整理するため一度宿に戻ることにした。

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