第37話 新たな力

 ヴェノスを討伐した翌日、オレたちはグラン工房へ戻ってきていた。

 もちろん、パンツァーの強化が正式に認められたことを伝えるためだ。


 ――けど、予想外の人物が同行していた。


「ほう、ここがグライの工房か」


 低く響く声と共に姿を現したのは、レオンの父、ヘクター・ヴァルガスだ。


(まさか当主までついて来るとは思わなかった……)


 ちょうどその時、ガレージの奥から工房長が姿を見せる。


「なんだ、店先がやけに騒がしいと思ったら……お前か、ヘクター」


「久しいな、グラン」

 ヘクターさんが口角を上げてニヤリと笑う。


「第4ファクトリーで顔を合わせて以来だな。十年近く前か」


「そうだったな」


 二人は力強く握手を交わした。旧知の戦友同士、そんな空気が漂う。


「で、わざわざお前が出向いてきたって事は改造の許可を出したのか?」


「まぁ、それもあるが……他にも、お前に見せたい物があってな」


「ほう……」

 工房長の目がギラリと光った気がした。


 ヘクターさんがそう言って、背後の私兵に合図を送る。

 すると、輸送機のハッチが開き何かの装置が運ばれてくる。


 ヘクターさんは誇らしげに装置に触れる。


「こいつは初代が愛機ヴァルガスのために考案した――“多目的換装システム”だ」


「換装システム……」レオンが息を呑む。


「ああ。状況に応じてパンツァーの武装を組み替えられる。これはそのひとつ――“絨毯爆撃ユニット”だ。敵の群れを一掃するために作った。戦場を制圧する力だ。まさにヴァルガスの名を冠すに相応しい」


 父親の言葉に、レオンは目を見開く。

 だが隣の工房長は眉間に深い皺を刻んでいた。


「……完全な超火力による力技ではないか。ヴァルガス家らしい発想だが、実戦で使えば制御を誤った瞬間に味方まで巻き込むぞ」


「ふん、戦場では常に全力、妥協など無い。強き者が生き残る、それだけだ」


 ヘクターさんが一歩も引かずに言い放つ。


「まぁ他家の事をとやかく言うつもりはない。で、これをこの機体に換装したいということか」


「ああ、他にも初代が考案した装備の設計図も持ってきたぞ」


「どうだ、興味があるであろう?」


 グラン工房長は眉をひそめたまま、しばし黙り込む。

 そしてユニットを手に取り、じっと構造を見つめる。


「……制御系を工夫すりゃ、味方を巻き込むリスクは減らせるかもしれん」

 重々しい声が響く。


 レオンが息を呑む。


「――こいつ《パンツァー》専用に調整すれば、実戦投入も可能かもしれんな」


 その声に、レオンと父ヘクターの口元が僅かに綻ぶ。

 工房長は大きくため息をつくと、肩をすくめた。


「まったく……。お前も父親に似て、力に魅せられるタイプか」


「まあいい。ただし――その爆撃ユニットは諸刃の剣だ。使い方を間違えれば取り返しのつかないことになる。そこは心得ておけ」


「はい! 俺は……ヴァルガスの名に恥じない行いをするつもりです!」


 レオンが期待と覚悟のこもった表情で答える。


「わかった。なら、まかせておけ」


「はい! お願いします!」


「しっかし、こりゃあ忙しくなるぞ」そう言って、工場長は換装ユニットを見ながらニヤリと笑う。


「とりあえず、これでレオンの方は片付いたな」


「これから、どうするの? 一度学院に戻る?」


 マイルがみんなに問いかける。


「そうだな。入学早々バタバタしすぎて、講義もまともに出られてないしな」


「国際ライセンスが目的なんだから、ちゃんと頑張らないとだね!」


 マイルがぐっと拳を握って気合を入れる。


「私も同じです。入学してから一度も学院に通えてませんから……この一ヶ月のブランクを取り戻さないと」

 アヤナが真剣な顔で言う。


「アヤナちゃんなら大丈夫だよ」

 マイルがやわらかく微笑みかけると、アヤナも小さく頷いた。


「レオンはどうするんだ?」


「ああ、俺も戻るぜ。パンツァーの改造は時間がかかるだろうし、オヤジが見てくれるって言うからな」


「なるほどな。……よし、じゃあみんなで学院に戻るか!」


 オレたちは顔を見合わせて笑った。


 ――アヤナの失踪から始まった、慌ただしい日々。

 気づけば色んなことが一気に押し寄せて、息をつく暇もなかった。


 けど、それにもようやく区切りがついた。

 こうしてオレたちは、また学院での日常へ戻っていく。

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