翼病

中川葉子

翼病

 田畑しかない田舎から引っ越してきた彼女が脚を折った。木に登り、飛び降りたらしい。

 なぜそんなことをしたのかと尋ねてみると、彼女は不気味な笑みを浮かべて言った。

「故郷の鳥達のように空が飛びたかった。今なら飛べる気がした」

 と。彼女は医師の見立てでは精神的に錯乱しているとされ、故郷の病院へ転院することになり、彼女を追いかけてバイトをやめ、引っ越した。


「ねえ、人は鳥になれないの?」


 真っ白な病室でやけに黒くなった脚を吊り上げられ動けない彼女はそう呟く。


「私は飛べるよ。空は受け入れてくれる」


 彼女は誰にいうでもない独り言を何度も呟いた。「空は受け入れてくれる」と。

 数日が過ぎた頃彼女の身体に異変が生じた。折れていない方の脚が鳥のように変わっていったのだ。


「空は受け入れてくれるから。私は鳥になるべきかもしれない」

「何で空に固執するんだ?」

「小さな時におじいちゃんが木から飛び降りて死んだの。空を飛べたら生きられたのに。そういえば昨日空を飛ぶ夢を見たわ。きっとそうなる」


 彼女は自分の身体の変化に驚きもせず淡々と話す。彼女の父母も諦めたような表情を浮かべていた。

 翌日両脚が完全に鷹のように四つ指の鋭い爪が生えて嬉しそうに笑う彼女がいた。


「骨治ったらしいわ。じゃあ、私は行ってくるから」


 そう言い残し彼女は人間にはできない跳躍をし、窓から消えていった。

 きっと空が受け入れてくれるのだろう。私はその日から空にとらわれるようになった。

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