自戒として、
@Dahora_61
第1話
私は、たったの4文字に依存してた。たったの4文字。特定の人から言われるその4文字。
それだけに依存していたのだと、最近、別れてから気がついた。
それは、賞賛の言葉でもあって、自分の価値を知る言葉でもあった。同時に、幻覚を見せてくれた、素敵な言葉。私は、私でありたいがために、もしくは私ではない誰かと誤認するために、その言葉に依存したのだと思う。彼と別れて数ヶ月。怒りに任せて別れたけれども、自分から別れたわけでもない。それはただ、安易で、チープな付き合い。彼からすればその言葉を綴るのは容易なことなのだろうけれど、私からすれば、私であると思えたその言葉であった。勘違いさせてくれる、素敵な言葉だった。思えば、どうして別れたんだろうって今でも思う。表面上、どんな話してても、どうしてても、無垢で、素直で、きっと彼にとって都合のいい彼女でいれば、きっと、私はそうならなかったのに。こうならなかったのに。こんな過去を背負う必要もなかったというのに。それでも、それでも別れた理由はなんだったのだろう。最終的に感情任せでやったのは事実。彼にとっては、私はもしかしたら暇つぶしの中の、少し面白いおもちゃであったかもしれない。でも、私は、その認識じゃなかった。出会いのない小中高でした。なにせずっと女子校だったのだから、出会いもなければ当然でしょう?だから、どこかで人の見る目というのは贔屓があったのかもしれない。
私は、どこかで「女の子だから、私はこうだ」と、こう考えているのだと推察して、話して、笑ってた。でも、男は? 生憎、私は幼稚園でしか関わりはなかった。だから、どこかで間違えてしまったのだと思う。見間違えというか、勘違いというか。男という定義をまだ持たぬまま大学に行ってしまったものだから、無垢な少女のままでいられたのだと思う。何も知らない、ただの女の子。獣とか、下心とかも知らずに。そして、触ったインターネットで要らぬ過去を背負う羽目になった。ネットは、なんだかんだ触ってきてたから、特段何もなかった。自分でそこそこ自衛できて、適当にあしらえると思った。出会ってたネットの男性も、大半はクズだったからすぐに笑ってあしらえていた。だからこそ、油断もあったのだろうと綴りながら思う。あの4文字、その4文字は小さい頃しか言われなくて、成長すれば言われることもなく。いつしか母は私のコンプレックスに同情する、反対の4文字を吐いて、父くらいしか他の4文字を伝えてくれなかった。友達とは、体裁程度の4文字ばかりで。どこか、そんなものなのだろうと自分で諦めを背負っていた。だからこそ、彼にその4文字を言われた時は、何かのバグが起きたのだと思う。言わば、脳みそのバグ。言わば、勘違いの暴走。見えていた視界が、一つだけに絞られてしまった。
今は、苦笑混じりに最悪だと笑える。でも、当時は恥ずかしながらにその4文字に依存する程だった。彼から言われるその4文字以外目に入らなかった。だから、その4文字を言われるためだけになんでも言った、見せた。話した。その度に彼は、私にその欲しい4文字を、甘美な香りを乗せて、伝えてくれた。今、思えば彼から見たら丁度良い兎だったのだろう。生憎私は兎、大嫌いだけど。でも、そのことに気がつけないほど魅了されていたと言い訳がしたい。でないと、今の私の首を締め付けてしまう気がするから。
「______よ。」
あの一言で、当時の私はどれ程掻き乱されたのだろう。幼少期の感覚を思い出すその一言は、自分も言われていいんだなと未だに思えた、その一言だった。甘美で、嬉しくて、思わず照れてしまって。はにかむ様な。同時に、嫉妬する。他の人に、醜く嫉妬してしまう。残酷で、綺麗な言葉。他の人には、絶対に言わないで欲しい様な4文字となってしまった。我ながら、重い女だと思う。だって、彼が他の人に、それがたとえ友人にでさえでもその言葉を吐いているのを見てしまえば、嫉妬に駆られ、汚く顔を歪めてしまいそうになる。でも、当時の私は彼から言われるその4文字を必死に守るために精一杯で。張り付いた笑顔を側に置く様になった。その上で、彼にその4文字を遠回しにせびった。少しでも、彼の好きなことを、好きな様を、好みに寄せていった。きっと、真意を知られれば面倒臭い女だと思われただろう。今では立派な黒歴史だ。
自戒として、 @Dahora_61
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