パイドパイパー

緑茶

第1話

 ぼくが塾から帰るころには、とっくに夜の22時をすぎている。


 夏の夜はすごく空気がべたべたしていて気持ちが悪い。

 肌にシャツがへばりつくのがすごくいやだ。

 昔はこんなに暑くなかったんだよな、と塾の先生が言っていたけど信じられない。 ぼくにとってはずっとこんな夏しか知らない。


 昔はよかった、とか言われてもな。

 じゃあ、どうすればいいんだろう。いろんなことを考える。

 おっと、そろそろ到着だ。


 ぼくが家に帰る前に寄るのは、マンションのあいだの小さな公園。

 ほんの少しの街灯に虫がぶんぶん集まっている。奥に進んでいくと、自動販売機がみえた。


 ぼくはポケットから小銭を取り出して、すこしのあいだじっと見た。

 いつも、勇気がいるのだ。

 

 ぴっ。がしゃん。

 ぼくはコーラを手に入れる。

 隣のベンチにすわろうとした。


「やあ少年。きょうも順調に世界を恨んでいる様子だね」


 声。あしをとめる。先客がいる。

 暗闇に目が慣れてきて、誰だかわかるようになって。

 ぼくはためいきをつく。またこの人だ。


 灰色のジャージ上下、それから長い髪を後ろでくくっている。

 目つきはしょうじき悪い。だけど口元はいつも笑っているし、手には缶のビールを持っている。本人曰く、ビールなんて高級なものは買えない、この国の欺瞞的ラベリングのなんたらかんたらの第三のどうの、らしい。

 そんなよくわからないことを言いながらそれを飲んで、毎日のようにぼくが座ろうとしているところに既にいるのが、このお姉さんだった。


 ――ぼくはこの人に、恐喝されている。

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