第6話 自衛隊から逃げろ(2)
バシュッ。ヒュルルル。
外に出ると、第三班の班員が全員背負っていたスティンガーミサイルを4発放っていた。自衛隊のヘリは回避行動を取り、フレアを出してミサイルをかわす。
全弾避けられるのかと、大河は一瞬戦慄したが、フレアを掻い潜った残りの一発が尾部に命中した。ダメージは小さいが飛行は不可能だろう。海上に不時着しても死者は出ない、理想的な撃墜だった。
「上手いな。4発とも撃ったら乗員が死ぬだろうと思ったけど、回避されることも計算の内か?」
「はい。信頼してましたよ。避けてくれるって。」
皮肉っぽく言った男たちを連れて、右舷の集合場所に行く。このタイミングで船のエンジンが止まった。船長が止めたのだろう。
「全員揃ってるぜ、隊長。」
「よーし、じゃあちょっとスイミングの時間だ。ブリッジから救命胴衣を全員分かっぱらってきたからこれをつけろ。このままだと装備が重すぎて海に沈んでしまう。」
今から大河たちはダイビングをして、合図を出したら浮上してくるはやぶさに乗り込む。ヘリは撃墜したが、護衛艦は接近している。搭載艇が先に来るはずだからそれまでにはやぶさは海の中に戻る必要がある。
そんな旨のことを大河は全員に伝え、最初に海に飛び込んだ。全員が来るのを待ってから水中にノイズを出してはやぶさを呼ぶ。
全員が水に入った。大河はノイズのスイッチを一瞬入れかけて、止めた。
「小隊長待って!小型船が接近中!」
「護衛艦の搭載艇だ!全員漂流した海賊のフリをしろ。第三班は搭載艇を制圧しろ!」
マルビナスの後ろから小型のボートが猛スピードで接近してきた。放水もしている。
うぜぇと思った大河は、自分から近づいていった。
「とりあえず全員救助するぞ!海賊かどうかはわからんが、1人も死なせちゃならん!」
リーダーらしき自衛官が叫ぶ。一番近い大河に対して手が伸ばされ、小型船に上がる。
「マルビナスを襲ったのはおまえらか?人数が多すぎるな。もう一隻要請しないt…」
次の瞬間、そう話したリーダー自衛官は大河に殴られ気絶していた。驚いた他の隊員たちは大河を取り押さえようと近づいてくるが残念、後ろから第三班のメンバーがすでに船に乗っている。
搭載艇でやって来た3人とも気を失って転がってしまった。一応拘束するように伝え、艇の操縦席に行く。
無線機が激しく呼び出している。
「むらだめCICだ!音がしたぞ!どうした!返答しろ!」
「こちら…んとぅよりむらさめCIC。異常はない。バランスを崩したんばぶぃん三尉が海に落ちて騒ぎになっただけだから、特に応援は不要です。」
搭載艇の名前とか、自衛官の名前がわからないから誤魔化したが、うまく騙されるか大河はちょっと不安になった。
「むらさめCIC、了解した。本船はあと5分ちょっとでコンテナ船の後方から回り込める。」
なんとかなった。大河はすぐに合図を出し、はやぶさを呼んだ。
「人数確認!」
「二班よし!」
「三班よし!」
「四班よし!」
「五班よし!」
「運用さん、全員揃ってます。お願いします。」
はやぶさは海中に消えた。
その30秒後に停船しているマルビナスの後ろから回り込んできたむらさめが見たのは乗員が気を失った搭載艇だった。漂流しているはずの海賊の姿はどこにもない。
すでに左舷側で撃墜されたヘリの救助をしている。
ここまで自分たちをコケにしやがった海賊を絶対に許さんと、むらさめの乗員は決意した。しかし、彼らの誰も、海賊がどこに行ったかわからなかった。
「こないだの作戦、大成功だったみたい。」
潜航艇運用科の橋本は、原子力潜水艦セイレーンの特殊潜航艇運用科の同僚の尾形からそう言われた。尖閣諸島に残った第一小隊の残りを回収に行った帰りである。彼らはすでに母艦のリヴァイアサンに送り届けたあとで、潜航艇の中には2人しかいない。
「コンテナは問題なく官邸に搬入されたってさ。たまたま首相がその横を通りかかった時に上陸者たちが中から叩いて音を出したらしくてさ。首相はびっくりして腰を抜かすし、警備員は殺到するしでもう大騒ぎ。今は上陸者たちが取り調べを受けてるらしいけど、ちゃーんとあいつらの作戦書とかの証拠を同封しといたから大体勘付いているんだろうね。」
「その現場見てみたかったな」
冗談のつもりで言ったが、尾形は真面目な顔で返答して来た。
「首相官邸に潜入してるうちの諜報員が撮影した映像、リヴァイアサンでずーっと放映されてるんだって。みんな飽きるほどに見てるらしいけど、セイレーンにいたら見れないからねえ」
リヴァイアサンは電波が届くが、セイレーンは映像を受け取ったりはできない。今度またリヴァイアサンに行く機会があることを祈ろう。
さっき行ったのだからついでに見てこればよかったと思った。
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これにて第一章「尖閣奪還」は終わりです。エピローグを挟んで第二部の「イージス撃沈」に続きます
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