第5話 大雪の災害と試練
それから数日後のことだった。
気象庁と国土交通省が緊急の共同記者会見を開いた。
今後予想される「記録的な大雪」への警告。
気象予報士・
─ これは、記録的な大雪になるぞ!! ─
田上は「イブニングニュースOKITAMA」の天気予報の準備を進める。予想される降雪量と大雪の備えた対策のポイントをフリップにまとめた。さらに、街中が雪に埋もれるイメージCGを用意し、番組に備えた。
(これから迫り来る大雪への災害、俺が何としても食い止めるんだ!)
その強い信念によって、突き動かされていたのだ。
そして、生放送が始まった。田上はカメラの前に立ち、スパコン結果のCGアニメーションを表示し、その内容に沿ってコメントする。
「明日からは大雪に注意・警戒が必要です。朝から雪が降りやすく、昼には吹雪になる予想です。夜からは積雪の増加が一層進む見込みです。命を守るため、準備を怠らないでください!」
いよいよ、お天気ワンポイント。田上の渾身の解説だ。フリップも提示し、
「車は冬タイヤ、暖房器具の点検を!食料や水の備蓄も忘れずに!
大雪への備えを徹底してください!」
とカメラに向かって、熱く、熱く語りかけた。
しかし、現実は残酷だった。
翌日以降の「イブニングニュースOKITAMA」では、雪崩、除雪中の事故、交通障害、家屋の倒壊、凍結による事故のニュースが次々と報じられていった。
アナウンサーがニュースを読み上げる横で、気象コーナーのために待機している田上は、次第に無力感を募らせていった。
(俺のやってる仕事って、一体何の意味があるんだろう……)
控室で、田上はスマホを開いた。SNSには心ない声が飛び交う。
「朝から雪って言ってたのに、こっち晴れてたじゃん!」
「冬の間はずっと雪マーク出してりゃいいんでしょ」
「結局タレント気取りで、はしゃいでるだけ(笑)」
「どうせ将来はAIに取って代わられる……orz」
これにはさすがの田上の心も、ポキンと折れてしまった。
激しい自己嫌悪と世間からの声に苦しむ田上は、ついに番組降板を考えるまでに追い込まれる。
そんなある日、田上は珍しく山下に弱音を吐いた。
「山さん……俺、キャスターとして、
分かりやすい解説を心がけてきたんですけど、それだけで良いんでしょうか?
もっと専門家としての役割があるんじゃないか……って最近、思うんですよね。
このままでいいのか、キャリアアップできるのか……
もう……降りた方が良いのかな……」
ディレクター山下は、田上を気遣う。
「なあ、健ちゃん。『出る杭は打たれる』って、よく言うだろ?
無責任な世間の声なんて、あんまり思い詰めない方が良いよ……。
今度、一緒に飯でも食いに行こうや」
そんな時、田上の目に留まったのは、机の上に置いてあった気象論文「
(そういえば、この論文の著者は、20年近くに渡って地域気象の研究を続けて、さらに置賜予報センターの立ち上げにも加わったんだ……。
しかし、その功績はおろか存在さえも、この地域ではほとんど知られていない。俺も、このままで良いのかな……。
俺の専門家としての役割って……何だろう? もし、この論文の著者だったら、こんな時、何て言うだろう……)
田上は居ても立っても居られなかった。
この著者・
(山さんの話だと、高峰さんは今、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます