第2話 「推し」に憧れる女子大生
所変わって、
ニューラルネットワークとは、人工知能の基礎理論の一つで、人間の脳の神経細胞の動きを模倣した数理モデルである。今では、その応用範囲は実に幅広い。数理工学科と情報工学科の多くの学生が、この講義を履修している。そして、担当教員である
学内では「
この「鬼仏表」は学生有志が極秘に作成しており、ほとんどの教員が★〜★★★の範囲に留まる。ところが、和久田は学内唯一の最高難度「★★★★★」と評されている。例えば、100人中80人が単位を落とすという噂さえある。
鬼仏表における和久田の「★★★★★」は、学生たちの間で半ば伝説と化していた。食堂や寮で囁かれる噂では、和久田の講義は「単位を取れたら就活や進学で無双」「和久田を一発でクリアすれば『
深雪はノートに数式を書き込みながら呟いた。「和久田を一発で突破すれば、私も『神』になれる……」
だが、複雑なニューラルネットワークの理論に頭がクラクラした。友達の
試験勉強の合間、アパートの小さな部屋でテレビをつけると、「イブニングニュースOKITAMA」が流れていた。画面の中では気象予報士の
「明日は冬型の気圧配置で、朝から雪の可能性も……」
その真剣な眼差し、
「わぁ、かっこいい……。私も、あんなふうに空を語れたらなぁ……」
田上に憧れ、彼女は気象学の専門書を独学で読み漁っていた。数理工学の教科書と並べた気象学の本は、彼女の夢の証だった。もはや、テレビに映る田上健次郎は、彼女の「推し」と言っても過言ではないだろう。
だが、ふと、和久田の講義が頭をよぎる。鬼仏表の「★★★★★」が、まるで暗雲のように心にのしかかる。美咲とのSNSのやり取りが蘇った。
「深雪、和久田の試験、マジでヤバい!去年、受講者120人で合格12人だって……」
「マジか!?……でも、単位落としたら進級ヤバいし……」
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