第6話 ガールミーツ悪霊 - 2
部屋を飛び出した夢桜姫の後を急いで追いかける。
彼女が味方かどうかはわからない。だが、彼女は悪い人間ではないとおばあちゃんが言っていたし、さっきは私を助けてくれた。今は敵ではない可能性を信じるしかない。
どのみち、あの幽霊に抵抗する術がない私には、目の前を駆ける夢桜姫の後に続く以外の選択肢が存在していなかった。
さっきの光の球は一体何?
彼女がやったのだろうか?
幽霊に干渉した……?
ということは、この子も幽霊を認識できるっていうこと?
もしかして、私と同じ体質……?
廊下を駆けながら、今すぐにでも彼女に問い詰めたいことが、泉のように溢れ出してくる。
「何か紙と筆をお持ちではないですか!? もしくは、それに類するものでも大丈夫です!」
「紙と筆!? えっと、鞄! 私の鞄の中になら……!」
「貸してください!」
リビングに取りに行くのは論外。私の部屋にも文房具はあるが、二階で時間がかかる上に、黒い幽霊が二階の方向へ消えていったのも気になる。他に調達できる場所といえば、私が学校で使用しているものくらいか。
玄関に放ったままのスクールバッグを乱暴に掴み取り、そのまま私たちは家の外へと飛び出した。
「この近くに、人気の少ない場所はありませんか? 公園や空き地など……」
「えっと……なら、神社が良いと思う! 走ればすぐに着くわ!」
「案内をお願いします! 悪霊が戻ってくる前に、急ぎましょう」
今度は私が先導する形になって、神社へと続く道を駆け上がる。
走り始めてから、自分たちが靴も履かずに飛び出したのだということに気づいた。
夢桜姫に至っては、足袋のままだ。
足の裏の痛みに眉間に皺が寄る。
だが、立ち止まっている暇はない。
「あの! 気を失っていた私を保護してくださったの、貴女ですよね……? ありがとうございます」
走るスピードは落とすことなく、夢桜姫は口を開いた。
「あ、いえ! こちらこそ助けていただいてありがとうございます! えっと、夢桜姫様……」
相手は女神として祀られていた存在。
できるだけ敬意を払って、返事とお礼を伝えたつもりだったが……。
首を傾げる彼女の様子を見て、不味いことを口走ったと思った。
「私の名前は、
彼女がその名を知らないということは、『夢桜姫』という名は封印された後に付けられた名前だということだ。
封印されていたこと、女神として祀られていたことを伝えるのは……。
彼女の気持ちを考えると、やはり得策ではない。今の状況からして、唯一頼れそうな彼女に無駄な負担を強いるのは避けるが吉だ。
「では、なんとお呼びすれば……?」
「そうですね……私のことは、ジュンナとお呼びください。なんだか、その呼び方が馴染みます……」
「わかりました。では、僭越ながらジュンナ様と……。それから、慌てていたせいで失礼な言葉遣いをしてしまい、申し訳ありません!」
「いえ、呼び捨てで大丈夫ですよ。敬語も必要ありません。きっと年齢も近いでしょうし、今はそんな状況でもありませんし……」
まさかの呼び捨て許可?
正直、私は人付き合い少なすぎて敬語使うの苦手だから助かるけど……。
だがまぁ、彼女の言う通り、呼び方を気にしていられるような状況でないのも確かだ。
ここは思い切って普段通りの口調でいくことにする。
「……わかった。私は夜雲リア。そっちも、敬語じゃなくて大丈夫よ」
「やぐも……。……夜雲さん、ですね。私の口調は癖みたいなものなので、お気になさらないでください」
そう答えた夢桜姫……ジュンナの声と微笑みは、裏表が感じられずとても優しかった。
走りながらだが、ようやく私たちは会話らしい会話を行った。一連のやり取りを通じて、彼女の口調や声色には、良い意味で威厳や威圧感がなく、親しみやすさすら覚えた。
この雰囲気からして、彼女の怒りに触れて祟られる、といったことはなさそうで一安心した。
「この階段を上り切ったら着くから、頑張って!」
「は……はい……!」
他にも気になっていることは多々あって、走りながら聞いてしまおうかと思ったが……。
問いかけるのは後回しにした。
しばらくして後ろを確認した時に、ジュンナは私に付いていくのがやっとという表情をしており、これ以上走りながらの会話はできそうになかった。
封印から目覚めたばかりで、寝起きで走らされているようなものなのかもしれない。
「着いたわよ! ……大丈夫?」
「ぜぇ……ぜぇ……すみません……ふぅ……お気遣いなく……」
神社は数刻前と変わらず、静寂に包まれたままだった。
当然私たち以外には誰もおらず、境内を吹き抜ける風と私たちの呼吸、特にジュンナの息切れ、が響いている。
幸い、月がより高いところまで登っているので、視界は十分に確保できそうだった。
何をするのかはわからないが、紙と筆が必要ということなので、明かりも十分で落ち着けそうな拝殿まで急いだ。
罰当たりかもしれないが、祀られていた女神様は目の前にいるのだから、問題はないはずだ。
「紙って適当なノートでも大丈夫!?」
「ぜぇ……はぁ……可能なら……短冊状になった和紙だと、ありがたいです……」
「そんなのあるわけないでしょ!?」
バッグを引っくり返し、教材やら小道具を参道の上にぶちまける。
その中からノートを一冊、ジュンナに向かって放り投げた。
「和紙は無理! どうしても短冊型が必要ってんなら、それで作るしかないわ! 後ろの方は白紙なはずよ!」
「あ……ありがとうございます! あの、鋏などは……」
「ごめん! 手で頑張って!」
その間に私はペンケースを探し、その中から筆ペンを取り出した。筆、ではないが、ほぼ筆だろう。最後に使った記憶がないほどにケースの中で眠っていた代物だが、幸いインクは出るようだった。
一方、短冊の作成に取り掛かっているであろうジュンナはといえば……。
「た、助けてください! 手だけでは上手に切れません!」
「ちょっと! 全然できてないじゃない! 急がないと不味いんじゃないの!?」
「すみませんすみません!どうしても不器用で……!」
さっきまでの頼り甲斐は見る影もなく、そこにいるのはグシャグシャの紙切れを前に涙目になっているただの少女だった。
このままでは燃えるゴミが増える一方なのを見かねて、奪い取るように私が作業を代わった。
ペンケースから取り出した定規を使って、短冊を適当な大きさに切り出していく。
「わぁ……。お上手ですね……」
「これくらいでどう?足りる?」
「十分です! ありがとうございます」
「じゃあ、筆はこれ使って!」
「これは……筆、なのでしょうか?」
ジュンナは何故か手渡された筆ペンに若干戸惑いの様子を見せた。
今時、筆ペンなんて珍しいものでもないだろうに、初めて見るのだろうか。そう疑問に思ったところで思い出した。彼女は85年近く封印されていたということを。つまり、ここ数十年で生まれたものを彼女は知らないのだ。
簡潔に使い方を教えると、彼女は短冊へ筆を走らせ始めた。
短冊を作るのにはあれほど手間取っていたくせに、その筆使いは驚くほど滑らかで達筆だ。
記されていく文字にも模様にも見えるそれは、解読こそできないものの、神社に関係する書類や道具に刻まれているものによく似ていて見覚えがあった。
「ねぇ、それってお札よね? 何に使うの?」
「このお札を使って、あの悪霊を祓います!」
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あとがき
お読みくださり、誠にありがとうございます。
この回と関係のあるお話
↓
プロローグ
https://kakuyomu.jp/works/16818792437158157865/episodes/16818792440354943779
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