第2巻

第37話 精霊協会


「おばあちゃん、これお見舞いのお菓子。何か必要なものとかあった? 体調は平気なの? 退院は?」


「心配してくれてありがとう。だが、少し落ち着きなさい。私は大丈夫だから。退院も、この調子ならあと半月くらいでできるみたいだよ」


「お婆様、お元気そうで安心しました」


「夢桜姫様も、ご足労いただきありがとうございます」


 夜桜不思議相談所が発足して次の日。

 私とジュンナはおばあちゃんのお見舞いに来ていた。


 前に来た時、腕や脚は大きなサポーターで固められていたが、今では少し簡素なものに変わっていた。仰々しいベッドに座っているのは変わらないが、気分が沈んだいる様子はなくて安心した。


「そうだ、おばあちゃん。今スマホ持ってる?」


「あぁ、手元にあるが、どうかしたかい?」


「実はジュンナが……」


 私が言い切るより前に、ジュンナがピンク色のを取り出し、高く掲げる。とんでもないドヤ顔だ。


「……スマホ買ったの。念のため、おばあちゃんとも連絡取れるようにしておいてもらおうかなって」


「私も"でじたる化"しました!」


「それはちょっと意味違うかも……」

 

 桜モチーフのケースに身を包んだ、最新のスマートフォン。

 昨日、夜桜不思議相談所について一通り話を終えた後、家電量販店へと買いに行ったのだ。


「けっこう大きい買い物だったし、そういう面でも一応報告しておこうと思って」


「すみません、金銭面で多大なご迷惑をおかけしております……」


「謝る必要などございません。お金なんて、未来ある若者のために使うものですから」


 おばあちゃんはベッド脇の机に置かれていたスマホを取り出し、慣れた手つきで電話帳アプリを起動した。


 80を超えたおばあさんと、18の少女が連絡先を交換している光景。

 この情報だけ聞いたら、まさか18の少女の方が操作に四苦八苦しているだなんて、誰も思わないだろう。スマホを両手で持って画面と睨めっこしている様は、見ているこちらがハラハラしてしまう。

 昨夜、大まかな扱い方はレクチャーしたのだが、さすがに一夜でマスターとはいかなかったようだ。特に、フリック入力はなかなか難しいようで、一文字一文字苦戦しながら入力していた。


「こ、これで交換できてますか?」


「……うん。電話もチャットアプリも、ちゃんと交換できてるわね」


「ありがとうございます! これで、リアさんに双葉さん、お婆様とはいつでもお話しできるのですね!」


「まさか夢桜姫様と連絡先を交換する日が来るとは、恐れ多いことです……」


 記念すべき三人目の連絡先に、ジュンナはここが病院ということも忘れてはしゃぐ。ここ数日現代知識の勉強を頑張っていた彼女は、現代テクノロジーに憧れがあったのだろう。


「何かあれば、いつでも連絡してくださいませ」


「ありがとうございます!」


「そうだ。連絡といえば、私たち情報収集のためのwebサイトを作ったのよ」


 おばあちゃんにことの経緯を説明した。

 学校で悪霊が出たこと、ヨモギに協力してもらうこと、夜桜不思議相談所のこと。


「……夜桜不思議相談所……綺麗で良い名前じゃないか。リア、やるからには最後までやり通すんだよ」


「うん。もう後には引かないつもり」


「夢桜姫様……大変恐縮ですが、改めてリアのことをお願いいたします……」


「はい。これ以上無茶はさせません」


「ちょ、ちょっとジュンナ!? あれは反省してるってば!」


 鋭くなったおばあちゃんの目から必死に目を逸らす。


「と、とにかく! おばあちゃんにも、相談所の噂広めてもらえると助かるの。他の患者さんとか看護師さんとかに」


「それは構わないが……。くれぐれも気をつけてくれ……あまり目立つと、協会に目をつけられる可能性もある」


「協会……というのは、精霊協会のことでしょうか?」


「なら、私たちの味方なんじゃないの?」


 精霊協会とやらは、謎に包まれているのだろうが、何も悪の組織というわけではないだろう。「この世の精霊の調和を保つこと」という精霊術師の本質が昔から変わっていないのであれば、私たちと敵対する理由はないはずだ。


「あぁ、精霊協会は決して敵ではない。悪霊から人々を守るという目的も同じさね」


「なら……」


「考えてみなさい。協会からしたら、知らないところで"精霊術で悪霊を払っている人間"がいることになるんだよ」


「現代では、精霊術は協会の管理下にあるということですね……。それであれば、確かに私たちの存在は異質ということになりますね……。敵対はせずとも、目をつけられるには十分すぎますね……」


「そっか……なんか不穏ね……」


 ゾンビ映画でよくあるような、共通の敵がいるのに何故か人間同士で争う展開。

 いつも「なんでそんな効率の悪いことをするんだろう」と思いながら見ていたが、まさか自分もその立場になるとは思わなかった。

 

「私の時代では、精霊術で人を傷つけることは禁止されていました。その気になれば、人命を脅かすことも容易い術ですので……。だからこそ門外不出の掟がありました。その規則が変わっていないことを信じています……」


「その規則は健在でございます。少なくとも、命を取られるようなことはございません」


「そう? だと良いんだけど……」


 安心するよう自分に言い聞かせたつもりだが、不思議と身体は強張っていた。


「他に精霊協会について知ってることないの?そんなに詳しい理由も含めて……。孫として言わせてもらうけど、おばあちゃんはたまに言葉足らずなのよ」


「悪いと思っているよ。私だって、可愛い孫に隠し事なんて本当はしたくないんだ」


「なら、なんで教えてくれないのよ」


「私がリアの祖母だからだよ。察しておくれ」


 察して、と言われても私は何もピンと来やしなかった。

 不満を隠さない私に対して、おばあちゃんはやけに優しい微笑みを浮かべていた。 

 

 

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あとがき


お読みいただき、誠にありがとうございます。


精霊協会についての話は、第17話で出てきます

https://kakuyomu.jp/works/16818792437158157865/episodes/16818792437904425059


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今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

 


 

 


 

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