第33話 夫婦漫才
ジュンナは淡々と説明を始めた。
"精霊"や"精霊術"といった単語は使わず、"幽霊"や"体質"という言葉でぼやかしながら。
私からしたら、そこをぼやかすことに意味があるのかは分からなかったが、ジュンナ曰く、「精霊という存在。そして、それを操る術があるという事実が、公になると不味いのです」だそうだ。
ジュンナの話は、半分は嘘、半分は本当で構成されていた。
海老名先生や一部の生徒が、幽霊の影響を受けたこと。
私とジュンナで除霊をしたということ。
ジュンナは私の親戚だということ。
とても抽象的で煙のような説明なせいで、作り話にしか聞こえないだろう。
……そもそも、精霊が見えない人からしたら、全部が本当でも荒唐無稽な話か……。
「――以上が、ことの顛末です……」
ジュンナが話を終えると、ヨモギは腕を組んで、海老名先生は顎に手を当てて深く考え始めた。
私がおばあちゃんから夢桜姫のことを聞いた時も、こんな風にして受け入れられなかったことを思い出す。
特に、海老名先生なんて目を覚ましたばかりでこんな話を聞かされて、何のことだかさっぱりだろう。
「ヨモギも海老名先生も、信じられないのはわかる。けど、全部本当で……」
「いや、うちは信じるで」
「私も、信じるかな」
「そう……やっぱり信じられ……えっ!?」
予想に反した二人の反応に、ギャグ漫画みたいな反応をしてしまった。
もっと、「ドッキリやろ!?」だの、「おもろい作り話やなぁ」だの言われると思っていた。
「ごめん、説明しといて何だけど、受け入れられるの?海老名先生まで……」
「いきなり説明されてたら、そりゃ作り話やと思うで?でも、そうとしか思えんようなことを体験してもうたからなぁ……」
そう言って、ヨモギはポリポリとこめかみを掻くジェスチャーをした。
「私、実はここ数日の記憶がぼんやりしてるの……。まるで、ずっと悪い夢でも見てたみたいな……。今、こうして屋上にいるのも記憶ないしね。むしろ、幽霊に取り憑かれてたって言ってもらった方が、腑に落ちるかも」
「は、はぁ……」
「……あっ、てことは、除霊してくれた二人は恩人ってことだよね。ありがとう、夜雲さん、……と、夢桜さん。で合ってたかな」
海老名先生も考える仕草をやめて、そう続けた。
二人の適応力の高さに、間抜けな声が漏れてしまった。
これでは、話を飲み込めずにいた過去の自分を重ねていたことが馬鹿みたいではないか。海老名先生は勿論のこと、ヨモギも意外に賢いので、人としての余裕の差を見せつけられたみたいで少し悔しい。
「ところで、このことはやっぱり黙っておいた方が良いのかな? とは言っても、誰かに喋ったところで信じてはもらえないだろうけど」
「はい。お察しいただいた通り、このことはどうか口外しないようにお願いいたします。幽霊のことはもちろん、私とリアさんのことも、です」
海老名先生の質問に、ジュンナはやはり低めの声で答える。
「――無闇に口外すれば、お二人の身にも何が起こるかわからないので……」
最後に付け加えられた脅し文句に、全てを知っている私ですらゾクッとしてしまった。
言葉を向けられた二人も、ジュンナの雰囲気に息を呑んで固まった。
憂いを帯びた表情の中に感じる、確かな威圧感。これを意図して出せるのだとしたら、やっぱりジュンナは末恐ろしい人間だ。普通に会話しているぶんには、小動物みたいな印象すら感じるのに……精霊が絡んでくるとまるで別人だ。
「んま、こういうのは口外禁止って相場が決まっとるよな。ええやん。こういう秘密を抱えるのって、アニメのキャラみたいでなんかオモロいわ」
「そうだね。私も誰にも言わないから安心して。助けてくれた恩人を売るような真似、できないしね」
ヨモギも海老名先生も、理解がある心優しい人間で本当に良かった。
海老名先生の無事は確認できたし、ヨモギに対して説明するという筋も通せた。これで一旦は一件落着のはずだ。
となると、次の問題は……。
「この後はどうしよう……。私とヨモギ、一時間目サボり扱いよね……」
「せやなぁ〜。どうにかして誤魔化さんと、うちもリアも不良扱いやで。リアにいたっては血まみれやし。うちも訳あって、制服汚れてもうたしな」
「ジュンナも、呼び出しておいて悪いけど、見つからないように帰ってもらわないと……」
「二時間目まで待って、人目につかんように裏口とかから帰るしかないんやない?」
私は髪色と目つきのせいで、ヨモギも派手な見た目をしている故に、人一倍授業態度や成績には気をつけているのだ。これ以上不良のレッテルを増やすのはどうにかして避けたい。
考える私とヨモギに対して、「あのぉ……」とジュンナが割り込んでくる。
「私、そんなに目立たない方が良いのでしょうか?一応、これがこの学校の制服なのですよね?」
「いや〜、無理やろ。どっからどう見ても不法侵入やで」
「えぇ!? ふ、不法侵入!?」
「そうだね。私は恩人だから黙ってるけど、他の教師に見つかったら、さすがにタダじゃ済まないかも」
「リ、リアさん!? 私、何も聞いてませんよ!?」
やばっ……。
私は全力でジュンナの視線から顔を逸らした。
悪霊の件で焦ってたから、そのあたりの説明はすっかり後回しにしてしまった。
恨みのこもっているであろう視線が、ジリジリと後頭部に突き刺さっているのを感じる。
「そ、そうだ。万が一見つかっても、ここの生徒だと誤魔化したりはできないでしょうか……?」
「それも無理やろ。そんな目立つ髪色の生徒がいたら、さすがに全員が認知しとると思うで」
「えっ……この髪色、珍しくないのでは……?」
「うーん、原宿とか渋谷ならいるかもだけど……。ピンク色となると、この学校はおろか、街中探してもいないんじゃないかな」
「リアさんっ!? 普通の髪色だっておっしゃいましたよね!?」
「いや〜……。そ、そうだったかしら……」
やば〜……。
ジュンナだけでなく、ヨモギと海老名先生の冷ややかな視線も感じる。
ポコポコと肩を叩くジュンナの拳から、「話が違います!」というクレームが込められているのを感じる。
帰ったら無茶したことに対するお説教があるだろうし、どうにかしてご機嫌を取る方法を考えておかないと……。
「リアさんっ! 私の機嫌を取ろうだなんて考えても無駄です! 怒りましたから!」
「い、いやいや、そんなこと考えてないわよ!」
「顔に出てますっ!」
みるみるうちに墓穴が深くなっていく。
そんな私たちのやり取りがツボに入ったのか、静観していた二人が同時に吹き出した。
「あははっ、夜雲さんと夢桜さんってすごく仲良いんだね」
「ははっ、うち、リアがそんな風に人と喋ってるの初めてみたわ〜」
うわっ、恥ずかし……。
何が恥ずかしいって、学校にいる時の態度と、ジュンナに対する態度が違うということを察せられたのが一番恥ずかしい。
ジュンナも、ムキになっていた自分が恥ずかしくなったのか、拳を下ろして気まずそうにし始めた。
ひとしきり笑った後、海老名先生は立ち上がってぐぐっと身体を伸ばし始めた。
「ふぅ〜……。三人のお陰でだいぶ体調も良くなってきたし、ここからは私に任せてもらおうかな」
「エビセン、なんか良い考えあるん?」
海老名先生は私たち三人の顔を順々に眺めていく。
「大人として、受けた恩はちゃんと返すよ」
そう言って、先生は見事なウィンクを決めたのだった。
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そこからはバタバタと忙しなく動くことになった。
一時間目が終わるまでの間に、全員で急いで保健室へと急ぐ。
まず、ジュンナは二時間目が始まるまで保健室に匿ってもらえることになった。
最も人目につかないであろう時間帯に、海老名先生の案内で裏口から出てもらう手筈になっている。
それから、私は保健室に備えてあった予備の体操服を貸してもらった。さすがに、あんなに血まみれの制服で教室に戻れば、"ちょっとした騒ぎ"では済まなくなる。
ヨモギの制服も砂や埃で汚れていたが、ウェットティッシュで拭くだけにとどめた。二人揃って体操服に着替えていたら、それに見合う事件をでっち上げる必要が出てきてしまうから、という判断だ。
一時間目を欠席したことに関しては、海老名先生が担当教師に説明してくれるらしい。
そのための理由もちゃんと考えた上で、口裏を合わせるために認識も共有した。
変に不在の時間を長引かせると怪しさが増してしまうので、早々に二時間目の途中から教室に戻ることにした。
「じゃあ、うちらは授業に戻るわ!ジュンナちゃん、気をつけてな!」
「海老名先生、ジュンナをお願いします」
「うん。二人とも、うまく誤魔化せるのを祈ってるよ」
「リアさん、家に帰ったら覚えておいてくださいね……」
最後のジュンナの言葉に対して、私はイエスともノーとも返せなかった。
「……お前ら、一緒に住んどるの?」
「……成り行きでね」
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あとがき
お読みいただき、誠にありがとうございます。
ジュンナの髪色については、第12話で話しています
↓
https://kakuyomu.jp/works/16818792437158157865/episodes/16818792437211387545
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