第14話 夜雲リアの決意
私が察したことを察してか、ジュンナは答えを口にした。
残念ながら、私の推測は的中していた。決して寒くはない気候なのに、Tシャツ下の肌には鳥肌が立っていた。
「それって、誰かが意図的に封印を解いたってこと!? あの時、私以外にも誰かいたの!?」
「信じたくはありませんが、そういうことになるかと……。そこの参道や、林の方にも痕跡が残っていました。おそらく、術を解いた精霊術師のものでしょう」
「待って、参道にも痕跡……。あっ! 黒猫、私あの時、黒猫を見たのよ! 何故かその黒猫を追いかけなきゃいけない気がして……追いついたと思ったら、御神木が光りだして……。なんで忘れてたんだろう……」
「それもおそらく、その精霊術師が仕掛けたものでしょう。無関係に夜雲さんを巻き込んだとは考えられません。……もしかしたら、夜雲さんの何かが必要だった……?」
「何よそれ……。私、利用されたってこと!?」
「あくまでも可能性の話です。ただ、夜雲さんがの体調が悪くなったというのは、その術師が原因ということで間違いないでしょう」
思わず語気が強くなる。
あの時の異常が、人為的なものだった。それだけでも信じがたい事実だが、おまけに私が意図的に巻き込まれた可能性まで浮上した。
間違いなく、点と点は繋がっているのだが、その全貌は見えない。最も重要な疑問が残ったままだ。
「目的……。その精霊術師とやらが、封印を解いた理由は何? ジュンナに用があるってことなの?」
「いえ、私が目を覚ましたのは副次的なものでしょう……」
「てことは、理由はわかってるのね?」
「……夜雲さん、貴女はとても優しい方です。出会ってまだ一日も立っていませんが、それははっきりとわかります……」
「……え? なによ、いきなり」
脈絡のないジュンナの発言に、私は首を傾げた。
「ここまでお伝えしてしまってなんですが……。夜雲さんは、知らない方が良いと思います。これ以上、危険を犯す必要はありません……」
……なるほど。ジュンナの考えはおおよそわかった。
彼女からしたら、ともに悪霊を倒したとはいえ、私も単なる一般人でしかないのだろう。
私のことを気遣ってくれるのは、素直に嬉しい。だけれど、今は、無性に、その優しさに苛立ちを覚えた。
「あのね、ジュンナ。気遣ってくれるのはありがたいけれど、私、もう十分に巻き込まれてんのよ。あれだけ苦しい思いをしたのが、人間の仕業ですって? 被害受けておいて、なんで私が泣き寝入りしなきゃいけないのよ。直接文句の一つでも言わないと、気が収まらないんだけど」
「ですが、夜雲さんに再び関わるとは限りません!わざわざ自ら首を突っ込むのは……」
「それも、『可能性の話』、でしょ? 逆にいえば、また巻き込まれる可能性があるってことじゃない。それなのに、何も備えずにのんびりしてるのは嫌よ」
「う……それは……」
「その上、私は自分の体質にもずっと悩まされてきたのよ。ようやく何かを変えられそうだっていうのに、引き返すのはごめんよ」
ここまで訴えかけても、ジュンナの態度は変わらず、再び口をつぐんでしまう。
困ったように視線が伏せられていることから、気持ちを揺さぶれているのは間違いない。
「ねぇ、そんなに辛いことなら、尚更ジュンナ一人には背負わせられない。私、精霊術も何もわからないし頼りないと思うけど、一緒に背負わせてほしい。あんたが『信じてほしい』と言ってくれたように、私のことも信じてほしいの」
我ながら、またしてもむず痒くなるようなセリフを吐いてしまった。けれど、今度は目を逸らさずにまっすぐ伝えた。
何もできないくせに、『信じてほしい』だなんて虫のいい話だと思う。でも、そうしてでもジュンナの助けになりたいと、心から思っている。私とおばあちゃんを身を挺して助けてくれた彼女を、今度は私が助けたい。
この時代で、ただでさえ孤独になってしまったジュンナに、これ以上は孤独な運命を背負ってほしくない。
ジュンナは、しばらく葛藤するように目を伏せ、唇をきつく結んだ。
――やがて、決心したように息を吐きだすと、再び私に向かい合った。
「……ここまで説得されて、応じないのは不義理にもほどがありますね……。わかりました」
伏せられていた瞳が真っ直ぐにこちらへ向けられる。
張り詰めた緊張感に、無意識に呼吸が止まった。
「御神木には、何体もの悪霊が封印されていた形跡がありました。その数は、百体は下らないでしょう」
私の脳裏に、御神木が禍々しく光りだした瞬間がフラッシュバックする。
御神木から放たれた、無数の黒い光。あの黒い光が……。
「今この御神木には、悪霊たちの痕跡しか残されていません。そして、それだけの数を祓った形跡もありません。そうなると、数多の悪霊がこの世に解き放たれてしまったと考えるのが妥当です。夜雲さんが説明してくださった、御神木の黒い光というのが、おそらく悪霊でしょう」
「悪霊って、昨日戦ったやつみたいなのが、百以上? それって、とんでもなくヤバいんじゃないの!?」
「はい。悪意を持って人に害をなす悪霊は、滅多に発生するものではありません。ですが、それが同時に百体以上……。どこかで私たちと同じような被害が発生することは、容易に想像できます」
悪霊に触れられた時、即死こそしなかったものの、立ち上がれなくなるほどには苦しんだ。それこそ、おばあちゃんは緊急搬送されるほどの被害を受けた。
これでも、私は悪霊が見えていたし、ジュンナの治療があったから被害は最小限だったのだと思う。
もし、なんの抵抗手段も持たない人が襲われたら……。
「じゃあ、封印を解いた奴の目的は、悪霊で世界をめちゃくちゃにしてやろうってこと? だとしたら、警察とかに伝えたほうが良いんじゃ……」
「精霊術を知らない一般の方に伝えたところで、おかしく思われるか、パニックを起こすだけでしょう。少なくとも、私の時代ではそうでした。悪霊や精霊に関する問題は、精霊術師が極秘に対応していたんです」
「あ、そうよね……。こんなこと言っても誰にも伝わらないのは、私もよく知ってるのに……」
「それに、悪霊の動きは誰にも想像できません。被害の大きさや場所、その時期もです。すぐ発生する場合もあれば、何十年も動かない悪霊もいるでしょう。だからこそ、悪霊を解き放って何がしたいのかは、具体的には想像できません……」
「確かなのは、碌な目的ではないってことだけね……」
陽の光が御神木で遮られ、私たちの上に大きな影を落とす。春の陽気とは対照的に、私たちの間には重苦しく冷たい空気が流れていた。あまりの事の大きさに、顔を歪めながら髪をグシャリと握った。
ジュンナも再び目を伏せ、沈痛な表情を浮かべていた。
これ、私とジュンナだけでどうにかできる話なのかしら……。
勝手に背負わせてほしいとか言っておいて、私に何かできるの?力もなければ、精霊や精霊術について知らないことが多すぎる……。
ジュンナは、こんな事実を一人で抱えようとしてたの? 見知らぬ時代で目覚めたばかりなのに?
その上、封印が解けた理由に、私が関係しているのだとしたら……。
私がすべきことは……。
『せめて、誰かの役に立てるような力だったら、多少の被害は苦ではなかったかもしれない。』
『せめて、誰かを救える力だったら、自分のことを好きになれていたかもしれない。』
『せめて、誰か隣にいてくれる人がいれば、もっと明るい人生を送れていたのかもしれない。』
――いつかした無い物ねだりが、脳裏に蘇った。
「……ジュンナ、私に……精霊術を教えて」
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あとがき
お読みいただき、誠にありがとうございます。
『いつかした無い物ねだり』は、第1話の最後の言葉です。
↓
https://kakuyomu.jp/works/16818792437158157865/episodes/16818792437158183294
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