第12話 髪色

 ジュンナを浴室に案内し、さて洗い物をしようかとキッチンに立った時だった。


「きゃあーーーーーーーー!!!!」


 家中にジュンナの絶叫がこだました。

 考えるよりも先に、慌ててスポンジを放り出し、浴室へと駆け出す


 ジュンナの悲鳴……何があったの!?

 まさか、また悪霊!?

 それとも、封印されていたことによる副作用があったり?

 ジュンナに何かあったら、私で助けられるかしら……。

 

 色々な不安が頭をよぎる。

 ジュンナの無事を祈りながら、浴室に押し入った。


「ジュンナ! 無事!?」


「あ、あぁ……」


 そこには、頭を抱えたままに、力無く壁に寄りかかるジュンナの姿があった。


 巫女服がはだけているあたり、着替えようとした途中で襲われたのだろうか。顔を真っ青にして、ひどく怯えた様子だ。まるで、見てはいけないものを見てしまったかのように……。


 あれだけ頼りになっていたジュンナが、こんなに怯えるだなんて……。


 震えるジュンナの肩を急いで揺さぶり、状況の把握を試みる。


「大丈夫? 何があったの!?」


「か、かみ……」


「かみ?」


 かみ、紙?神?


 ジュンナが震えながら、鏡を指差す。

 恐る恐る振り返った先にあるのは、洗面台についている大きな鏡。


 そこに写し出されていたのは、緊張した顔の私と、相変わらず怯えているジュンナ。

 

 ……の二人だけ。

 後ろに変なものが写ってるとか、鏡から霊が出てくるといったことはない。


 ……何もおかしな所はないように思う。


「な、なんですか……」


 ジュンナが震える声を振り絞った。


「なんですか……この髪の色は……」


「髪の色? ジュンナの?」


「な、なな、なんでこんな桃色になってるんですかぁ!?」


 半ばパニック状態で発狂するジュンナ。


 そんな彼女を見て、私の頭上には疑問符がたくさん浮かぶ。

 ジュンナがこんなに取り乱している理由がさっぱりわからなかった。


「えっと、最初からその色だったけれど、地毛じゃなかったの?」


「わ、私は元々は黒髪でした! な、なんでこんな派手な色に……」


「もしかして、それがショックで叫んだの? 私、てっきりまた悪霊でも出たのかと」


「私にとっては一大事です! こんな、髪を染めるなんて……不良と勘違いされてしまいます……」


 これが昭和と令和での価値観の違いか。

 不良に見られるという点に関して全否定はしないが、髪染めに対する忌避感は相当に違いそうだ。

 自分の地毛が紫色なのもあって、ジュンナの髪色に対してなんとも思ってなかった。


 つまり、かなりどうでも良い。


「桜の木に封印されてたせいで色が移ったんじゃない?」


「そんな適当な……」


「現代ではそんな髪色、結構普通よ。誰も気にしないわ」


 都会の方ではね、という言葉が後に続くが、面倒なのでそれは黙っておいた。


「それに、その髪色似合ってるわよ? 夢桜って苗字にもピッタリだと思う」


「うぅ……そうでしょうか……? 気休めではないですか?」


「誰が見ても綺麗な髪だって言うに決まってるわよ。私が保証してあげる」


「え、ほ、本当ですか……? ありがとうございます……。そう言っていただけると、少し気持ちが落ち着きました……」


 顔を赤らめながら少し機嫌を持ち直したジュンナを見て思った。


 結構単純なんだな、と。

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