第2話 掃除屋の話2
すべてが終わった後の部屋は独特な匂いがする。
入室前に準備が必要だ。ツナギから小瓶を取り出す。メントールの香りの、普段は喉に塗るための軟膏を、鼻腔の周りにたっぷりと塗りつける。
それでも入った瞬間、細かな匂いの粒子が飛び込んできた。
広々とした部屋、隅に段ボールが少しだけ積んである。床の真ん中に、大柄なの小柄の二人の男が重なるように横たわっていた。
遠目で彼らの状態を確認する。色々と赤い。
「満開だ」
「何か言ったか」
いえ、と答える私を不審そうに先輩が見る。
私には、一面満開の真っ赤な花が見える。
これは比喩ではない。
人の顔が覚えられない人は、人の顔を何かに変換するのだという。そうやって記憶を補っているのだと。それとは少し違うかもしれないが、私は死体の赤い部分が全て、植物、おおむね赤い花に変換される。
大柄な男の右頭頂部に「大輪の深紅のバラ」が咲き、唇の端には黒い花弁が散っている。シャツの腹部はダリアがいっぱい乗せられ、開いた隙間から覗く今にも弾けそうなイチジク。あ、潰れた。鼻をツンと刺激臭が突く。
小柄な男はこめかみにだけ花が咲いていた。小さな丸いボケの花。それ以外は何もなかった。美しい死に顔だった。死んでいるのか疑いたくなるように、薄く目が開いていて、流れた涙の跡が残っていた。
「とっとと始めるぞ」
先輩に促され、収納袋に手早く二人を入れ、特注の台車に乗せる。床一面の彼岸花を特殊なアルコールで拭きとっていく。一輪も残さないように丁寧に作業を続け、夜明け前に仕事は終わった。
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