時の庭師

ミエリン

第1章

忘れられた温室雨が古いガラス屋根を叩く音で、エリカは目を覚ました。

見慣れない天井が視界に入り、彼女は慌てて身を起こす。

ここは祖母の家の屋根裏部屋だった。

「そうだった...」

祖母の葬儀を終え、遺品整理のためにこの古い屋敷にやってきたのだった。




昨夜は疲れ果てて、そのまま眠り込んでしまったらしい。

窓の外を見ると、庭の奥に見慣れない建物が見えた。

温室のような、ガラス張りの古い建造物。

子供の頃に何度もこの家を訪れていたのに、そんな建物があったことは記憶になかった。

好奇心に駆られて、エリカは外套を羽織り、雨の中を温室へと向かった。



扉は意外にもスムーズに開いた。

中に足を踏み入れると、外の冷たい空気とは対照的に、温かく湿った空気が肌を包んだ。

そして、目の前に広がっていたのは—時計だった。

大小様々な時計が、植物のように土から生えている。



懐中時計の蔓が天井まで伸び、振り子時計の根が床下深くまで張り巡らされている。

すべての時計が異なる時を刻んでおり、無数の秒針の音が重なり合って、まるで雨音のような不思議なリズムを奏でていた。「驚いた顔をしているね」

振り返ると、そこには見知らぬ老人が立っていた。



汚れた園芸用エプロンを身に着け、手には古い如雨露を持っている。

「あなたは...?」

「私は庭師だよ。時の庭師と呼んでもらおう」

老人は微笑んだ。

「君の祖母とは長い付き合いでね。彼女から君のことはよく聞いていた」

エリカは混乱していた。



「祖母は一人暮らしだったはずです。それに、この温室のことも聞いたことがありません」

「そうだろうね。この庭は特別な人にしか見えない。君の祖母も、そして君も、時を感じる力を持っている」

庭師は近くの時計に如雨露で水をやりながら続けた。



「これらの時計は、人々の大切な時間を宿している。誰かが心から愛した瞬間、失いたくない記憶、もう二度と戻らない時間...そういうものが、ここで花を咲かせるのだ」

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