初めての選択

放課後の教室は静かで、机と椅子だけがぽつんと並んでいた。

柚葉は手に握ったスマホの画面をじっと見つめていた。通知は一件もなく、ただ時間だけが過ぎていく。


「どうしよう……」


小さな声で呟いたその言葉は、自分に向けた問いかけでもあった。


慧と再び出会い、気持ちを確かめ合ってから数週間が経った。

春の風は優しく、けれど彼女の心はどこか落ち着かずに揺れていた。


あの日から、柚葉はずっと考えていた。


「私、本当に何を選ぶべきなんだろう?」


学校の屋上。風が柔らかく吹き抜ける。

柚葉はそっと慧を呼び止めた。


「慧くん、話があるの」


彼の瞳が真剣に彼女を見つめる。


「うん、何?」


「私、これからのことを真剣に考えたい。もうノートには頼らない。

自分の言葉で、自分の気持ちで歩いていきたいの」


慧は少し驚いた表情だったが、すぐに優しく微笑んだ。


「そうだね、それが一番大事なことだと思う」


二人はこれまでの過ちも含めて、全てをさらけ出す覚悟を決めた。


「柚葉が決めることを、俺は応援するよ。どんな選択でも、君の味方だから」


柚葉はその言葉に胸がいっぱいになった。


「ありがとう、慧くん」


文化祭が近づく日々。準備に追われる中で、柚葉はクラスメイトたちとも以前より自然に話せるようになっていた。

過去の自分から一歩踏み出したことで、周りとの距離も縮まっていくのを感じていた。


ある日、図書館で偶然出会った天野先輩が声をかけてくれた。


「柚葉、最近変わったな。何かあったのか?」


「うん、いろいろあってね。ノートも使わなくなったし、自分の気持ちを大事にすることにしたんだ」


天野先輩は微笑みながら、


「それができるなら、君はもう大丈夫だ。自分の言葉で未来を切り開くんだな」


日が暮れた帰り道、慧と柚葉は手を繋いで歩いていた。


「これからも、ずっと一緒にいようね」


「うん、約束だよ」


夜空に瞬く星がふたりの未来を優しく照らしていた。


柚葉は深呼吸をして、自分のノートに新たな一行を書き加えた。


『これからは自分の声で、自分の未来を選ぶ。』


その言葉が、彼女の胸に強く響いた。

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