第27話 竜騎兵攻略計画


 軍議は思いのほか淡々と進行した。

 予想される敵方の布陣に対して、有利な対面を取れるように自陣の配置をしつつも、想定が外れた場合にも速やかに配置を入れ替われるようにしたり、そのまま交戦になだれ込んだ場合に流れを誘導する策を立てたり、真っ当な戦略が組まれていた。

 だが、戦略を聞いている限り決定的に有利な印象はない。この既定路線で行くようなら負けはしないが大きな勝利をつかむこともできないだろう。


「敵の切り札は突撃力と継戦能力の高い竜騎兵団である。この切り札を奴らがどこで使ってくるか、それが戦いの肝となる」

 軍団長のモルゲンが一番に警戒するのは敵の竜騎兵団。呼び名の通り、竜種に騎乗した兵隊達の集団だ。一般的な騎馬隊と違って、竜種の戦闘能力を前面に押し出してくる厄介な兵科である。

「そこで切り札には切り札を」

 そこで、の言葉と共にヴィータの方を見るモルゲン。

 まあ、ここで話を振ってくるか。これまで剣妖部隊の配置は一言も触れられてこなかった。それは最初から使いどころが決まっていたからだろう。


「剣妖部隊には両軍の衝突前に竜騎兵団の駐屯地へ襲撃をかけてもらう。先制の襲撃で削りつつ、両軍の衝突時にも基本的には剣妖部隊に竜騎兵団の対処へ当たってもらう予定だ」

 軍議の場が静まり返る。

 軍団長のモルゲンがさらりと命じたことは、敵の主力部隊へと単独部隊で攻撃を仕掛けて、さらには決戦時にも対処に当たれという無理無謀な作戦だった。

 最悪、先制の襲撃とやらで剣妖部隊の全滅もありうる。


 馬鹿げた命令だが、この場には剣妖部隊の損耗を気にかける軍人はおらず、下手に意見して自分らの部隊が巻き込まれても損と考えている。

 そして、この命令を拒む権利は剣妖部隊になかった。

「任務承知いたしました。今晩より先行して、敵部隊への襲撃を実行します。襲撃の時間や回数はお任せいただいてよろしいでしょうか?」

「子細は任せる。が、臆病風に吹かれて襲撃を見送るようなことがあれば、本体同士の決戦時に正面から当たってもらうことになる。心して任務を遂行するように」

 敵主力と正面からの真っ向勝負をしたくなければ、先に削っておけということか。いずれにしろ、命令が出された以上は剣妖部隊に引くことは許されない。



 今回の『戦争』、俺を除くと剣妖部隊は総勢十六名が出撃していた。

 剣格七等級は部隊長のヴィータとエズーリオ、それ以外は九等級と十等級になる。

 剣格八等級に関しては宝剣や宝刀の類で、権威の象徴あるいは美術品として扱われる刀剣がほとんどであり、拵えに宝石や金が多用されるものだ。実用性は低いとされるが人を魅了する力がある。造形は絢爛華美なものばかりで、要するに剣妖に実戦で使わせるような剣ではないので、剣妖部隊にも剣格八等級の担い手はいない。


 一つの小隊を四名ずつで振り分け、四小隊編成で作戦にあたる。

 剣妖部隊はこれで総力というのだから、だいぶ心もとない。

(……軍の規模を見たところ、国家間の戦争でも千人いくかどうかの人数で戦うようだな。その中にあって並の兵士よりは強い剣妖が十六人。俺の感覚からすると少ない人数に思えるが、この世界にあってはそれなりの戦力といえるのか……)

 個々の戦闘能力が高い、この点が剣妖部隊の大きな強みだ。

 正面から足並み揃えて当たるよりも、奇襲や乱戦において真価を発揮する部隊といえよう。


 つまり、クノッヘン統一軍とディアブルグ辺境伯軍が本格的な衝突をする前に、どれだけ敵勢力の肝である竜騎兵部隊に損害を与えられるかが剣妖部隊の行く末を決める。

 ディアブルグ辺境伯軍の他部隊が野営の準備をする中、ヴィータは部隊員を集めて襲撃計画を練る。

「……隠密行動、そして竜騎兵部隊の要である『竜』を奇襲で潰すしかないでしょうね」

「そうは言ってもよぉ~。竜騎兵部隊はクノッヘンの部隊でも後方に隠されていると思うぜ。そんな敵の中へ潜入できるなら、苦労しないって」

「それでもやるしかない。戦場で正面衝突するのは不利が過ぎる」

 エズーリオの意見は真っ当だが、カプラの言うように奇襲の機会を逃したら戦場で真っ向勝負することになる。それはほぼ確実に剣妖部隊の全滅を意味するだろう。


「私達はこれから西の国境線に陣取るクノッヘン統一軍の本陣へ奇襲をかけます。まずは今日のうちにディアブルグ辺境伯軍より先行して、国境線へと近づきましょう。明日の昼までにはギリギリの距離まで詰めます。その後、夜になったら一気に国境線を超えて、敵竜騎兵部隊を探し出して襲撃です」

 襲撃の手順を説明するヴィータの顔色は優れない。自分でも言いながら無謀な作戦だとわかっているのだ。

 しかし、エズーリオ含めてヴィータの作戦に異を唱えるものはいない。剣妖部隊とはそういうものだとあきらめているからだ。


 一旦、会議が解散になったところでアンシッラの口から思わず弱音がこぼれる。

「竜騎兵部隊の居場所もわからないのに、この奇襲はうまくいくのでしょうか……」

 十中八九、失敗するだろう。

 何の策もなしに、敵部隊の監視をかいくぐって竜騎兵部隊に奇襲を仕掛けるなど、いくら考えても実現性がない。


 可能性があるとすれば『妖刀剣技』を効果的に使うことだ。

 剣妖部隊の面々の剣技を最大限に利用して活路を見出すしかない。

 俺としても密かに練習していた技が、ついに役に立つときが来た。

 ――妖刀・壇舎利。この刀はまだ秘められた力を出し切ってはいない。

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壇舎利転生―世界を捨てて異世界へ 山鳥はむ @yamadoriham

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