第22話 妖刀剣技
要塞都市デオールの防壁に設けられた詰め所、その倉庫のような場所で俺は目を覚ました。
周囲を見回せば壁に背をもたれかけて眠る剣妖部隊の面々がいる。
小さな窓からは未だ日の光が差し込む様子はないので、深夜といったところか。疲労の溜まっていたであろう剣妖部隊は全員、静かに寝息を立てていた。
やることもなく暇をしていた俺は、一つ、妖刀・壇舎利の能力を試してみることにした。
実はこれまでも赤ん坊として身動きの取りにくい状況で、持て余した時間を使って検証は進めていたのだ。
──妖刀には、特殊な『剣技』が備わっている。
単純に剣の担い手が扱う剣術のことではなく、剣の力を借りてなしうる異能の技だ。それは剣の特徴によって異なり、剣格が高いほど超常の効果を発揮する。
妖刀・壇舎利に秘められた能力の一端。俺にはそれができると奇妙な確信があった。
しゃり……と、金属の擦れる音が幻聴かもしれないが聞こえてくる。
(……妖刀剣技、『剣銘診断』……)
目の前に自らの持つ刀をかざすと、その刀の剣格と剣銘が脳裏に浮かび上がってくる。
【剣格七等級 妖刀・
担い手、ダン・シャーリー・ディアブルグ
妖刀・壇舎利は、遺骸を山と積み上げる宿命を持つ
これは俺の持つ妖刀なので、この程度の情報が読み取れるのは技でも何でもない。
本領を発揮するのは、他者の剣を見た時だ。
まず、手近にいたアンシッラとその右腕に隠匿された太い縫い針のような『剣』を見定める。
【剣格十等級
担い手、アンシッラ
鈍刀・皮縫い針は、裁縫用の縫い針だったが人の血を吸って刀剣の類に化けた
これも、想像できる範囲だ。『剣技』の効果でなくともわかること。
縫い針を刀剣と判定してしまうのは、俺の常識とは少し違う気もするが。
続けて、ヴィータとエズーリオはどうか。
【剣格七等級 妖刀・三日月】
担い手、ヴィータ
妖刀・三日月は、剣銘が形を表す三日月の形をした妖刀
わずかだが月の魔力を帯びる
【剣格七等級 妖刀・餓鬼包丁】
担い手、エズーリオ
妖刀・餓鬼包丁は、飢え苦しむ悪鬼が振るう肉切り包丁
担い手を飢餓に追い込み、糧を得るための闘争に駆り立てる
ごく簡単な情報だが、俺の知識や記憶にもない情報が脳裏に浮かんだ。
果たしてこれは俺の勝手な想像なのだろうか?
エズーリオは確かにいつでも腹を空かしている様子だが、剣妖部隊の食料事情の悪さからすれば、部隊の誰もが腹は空かせているのだ。
まだ、妖刀剣技の効果として意味のあるものかわからない。
では、最近になって認知したオクリスではどうだ?
長い黒髪で顔を隠すようにして眠っている姿は幽鬼のようで不気味である。そんな彼女の持つ剣とは、
【剣格九等級 名刀・曇り
担い手、オクリス
名刀・曇り眼は、ぼやけた瞳のような模様の
……これも刀身を直に見てしまえば想像の付く範囲ではある。
ただ、名刀・曇り眼は鞘にしっかりと納められていて、俺はその刀身を見たことはなかったはずだ。
あるいはどこかで、例えば剣妖部隊の詰め所にて、訓練中に見た可能性くらいならあるかもしれないが。
まだだ。まだこの妖刀剣技に確信が持てない。
少し疲れてきた。
あと一人、顔も知らない剣妖部隊の者を対象にしてみよう。
部屋の一番奥、隅っこに毛布で包まっている娘に目を凝らしてみた。
【剣格十等級 鈍刀・枝落とし】
担い手、カプラ
鈍刀・枝落としは森での活動を想定して作られた樹木剪定のための鉈
「…………」
知らない人物の名前だ。担い手カプラと診断された娘は、ほかの剣妖と比べて体格はやや大きい。
ぼさぼさの長髪に枝葉を挿して雑にまとめているのが、野生児でありながらも教養の一端を感じさせる。
眠くなってきた。
ひとまず検証はここまでか。
『妖刀剣技』。それがどの程度の技なのか。
カプラの名前が本当に当たっているのなら、俺は剣を通して相手の名前を知ることができる、ということになる。
地味だが超常の能力ではあろう。剣格がわかるのも敵の力量をあらかじめ見極めるのに役立つ。
果たしてこれが本物の能力かは、カプラの名前を確認すれば証明される。
こんな倉庫の石畳でも気持ちよさそうに寝ているアンシッラの頬を、ぺちぺちと妖刀・壇舎利の腹で叩いて起こす。
「うう……ん? ダン様ぁ……? まだ夜中ですよぉ……。お願いします、寝かせてくださいぃ……」
俺は寝ぼけるアンシッラの目をもう一度、壇舎利の腹で叩く。そしてそのまま、剣の切っ先を暫定カプラに向ける。
「いっ……痛ぁ~いぃ!! ダン様、本当に許してください……。どうしたんですかぁ。いつもなら夜中は寝つきがよろしいのに──」
ようやくまともに目を開けたアンシッラは俺が剣の切っ先を向ける相手に気が付く。
「…………? ええと……カプラさんがどうかしたんでしょうかぁ……。もしかして何か、気に入らないことが……?」
カプラ、と確かに言ったな。
それだけ聞ければ十分だ。
俺は満足そうに大きく頷いて、剣の切っ先を下ろした。
もう眠気も限界だったので、俺はすぐ眠りに落ちる。
静まり返った夜の倉庫で剣妖達が身を寄せ合って眠るなか、目を覚ましたアンシッラは一人呟いた。
「えっとぉ……。こんな深夜に叩き起こされて……なんだったんですかぁ~……うぅっ」
アンシッラの嘆きに耳を貸すものはその場にいなかった。
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