第10話 剣妖の生まれ


 剣妖の少女が三人。

 女中アンシッラ、剣妖部隊・上級隊員エズーリオ、剣妖部隊・隊長ヴィータ。

 俺は、アンシッラの背中に負ぶわれながら、三人の剣妖について考えを巡らせていた。


 三人が三人ともおそらく十代前半の年齢だ。

 年若い少女ばかりがなんだって呪われた刀剣を手にして、辺境伯軍の一部隊として働いているのか。

 少女ばかりを集めた特殊部隊の存在を知ったとき、当然ながら抱いた疑問だ。

 けれど、それは蓋を開けてみればつまらない理由だった。


 彼女らは大抵が貧しい農村部で口減らしに売られた子供達である。

 健康な男子であれば働き手として喜ばれるが、体力の低い女子は経済的に余裕のない家庭では抱えておけない事情がある。

 そうして売られた女子の多くは、裕福な家の小間使いとして雇われることが多い。


 だが、そうした真っ当な雇用先から漏れてしまった娘達は、不本意ながら体を売って稼ぐことになる。器量が良ければ、資産家に見初められることもあるだけに必ずしも不幸とはいえないのだが。 

 体を売ることを拒否したか、あるいは単にそこからも更にあぶれてしまったか。仕事に就くことのできなかった娘らが行きつく最後の雇用先が……軍の特殊部隊。ディアブルグ領では剣妖部隊と呼ばれている隊の兵士になることだった。


 通常、兵士は過酷な肉体労務であるから男性向きの仕事となる。

 女性でも特別な技能を有する者は兵士に取り立てられることも良くあるらしいが、そうした者はよほど高度な教育を受けてきた人材であり、初めから好待遇で雇われている。口減らしに売られた女子とは比較にならないのだ。

 では、ろくな教育も受けておらず、これといった技能のない娘達が兵士になるにはどうすればいいのか?

 その答えが、『剣妖』になることだった。


 ある種の力を内包した刀剣は、持ち主の身体能力を引き上げて、非力な女子でさえ一騎当千の戦士に仕立て上げる。

 これがいわゆる、妖刀・妖剣の類というやつである。

 それほど便利な武器なら、優秀な兵士に持たせたらさぞ有効に活用できるのではと思われがちだが、ここには落とし穴がある。


 妖刀・妖剣の類は『担い手』を選ぶ。相性のいい人間でないと、徹底的に持ち主の精神を蝕んで廃人にしてしまうのだ。

 優秀な兵士をそんなことで台無しにできようはずもない。

 だから、役立たずとされて他に仕事もない少女が、妖刀・妖剣の担い手に選ばれるのである。失敗して廃人になっても大きな損失にならず、担い手として適合すれば逆に強力な兵士となりうる。


 アンシッラ達三人もそのような経緯で剣妖部隊に配属されていた。

 もっとも、アンシッラに限っては剣妖としても実力不足で、仕方なく予備役として普段は領主館で雑用をやらされていた。

 本格的な作戦行動は今回が初めてのことである。


 俺は……そんな頼りないアンシッラに背負われて、危険極まりない隣国の魔窟へ侵入しようとしていた。 

 誰の企てかは知らないが、明確な殺意を感じた。

 死んでこい、と誰かが俺に言っているのだ。


 勝手なことを言う。

 俺は元より、自らの意思で死を選んだのだ。

 それを無理やり引き留めて、引きずり込んだ世界が、再び俺に死ねと?

 そのくせ俺が握る妖刀は、自刃を許さない。

 ふざけている。


 ――思い通りになど、なってやるものか。

 この世界の奴らの思惑は全て切り捨てて、俺の死を望む連中にこそ、破滅を与えてやる。




 人気のない山林を進み国境を越えて間もなく、目標とする魔窟『岩蜥蜴の産卵場』が見えてきた。


 しゃり……。しゃり……。


 赤子の俺の手の中で、血塗られた妖刀が金属の擦れるような音を鳴らした。

 真っ赤な刀身は宙をぶらぶらと揺れていて、擦り合うものは何もなかったというのに。


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