純白の眠り姫

猫月蘭夢@とあるお嬢様の元飼い猫ショコラ

漆黒のドレス、深紅の絨毯

眠い、眠れない。瞼が重い。

最後に眠れたのはいつだったっけ。

ゆるく外を見た。あぁ。今晩も月が綺麗だな、と。同時に眠れないだろうと思った。

背後から、コツコツと足音がする。


「やぁ、お姫様。今晩はよく眠れるかな?眠れないなら子守唄でも歌ってあげようか?もちろん君以外に歌うだなんて真似をするなら聞いた奴らを全員黙らせるけど」


振り返ると、いつも通り薄っぺらい笑顔を浮かべた男が立っている。ニヤニヤとした表情、エスコートするかのような仕草。

その、顔も、声も、仕草も、全てが神経を逆撫でする感覚。

体の底から冷えていく気がする。

嫌になって月を見上げた。


「何がよく眠れるかな、よ。眠らせられるかなの間違いでしょう」


そう吐き捨てながら月を見続ける。…………月しか、見たくなかった。

私の手のひらには爪が食い込んでいた。

私の住む城には分厚いカーテンで遮られた大きな窓がある。

いつも、夜になるとカーテンを開いて空を見る。

見上げる月はいつも綺麗。今日は満月の日。


「おぉ、そう怒らないでおくれ姫よ。……さて、と。お姫様よ。あなたに依頼が来ている。受けてくれるね?」


あぁ、今夜も狩りをするのか。

私は月を見上げるのをやめた。そして彼に振り返った。


「ええ。資料をもらえる?」


彼は薄っぺらい笑顔から、綺麗に整えられた笑顔に変わった。

恭しくうやうやしく、丁寧な、芝居がかった礼をして、彼は言う。


「ありがとうございます、血塗れ姫殿」


私の背後から月光が差し込む。

光によって、余計に彼の薄気味悪い笑顔が強調されて見えた。

私は嫌になって瞳を閉じた。

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純白の眠り姫 猫月蘭夢@とあるお嬢様の元飼い猫ショコラ @NekotukiRmune

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