夜の粒をポケットに
夕立のあとに
雲の切れ間から照る。
胞衣山に虹が架かる。
笠置山に日が沈むと、
欝金色のひろがりは紫の絽をまとひ始め、
僕は空氣の一人になり、
南に彩りのアーチを作るマーブルの粒を
一粒づつ、透きとおつたポケットに入れる。
同じやうな子供達が忍び笑ひをするけれども、
それは通じ合つた物同士が密かに交はすeyes.
宵闇が兩腕をひろげる。
風雨にさらされた雜木林は輝きを増し、
やがて夜に溶け出すと、星が瞬く。
星は、
この大地をのぞき見するための節穴ではないかと思ふ。
天幕の向かう側から僕たちを見た。
國道十九號線は蛇のやうにうねり、田畑を圍む。
その中を中央線が横斷し、
僕がしやがんでゐる棚田の一番下、
トンネルに吸ひこまれる。
漆黒の地を汽車が黒い煙を吐きながら走ると、
トンネルの前で客が窓を閉めた。
車のヘッドライトが反射して、ここだよ、ここだよ、
と窓ガラスは僕を呼びながら、隧道に向かつていく。
天は紗、汽車の煙を呼び寄せてゐる。
今度は煙の一粒になり空から僕自身を眺めた。
棚田のてつぺんの半鐘と、
いつの時代からあるのか、丸くなつた墓石がいくつか、
その奧には針葉樹の森がシルエツトを作り、
眞下には、生活を走る車の排氣ガスが
仲間となつて僕の側にのぼる。
隣のお嫁さんは働き者で、田畑の土手は必ずいつも、
芝生のやうに刈り揃へる、
いつのまにかそこへ降りてきた。
汽車の窓は物言ひたげにてん滅する。
車から汽車の窓へ、次に僕の目へと旅する光。
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