第10話「第二のエモクリ、雷鳴と共に」


黒い雷が、学校の上空を切り裂いた。


「あれは...」


ランゲルが浮遊している。

いや、違う。前に会った時とは、オーラが全然違う。


金色に輝くバインドライオンが、威風堂々と吼える。

「ガオオオオ!正義の雷よ、悪を裁け!」


「来い、ウィッシャーたち」


ランゲルの声が響く。


「最後の試練だ」


最後?

どういう意味だろう。


「罠かもしれない」


レイが警戒する。


でも、ランゲルの瞳は真っ直ぐだった。

もう、ナイトメア団の幹部じゃない。


「私は君たちの力を試したい」


杖を地面に突き立てる。

瞬間、学校全体が巨大な闘技場に変貌した。


「なんだこれ!」


タケルが驚く。


床が大理石になり、観客席が現れる。

まるで古代ローマのコロッセオ。


「『法廷闘技場』」


ランゲルが説明する。


「ここでは、正々堂々とした戦いのみが許される」


つまり、罠も騙し合いもない。

純粋な力と力のぶつかり合い。


「受けて立つ!」


私は願いブックを構える。

9個の願珠が、激しく輝き始めた。


『エモーション・クリスタル生成準備』

『必要願珠:10個』

『現在:9個』


あと一個。

この戦いで、10個目を手に入れる。


「行くぞ」


ランゲルが構える。

バインドライオンの全身に、金色の稲妻が走る。


「『ダーク・ジャッジメント』改め――」


空気が震えた。


「『ライトニング・ジャッジメント』!」


金色の雷が、まっすぐ降り注ぐ。

避ける間もない。


ドゴォォォン!


「きゃあああ!」


でも、痛くない。

見ると、ユイのブレイブラビットが巨大な盾を作っていた。


「私も...強くなったから!」


ユイの勇気ゲージがMAX。

■■■■■■■■■■ (10/10)


そうだ。

みんな、成長している。


「俺も行くぜ!」


タケルのブレイズドラゴンが、青白い炎を噴く。

怒りじゃない。正義の炎だ。


「データ分析完了」


レイが冷静に指示を出す。


「彼の雷は0.3秒の溜めがある。そこが隙」


息ぴったりのチームワーク。

これが、今までの冒険で培った絆。


「でも、まだ足りない」


ランゲルが不敵に笑う。


「見せてみろ。君たちの『トリプル・シンクロ』を」


トリプル・シンクロ?

聞いたことない技だ。


「知らないのか?」


ランゲルが杖を回す。


「3人以上の感情が完全に同調した時に生まれる、究極の合体技」


3人以上...

私、ユイ、タケル、レイ。

4人いる。


でも、どうやって?


「ヒントをやろう」


バインドライオンが、3つに分身した。

それぞれが違う色に光る。


金色、銀色、銅色。


「これは...」


レイが気づく。


「感情の序列じゃない。役割だ」


金色=リーダー

銀色=サポート

銅色=アタッカー


なるほど。

でも、誰がどの役割を?


「考えてる暇はないぞ」


3体のライオンが、同時に襲いかかる。


「散れ!」


みんなバラバラに逃げる。

でも、これじゃシンクロなんて――


その時、ソウタの声が頭に響いた。


『役割なんて、決める必要ない』


屋上から、透明な光が降り注ぐ。

ニューホープが、精一杯の応援をしてくれている。


『みんな違って、みんないい』


そうか。

無理に合わせる必要なんてない。


「みんな!」


私は叫んだ。


「自分の一番得意なことをして!」


ユイが守り、タケルが攻撃し、レイが分析する。

そして私は――繋ぐ。


みんなの感情を、願いブックで繋ぐ。


『トリプル・シンクロ準備完了』

『さらに上位互換検出』

『クアドラプル・シンクロ可能』


4人同時!?


「やってみよう!」


全員の感情ゲージが共鳴する。

希望、勇気、知恵、信頼。

4つの光が、螺旋を描いて融合していく。


「これは...!」


ランゲルも驚いている。


4体の願いペットが、一つの巨大な存在になる。

虹色の翼を持つ、ドラゴン。

鋭い爪と、賢そうな瞳。

そして、誰も傷つけない優しさ。


『ハーモニー・ドラゴン』


調和の竜。

みんなの個性が、完璧に調和した姿。


「行け!」


『フォース・ハーモニー・ブラスト』!


4色の光線が、螺旋を描いて放たれる。

ランゲルの3体のライオンを、一瞬で浄化した。


「見事だ」


ランゲルが膝をつく。

でも、その顔は晴れやかだった。


「これで、確信した」


彼が懐から、最後の願珠を取り出す。

純白に輝く、美しい宝石。


『調和の願珠、譲渡』


「君たちになら、託せる」


10個目。

ついに、10個集まった。


願いブックが、今までにない光を放つ。

9個の願珠が、ゆっくりと浮かび上がる。


そして――


カチリ。


音を立てて、5個の願珠が一つに融合した。


『第二のエモーション・クリスタル誕生』

『感情の調和を司る石』


手のひらに、温かい結晶が生まれる。

第一のクリスタルとは違う、穏やかな光。


「これで、2個目...」


でも、達成感より不安の方が大きい。


残り3個の願珠。

そして、おそらくもう一つのエモーション・クリスタル。


最後の戦いが、近づいている。


「ランゲル、ありがとう」


「礼はいらない」


彼は立ち上がり、去ろうとする。

でも、振り返って一言。


「ノクターンに会ったら、伝えてくれ」


その瞳が、一瞬悲しげに曇る。


「まだ、遅くないと」


嵐の前の静けさ。

第二のエモーション・クリスタルを手に、私たちは次なる戦いへの準備を始める。


ハーゼルは、どこで見ているんだろう。

ソウタの過去も、まだ分からない。


そして、ノクターン。

全ての感情を捨てた男。


物語は、クライマックスへと向かっていく。

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