第4話「ナイトメア団幹部、ヴェルモット襲来!」



体育館の空気が、ピリピリと緊張に包まれている。


ナイトメア団幹部ヴェルモットと、謎の転校生ハーゼル。

二人の間に、見えない火花が散っていた。


「裏切り者が、今更何を?」


ヴェルモットの声は氷のように冷たい。

彼女の相棒、ヤミフクロウが不気味に首を360度回転させた。


「ホゥ...ホゥ...」


「私は最初から、誰の味方でもない」


ハーゼルの黒い影が、ゆらりと立ち上がる。

竜のような、いや、もっと恐ろしい何かの形。


私とユイは、依存の呪いで繋がれたまま動けない。

手を離したくても離せない。

お互いの不安が増幅されて、苦しい。


「ミラ...」

「大丈夫、きっと何とかなる」


でも正直、心臓がバクバクしている。

ヴェルモットの圧倒的な威圧感。

これが、ナイトメア団の実力。


「つまらない茶番ね」


ヴェルモットがマントを翻す。

瞬間、体育館全体が歪み始めた。


ゴゴゴゴゴ...


壁が黒く染まり、天井に巨大な目玉が浮かび上がる。

床は沼のようにドロドロと溶けていく。


「な、なにこれ!」


「ナイトメア・フィールド」


ハーゼルが説明する。


「相手の精神世界を悪夢に変える、ヴェルモットの得意技よ」


みるみるうちに、学校が黒い城へと変貌していく。

壁には無数の目玉。

天井からは黒い触手がうねうねと垂れ下がっている。


そして何より恐ろしいのは――


「あれ...私たちのクラスメイト!?」


黒い檻の中に、たくさんの生徒が閉じ込められていた。

みんな目が虚ろで、まるで魂を抜かれたみたい。


「彼らの願いペットは、既に私のものよ」


ヴェルモットが不気味に微笑む。


「さあ、出てきなさい」


彼女が指を鳴らすと、クラスメイトたちの体から黒い影が抜け出してきた。

それぞれの願いペットが、黒珠化している。


委員長の青いフクロウは、ヤミフクロウの手下に。

健太の炎トカゲは、黒い炎を吐く魔獣に。

みんなの願いが、悪夢に染まっていく。


「ひどい...」


「これが依存の呪いの本当の恐ろしさよ」


ヴェルモットが勝ち誇ったように語る。


「人は誰かに依存する。友情、愛情、信頼...

その全てが、弱点になる」


黒珠化した願いペットたちが、一斉に襲いかかってきた。


「ピルル!」

「プー!」


ミラクルバードとよわむしウサギが応戦するけど、数が多すぎる。

しかも、私とユイは依存の呪いで動けない。


「どうしよう...このままじゃ...」


そのとき、願いブックに新しい表示が現れた。


『緊急スキル:呪い反転』

『条件:信頼度100%で発動可能』


信頼度100%...?


ユイと目が合った。

彼女も同じことを考えているみたい。


「ねえ、ユイ」

「うん、ミラ」


二人同時に、深呼吸。


「この呪い、逆に利用しよう」


「え?」


「だって、繋がってるってことは...」


私たちは同時に微笑んだ。


「「力も2倍ってこと!」」


依存の呪いで繋がれた手を、逆にギュッと握りしめる。

不安じゃなくて、信頼を流し込む。


願いブックが激しく光った。


```

【信頼ゲージ】

ミラ&ユイ ■■■■■■■■■■ (MAX!)

呪い反転、発動!

```


黒い糸が、金色と白色に変化していく。

呪いが、絆の力に変わった!


「なに!?」


ヴェルモットが初めて動揺する。


「ありえない...依存の呪いが...」


「依存じゃないよ」


私は胸を張って言った。


「これは信頼!一人じゃできないことも、二人ならできる!」


ミラクルバードとよわむしウサギが、再び光に包まれる。

でも今度は、シンクロ・バーストとは違う。


それぞれが独立したまま、力を増幅させている。


「ダブル・ブースト!」


二匹の願いペットが、息ぴったりに動き始めた。

ミラクルバードが上空から虹の雨を降らせ、

よわむしウサギが地上から勇気の衝撃波を放つ。


黒珠化した願いペットたちが、次々と浄化されていく。


「く...たかが子供が!」


ヴェルモットの顔が怒りに歪む。


「ヤミフクロウ!本気を出しなさい!」


「ホゥゥゥゥ!」


巨大な黒いフクロウが、翼を大きく広げた。

その翼から、無数の黒い羽が矢のように飛んでくる。


『ダークフェザー・ストーム!』


「危ない!」


でも、予想外の人物が前に出た。


「その攻撃、私が受ける」


ハーゼル!


彼女の黒い影が、巨大な盾となって攻撃を防ぐ。

黒い羽が次々と影に吸い込まれていく。


「なぜ...」


「言ったでしょ。私は誰の味方でもない」


ハーゼルが振り返る。

その瞳に、複雑な感情が宿っていた。


「でも...面白いものを見せてもらった。

呪いを信頼に変えるなんて」


彼女の口元が、かすかに緩む。


「ハーゼル...」


「勘違いしないで。借りは返しただけ」


ツンデレか!


でも、今は突っ込んでる場合じゃない。

ヴェルモットの怒りが頂点に達している。


「ふざけるな!全員まとめて消してやる!」


ヤミフクロウが恐ろしい姿に変貌する。

体が3倍に膨れ上がり、目が真っ赤に光る。


『最終形態:ナイトメア・オウル!』


圧倒的な闇のオーラ。

体育館の悪夢空間が、さらに禍々しくなっていく。


でも、私は怖くなかった。

ユイがいる。ミラクルバードがいる。

そして今は、ハーゼルも。


「みんな、力を合わせよう!」


願いブックが新たな光を放つ。


『トリプル・リンク可能!』

『信頼の輪、拡大中...』


「ハーゼル、手を!」


差し出した手に、一瞬の躊躇。

でも彼女は、そっと手を重ねてきた。


三人の感情が繋がる。

希望、勇気、そして...孤独?


ハーゼルの心に、深い闇と小さな光を感じた。


「行くよ!」


三人の願いペットが、それぞれの光を放つ。

虹、白、黒の三色が螺旋を描いて上昇する。


『トリプル・トラスト・ブレイク!』


三つの光が一点に集束し、ナイトメア・オウルに向かって放たれた。


ズドォォォォォン!


光と闇がぶつかり合い、体育館が激しく振動する。


「グォォォォ!」


ナイトメア・オウルが苦しみの声を上げる。

その巨体に、大きなヒビが入っていく。


「今だ!」


最後の一撃。

三人の想いを込めて――


「「「信頼の光!」」」


眩い閃光が、悪夢の世界を貫いた。


パリン!


ガラスが割れるような音と共に、ナイトメア・フィールドが崩壊する。

体育館が元の姿に戻っていく。


ヤミフクロウも、元の大きさに縮んでいた。


「ホゥ...ホゥ...」


その鳴き声が、どこか寂しげに聞こえる。


「負けた...」


ヴェルモットが膝をつく。

でも、その表情は不思議と穏やかだった。


「そうか...信頼、か...」


小さく呟いて、彼女は闇に溶けるように消えていった。

ヤミフクロウも、主人を追うように姿を消す。


カラン。


床に転がったのは、青く輝く宝石。


『信頼の願珠、獲得』

『トリプル・リンク経験値:+500』

『仲間との絆、深化』


四つ目の願珠を手に取る。

今までで一番、重みを感じる願珠だった。


「やった...勝った...」


緊張が解けて、その場にへたり込む。

ユイも同じように座り込んだ。


でも、ハーゼルは立ったまま。


「ありがとう、ハーゼル」


「...別に」


そっぽを向いてしまった。

でも、耳が少し赤い。


「あの、ハーゼル」


ユイが恐る恐る声をかける。


「これからも...一緒に戦ってくれる?」


長い沈黙。

ハーゼルの黒い影が、ゆらゆらと揺れている。


「...考えておく」


それだけ言って、彼女は体育館を出て行った。


でも、最後に見えた横顔は

少しだけ、微笑んでいたような気がした。


四つの願珠が、手の中で優しく共鳴している。

友情、勇気、愛情、信頼。


でも、まだ9個も残ってる。

そして、ナイトメア団の本当の狙いも分からない。


窓の外を見ると、夕焼けが町を赤く染めていた。

その空に浮かぶ12の光が、少しずつ大きくなっているような...


嵐は、まだ始まったばかりだ。


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