第2話「エモ・オーバーロード!制御不能バトル」



朝の日差しが、教室に差し込む。

昨日の戦いがまるで夢だったみたいに、みんな普通に授業を受けている。


でも、私にははっきり見える。

委員長の頭上で青いフクロウが本を読んでいる姿が。

健太の炎トカゲが、退屈そうにあくびをしている姿が。


そして――


「ピルル〜!今日も元気いっぱいピル!」


私の相棒、ミラクルバードが虹色の羽をパタパタさせている。


「ミラ、聞いてる?」


隣の席のハーゼルが、不思議そうに私を見つめていた。


「あ、うん」


「ふーん。願いペットと会話してたのね」


彼女の頭上の黒い影が、ゆらりと揺れる。

相変わらず不気味だ。


休み時間になると、私は願いブックを取り出した。

画面には昨日と同じ感情ゲージが表示されている。


```

【感情ステータス】

希望 ■■■■■■□□□□ (6/10) 金色

勇気 ■■■□□□□□□□ (3/10) 赤色

不安 ■■□□□□□□□□ (2/10) 紫色

```


「昨日より希望が増えてる!」


「当然ピル!ミラが願珠を手に入れたからピル!」


ミラクルバードが得意げに胸を張る。


「でも、なんか体がムズムズするピル...」


「え?大丈夫?」


心配になって手を伸ばすと――


ビリッ!


金色の電撃が走った。


「痛っ!」


「ピルル!?なんか力が溢れてくるピル!」


ミラクルバードの体が、金色に輝き始めた。

どんどん光が強くなっていく。


ハーゼルが立ち上がった。


「まずいわ。感情ゲージの暴走よ」


「暴走!?」


「初心者にありがちなミス。感情が高まりすぎると――」


ドカーン!


教室の天井を突き破って、巨大な光の柱が立ち昇った。


「ピルルルル!!」


ミラクルバードの体が、みるみる巨大化していく。

1メートル、2メートル、3メートル――


「きゃあああ!」

「な、なんだあれ!」

「鳥?でかい鳥が!」


クラス中がパニックになった。

今度はみんなにも見えているらしい。


巨大化したミラクルバードが、金色の光を放射し始めた。

机が吹き飛び、窓ガラスが粉々に砕ける。


「止めて!ミラクルバード!」


でも、私の声は届かない。

瞳が金色に染まり、自我を失っているようだ。


願いブックを見ると、希望ゲージが異常な数値を示していた。


```

【警告!エモ・オーバーロード!】

希望 ■■■■■■■■■■■■■■■ (15/10)

※限界突破!制御不能!

```


「15!?MAXを超えてる!」


「希望が強すぎるのよ」


ハーゼルが冷静に分析する。


「願いペットは持ち主の感情と直結している。

感情が暴走すれば、ペットも暴走する」


「じゃあ、どうすれば!」


「簡単よ。感情を抑えればいい」


簡単って言うけど――


ゴゴゴゴゴ!


校舎全体が揺れ始めた。

巨大化したミラクルバードが、翼を広げて飛び立とうとしている。


このままじゃ、学校が壊れちゃう!


「落ち着いて、ミラクルバード!」


必死に呼びかけるけど、効果なし。

むしろ金色の光がさらに強くなった。


「ダメだ...私の希望が強すぎて...」


そのとき、親友のユイが駆け寄ってきた。


「ミラ!大丈夫!?」


「ユイ!危ない、離れて!」


でも彼女は首を振った。


「ミラが困ってるなら、助けたい」


ユイの頭上で、小さな白いウサギが震えている。

長い耳を垂らして、今にも泣きそうだ。


「こ、こわいけど...がんばるプー」


勇気を振り絞るように、小さなウサギが前に出た。


瞬間、私の願いブックに新しい表示が現れた。


『感情バランサー機能、解放』

『他者の感情を取り込み、バランスを調整可能』


「これだ!」


「ユイ、手を握って!」


彼女の手を握った瞬間、不思議な感覚が流れ込んできた。

ユイの不安、でもそれ以上に強い友情の想い。


```

【感情ステータス更新】

希望 ■■■■■■■■□□ (8/10)

勇気 ■■■■□□□□□□ (4/10)

不安 ■■■■■□□□□□ (5/10)

※バランス調整中...

```


希望ゲージが少しずつ下がっていく。

代わりに、不安と勇気が適度に上昇した。


「ピル...ピルル?」


巨大化していたミラクルバードが、少しずつ縮み始めた。

金色の光も柔らかくなっていく。


「よかった...」


でも安心したのも束の間。

今度は別の異変が起きた。


ブォォォン!


教室に赤い炎が吹き荒れる。

健太の炎トカゲが、怒りで燃え上がっていた。


「ギャオオオ!」


「俺の感情も...暴走してる!」


健太が頭を抱える。

怒りゲージがMAXを振り切っていた。


「連鎖反応ね」


ハーゼルがため息をつく。


「一人の感情暴走は、周囲にも影響を与える。

これがエモ・パンデミックの始まり」


次々とクラスメイトの願いペットが暴走し始めた。

委員長の青いフクロウは知識の光を乱射。

大人しい子のカメは、巨大な甲羅で教室を押しつぶそうとする。


まるで感情の嵐が吹き荒れているようだ。


「どうしよう...私のせいで...」


落ち込みかけた、そのとき。


「素人ね」


ハーゼルの冷たい声。


「感情は抑えるものじゃない。受け入れて、導くものよ」


彼女がスッと手を上げる。

頭上の黒い影が、不思議な動きを始めた。


黒い波動が教室中に広がっていく。

でも、攻撃じゃない。

まるで荒れ狂う海を鎮めるような、穏やかな波。


「これは...」


「感情中和。私の得意技よ」


暴走していた願いペットたちが、少しずつ落ち着いていく。

炎トカゲの炎が小さくなり、青いフクロウが本を抱えて眠り始めた。


すごい。

でも同時に、ハーゼルの力の恐ろしさも感じた。


「ありがとう、ハーゼル」


「礼はいらない。ただ...」


彼女の瞳が、一瞬だけ優しくなった。


「感情は武器にも、呪いにもなる。

それを忘れないで」


教室が静まり返った。

みんな呆然としている中、私は願いブックを見つめた。


『エモ・オーバーロード経験値:+200』

『新スキル習得:感情制御Lv.1』

『次の願珠まで、あと100ポイント』


そして、床にコロンと転がったのは――


『勇気の願珠、獲得』


赤く輝く宝石。

暴走を乗り越えた証。


「2個目ピル!」


元の大きさに戻ったミラクルバードが、嬉しそうに羽ばたく。


「でも、もう暴走はごめんピル...」


「うん、私も気をつける」


手の中で、2つの願珠が共鳴するように輝いた。

友情の願珠と、勇気の願珠。


残り11個。


窓の外を見上げると、空に浮かぶ光の輪が、少しだけ明るくなったような気がした。


でも同時に、不安も募る。

もし次に暴走したら、今度こそ止められないかもしれない。


「大丈夫よ」


ユイが優しく微笑んだ。


「ミラは一人じゃない。私たちがいるから」


彼女の白いウサギが、勇敢に胸を張る。


「そうプー!みんなで力を合わせるプー!」


そうだ。

一人で抱え込む必要はない。


みんなの願いペットが、それぞれの色で輝いている。

この子たちと一緒なら、きっと――


ゴゴゴゴゴ...


遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。


「まさか...」


ハーゼルの顔が青ざめる。


「ナイトメア団が動き出した」


彼女の黒い影が、警戒するように身構えた。


嵐の前の静けさ。

本当の戦いは、これからだ。


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